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現役の日本代表

「は〜っ、大したもんだぜ内海は。ほぼ完全に向こうは虚を突かれてたぜ」

 竹内の先制点を振り返り、宮脇コーチが内海のオーバーラップを称えていた。マルコスコーチも同調する。

「サイドからのクロス攻撃がウチの持ち味と浸透していたからこそでしょうが、タイミングも良かったし、何よりあいつのドリブルは上手かった。これは大きな収穫ですよ」

 そこで松本監督は、改めて内海の能力の高さをふりかえる。

「内海は統率力といい、対人戦の巧さといい、空中戦の強さといい、センターバックとしてのポテンシャルに偽りはない。だが、争奪戦が起こる理由はそれだけじゃない」

「と、いいますと?」

「あいつは攻撃におけるスキルも高いんだ。去年と一昨年、湘南がJ1で残したデータの中で、パス数もチーム1位、ドリブル、シュートでもベスト3に入っていたし、この2年間で9ゴール6アシスト。湘南じゃ一貫してセンターバックでプレーしたんだから、これがいかに『らしくない』かわかるだろ」

「・・・それに加えて、代表ではクラブでほとんどやらないボランチを、本職顔負けの展開力でそつなくこなす。いやはや、俺達はとんでもない選手を加えたんですね」

 感嘆とするマルコスコーチの呟きに、松本監督は苦笑いだった。

 続いて首脳陣の選評は、凱旋・・・というめでたい形ではないが、ともかく復帰してきた結木に向く。宮脇コーチは、結木の変貌に昔を懐かしむように言った。

「しっかしまあ、結木チヒロの奴がここまで化けるとはねえ。うちで最初にやったときはテクニックだけのもやしっ子だったのがよ。今じゃ新進気鋭の日本代表サイドバックなんだから、わかんねえもんだよな」

「まあ、弱さがあったのは確かだが、クロスの精度と安定感は持っていた。実戦を重ねれば伸びると思ったが、あの頃も右サイドは飽和状態だったもんな。竹内トシもそこが主戦場だったしな」

「それが請われる形で行った尾道では、空位だった右サイドバックにすっぽり収まってブレイク。あとはとんとん拍子だったな」

「たくましさは、どれだけ弱さと向き合って克服してきたかで決まる。スタメンの地位を与えられれば、いやでもそれに向き合わざるを得ない。そこで折れることなく、必死でポジションを守ってきたからこそのブレイクだろう。大げさだが、トップ昇格を逃したという挫折を味わっていうのも良かったんだろう。今ではフィジカルも強くなってるし、クロスの質は比べ物にならないほど磨きがかかってる。この二人が今年のうちの最終ラインに加わるんだから、頼もしいもんだ」

 松本監督の言葉に、結木への期待の大きさが感じられていた。


 その結木が前半終了間際に結果を出す。

(よし、イケる!)

 ドリブルで相手DFをふりきって、そのままアタッキングサードに攻め上がると、相手の守備が整う前にクロスを上げる。

 大きな弧を描いて、ボールはファーサイドの剣崎に届く。

(くそ!またお膳立てかよ!)

 心の中でそう愚痴りながら、剣崎はそれを頭で折り返す。竹内のもとに打ち頃のボールが渡った。慌てて大宮のセンターバックが詰め寄るが、竹内は切り返しでかわしてゴールに突き刺した。


 そして首脳陣の話は、生え抜きの2トップが題材になる。

「2ゴールか・・・。しかし、俊也もだいぶストライカーらしくなったな。単なる万能型からむけつつあるぜ」

「オリンピックや代表でFWとしての働きを求められたというのはあるだろうな。そしてその中で自分のポテンシャルに合ったストライカー像をイメージできるようになったな」

 松本監督と宮脇コーチが知るかつての竹内は、何でも出来るが故にFWなのかサイドMFなのかがはっきりしなかった。実際に数字も残しているので頼もしかったのだが、竹内自身にストライカーとしてのプライドが芽生えはじめたのは、飛び級でA代表に選出された、一昨年のアジアカップでの自信だろう。

「同じストライカーにしても、剣崎とタイプが違うのは助かるな。だが今年は今までのようにライバルらしいライバルがいなくなったから、ある意味で正念場だよな。俊也は」

「まあ、あいつに限って胡座をかくこともあるまい。それに、俺が胡座をかかせない。今シーズン、うちで俊也はFW、前線でしか使わないつもりだ。右サイドには人が集まってるからな」

 松本監督の意思を知ってか知らずか。竹内は今シーズン、よりゴールに絡み、自ら決める機会を増やすことを心に決めていた。そして、その参考にと剣崎の動きを観察していた。

(改めて見てると、やっぱこいつはすごい。大柄だから迫力あるし、それでいて俊敏だし。あとポジショニングがな・・・。いつの間にかスペースに入ってる。無意識にできてるからうらやましいよなあ)



 さて試合は前半が終了。前の2試合と同様、攻守で和歌山が上回る内容で、大宮の選手や首脳陣、キャンプ地に駆けつけたサポーターを震撼させていた。

 しかし、チームメートが手応えを感じて意気揚々と引き上げてくるなかで、剣崎だけは憮然とした表情をみせていた。理由はゴールを決められなかったことにつきる。何より相方の竹内が2点をとっている事実に、悔しくないはずがなかった。

「ちっくしょう・・・。ゴールは俺の仕事のはずなんだがなあ。なんで決めれなかったんだ?くそ」

 ただ、明確な数字を残せてはいないが、この試合の攻撃において剣崎は十分な存在感を放っていた。

「まあしかし、俊也には悪いが、うちの攻撃の軸はあいつで決まりだよな」

「ああ。昔はシュートだけだったが、今では潰れることも覚えてより頼もしくなった。最前線でそびえたってくれているから、俊也のスピードがより生きるんだ。空中戦の強さもクロスをゴールにつなげる上で重要だ。うちの戦術そのものと言ってもいいかもしれん」

「前線と最終ライン・・・活きのいい日本代表がいるうちは、優勝を狙える力がついてきたってことかな?」

 宮脇コーチの問いかけに、松本監督はあくまで冷静だ。

「そればかりはわからんさ。代表で抜けることも想定せねばならんし、たった4人で優勝を狙えるほどリーグも甘くはない。ま、狙うべきチームにするのが、俺たち首脳陣の仕事さ」

「だな」



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