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主力とそれ以外の差

 大宮との試合は後半に入った。相変わらず剣崎は前線でそびえ立っていたが、ここまでノーゴールが続いていることにストレスを溜めていた。


「『パス出せ』ってオーラがまがまがしいな・・・。しょうがねえの」

 後半から小宮に代わって出場した栗栖は、そう苦笑いを浮かべながら、縦パスを送る。受けたのは同じく竹内と交代出場の櫻井。櫻井はそのパスの意図を察してぼやく。

「も〜。そんなに決めたいなら、自分もドリブルすりゃいいじゃ〜ん」


 しかし、櫻井も何だかんだで短い時間で結果を残す。剣崎にマークを集中させる相手DFを嘲笑うように、トリッキーなドリブルとつかみどころのないボールキープで、次第に焦らして一人を釣り出す。

「これで十分でしょ」


 ほんの少しのマークのずれ。そこにスポッと通したラストパス。剣崎はうさを晴らすように、至近距離から豪快なシュートを叩き込んだ。

「だぁーすっきりしたぜ!ナイスパスだサク!」

「どーもどーも。次は僕に決めさせてくれよ〜?」

「ああ?まだだよ。トシが2点とってるから、せめてもう一点とってからだ。そのあとなら助けてやるぜ」

「え〜?なんだそれ〜」

 子供のようにはしゃぐ剣崎とぐずる櫻井。しかし、この相手FWのやり取りは、守っている方からすれば面白くないことこの上ない。ただ、同時にこうも思っていた。

(このチームのFWとはやりたくねえ・・・)


 結局この試合は、剣崎が宣言通りさらに1点を奪い、終盤にカウンターから失点したものの4-1と快勝。サウスカップを三戦全勝と仕上がりの差を見せつけたのであった。

「やっぱヒデとチヒロがしっかりフィットしてくれてるんで、その分前の俺たちも点を取らないわけにはいかないし、俺の仕事はそういうところなんでね。もっと前線で暴れて後ろを楽にできればいいなと思ってるっス」

 試合後の剣崎は、チームの出来と自信に求められているものをそう口にした。


 その日の宿舎。食事を終えた若手選手たちが部屋に戻る途中、剣崎たちが話題になった。

「なんつーか・・・あの人たちはマジで化け物だよ。あんなプレー見せられると勝てる気しねえっすよ」

 そう肩を落とすのは、高卒2年目の村田一志。1年目はまずまず出場機会を得てゴールも決めてみせたが、改めて日本代表の常連となった剣崎たちの凄みに、すっかり滅入っていた。

「おいおい、今更愚痴んなよイチ。それを承知でうちに来たんだろ?」

「まあそうなんすけど・・・。スドさんはユースで被ってたんでしょ?昔からあんなんだったんすか?」

 村田と歩いていた須藤は、慰めているとそう話をふられた。

「そうだなあ・・・。ザキさんはとにかく点を取ったし、トシさんは何でもできたしなあ。正直『技盗めるレベルじゃねえ』って何度も思ったな。実際、俺もユースじゃ得点王になってたし、和歌山以外にもオファーあったけどな」

「マジっすか?でもなんで、和歌山に残ったんすか?」

「まあ・・・。変な言い方だけど『惚れてしまった』ってとこかな。あの人たちとプレーしてるとすげえワクワクすんだよ。今日は何をやらかしてくれるのかってな。こういうのはやっぱチームメートでないとできないさ」

「しかし、剣崎さんと竹内さん、そして櫻井さん。スタメンの道は遠いっすねえ・・・」

「ほいほい。愚痴はその辺にしとけ。でも、やれることやっとけば、このチームは必ず見ててくれてるし、使ってくれるんだから、腐る真似だけはすんなよ」


 日本代表の四人が早くも本領を発揮し、チームとしての成熟度を日に日に高めているアガーラ和歌山。視察に訪れた解説者連中からは「今年の優勝候補」と、太鼓判を押した。


 しかし一方で、松本監督の表情はさえない。というのも、今回補強された日本代表以外の選手、特に天野、小宮、近森と違って和歌山初所属の選手たちが、フィットの兆しをみせていなかったからだ。特に守備の要と期待していたエデルソンと外村の両センターバックが、4バックが基本の和歌山の守備に悪戦苦闘を続けていたのだ。

「やはり3バックでずっとやってきた選手にゃ、4バックは難しいのかねえ。まあ、すんなりいくとは思ってはなかったけどよ」

 宮脇コーチのつぶやきに、松本監督は本音を漏らす。

「まあ、急いでいるわけではないが、剣崎たちは日本代表の試合に召集される機会は増えるだろうから、あいつらがいないときのメンバー構成も重要だ。特に内海はいつうちを出ていくかがわからん。エデルソンか外村。どちらかがフィットしてくれねばなあ」

 また、FW陣の刺激となるべく獲得したイ・ジョンミョンにいたっては、コンディション自体が上がらず、試合出場の目処が立っていないのだ。小松原が広島に移ったことで、前線で潰れ役を担えるのが剣崎だけという危うい状態が続いているのである。


「なるようにしかならんが、さてどうしたものかな・・・」


 松本監督の悩みは続くのであった。


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