↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄執世界のアリス  作者: 千里万里
第一部 夢見るアリス
16/124

第三章その7

「で、ここでいいのか?」

「はい! そうです! ここです!」

 さっきまでとは裏腹に、テンションが低いダルトンと、逆にテンションが高いナユタ。

 ダルトンに案内してもらってナユタがやってきたのは、昨晩まで働いていた酒場の前だった。

「どうしてこんな所に? 昨日までいた場所じゃないか」

「騒ぎのどさくさに紛れて黙って出てきちゃったじゃないですか。心配しているかもって思って」

「はあ……律儀な事で……俺は外で待ってるから、一人で行ってこい」

「解りました。じゃあ行ってきます」

「ああ、そうだ。ここの主人には俺の正体は秘密になっているからな。領主だって事はバラすなよ」

「はい、ダルトン様」

「それと二人の時は様付けはよせ、ダルトンさんでいい。堅苦しいのは嫌いだからな」

「はあ……解りました、ダルトン……さん」

「ああ、それでいい。じゃあ行ってこい」

「言われなくても行ってきますよ」

「全く……どうして昼間から酒場なんかに来ないといけないんだ? 酒が飲めるわけでもないのに」

「………」

 それが不機嫌の理由だったらしい。

 半ば呆れながらも、ナユタは一人、酒場のドアを開ける。

 店内はまだ時間が早いせいか、閑散としていた。

「おう、いらっしゃい! ……ってナユタちゃんじゃないか」

「あっ! き、昨日はごめんなさい……! 何だか私のせいで大騒ぎになったみたいで……」

 ナユタは深々と頭を下げるが、店主はいいよいいよと手を振る。

「なあに。あれくらいの騒ぎ、ここじゃ日常茶飯事だって。それより、いつの間にかいなくなるから、心配したんだよ?」

「あう……ご、ごめんなさい……」

「で、戻ってきたって事はまたここで働いてくれるのかい?」

「そ、その事なんですけど……実はダルトンさんの所で働かせてもらう事になりまして……」

「ダルトンの所で?」

「は、はい……」

「あいつ、確か旅の傭兵だって言ってたような……ナユタちゃんはどんな仕事をするんだい? そんなメイドみたいな格好で? それはあいつの趣味かい……?」

「………」

 旅の傭兵?

 あんたは領主でしょうが! なんて誤魔化し方してくれてんのよ!

 と、今すぐ外に出てダルトンを罵り蹴飛ばしてやりたくなったが、残念ながらそれは想像の中だけで実行するに留める。

 しかし空想のダルトン相手に憂さ晴らしをしたところで、そうそう都合のいい言い訳が浮かぶはずもない。

「え、えっと……それは……」

「まあいいや。あいつも悪い奴じゃないみたいだし。あいつの所が嫌になったら、またうちで働けばいいよ」

「あははははは……ありがとうございます……」

 店主の優しさと気遣いに申し訳なさを感じて、ナユタは乾いた笑いを浮かべる。

「じゃあ私、用事があるから今日はこれで失礼します」

「ああ、今度は客でおいでよ!」

「はい! そうさせてもらいます!」

 ナユタは元気よく返事をして酒場を出る。

 外ではダルトンが腕組みして壁にもたれかかって立っていた。

「話は終わったか」

「………」

「ん? どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」

「旅の傭兵……」

 言われてみると、確かにダルトンの服装はそれっぽい。

「ああ、それか。領主が酒場に入り浸っているなんて体裁が良くないからな。周りがうるさいし。主にドロシーが」

「ところで、どうして旅の傭兵なんですか?」

「格好いいだろ、己の剣の腕だけを頼りに、誰にも縛られず自由に生きてる感じで」

「はあ……」

「ナユタには解らんか。漢のロマンは」

「解らなくていいです」

 領主であるダルトンにはやはり、田舎娘であるナユタには解らない苦労があると同時に、解らないし解らなくていいセンスの違いもあるらしい。

「まあいい。俺が領主だってのはバレなかっただろうな?」

「ええ、まあ……」

「よし、それならいい。次はどこに行こうか?」

 ダルトンは尋ねながら、その足はさっさと歩き出している。

 とことこと付いて歩きながら、ナユタは呟く。

「でも……きっとバレてるんだろうな……」

 領主かどうかはともかく、旅の傭兵という嘘はバレているだろう。

 でなければナユタを行かせるはずがない。

「ん? 今、何か言ったか?」

「いーえー、ただのひとりごとですー」

 返事をしながら、ナユタは店主の配慮にこっそりと感謝するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。