現在の出来
宮崎、鹿児島、沖縄の各地域でキャンプを張るクラブ同士が戦うプレシーズンマッチ「サウスカップ」。ここ宮崎では和歌山、大宮、千葉、栃木が戦い、この日は大宮との最終戦。共に2戦2勝、勝った方がこの宮崎ステージの優勝チームとなる。
ただ、松本監督は、この試合こそ内容と結果が両立しなければならないと、試合前のミーティングで熱弁した。
「大宮は昨シーズンJ1で5位と上位に位置したが、力量的に言えばうちとほぼ同等。いや、現役の日本代表選手を抱えるうちの方が、選手の質で上回っているとも見れる。この大宮をどうできるかが、今年のうちを占うと言ってもいいだろう」
「おいおい松本監督。5位ぐらい、俺達なら軽く捻れるだろ。んなことぐらいわかってるぜ」
ふんぞり返っていた剣崎は、自信満々に言いきる。
「大した自信だな、剣崎よ。だが、実際どうなるかはわからんぞ?」
「わかるよ。俺にトシ、それにヒデとチヒロ。日本代表が四人もいるんだぜ?一人もいないチームに手こずってたらこんな情けない話はねえや。俺たちは、そういうプレーを見せなきゃダメだろ?」
松本監督の質問に、剣崎はあくまで強気に言いきる。その表情に、松本監督はフッと笑みを浮かべる。
「・・・まあ、安心した。肩書に対する使命感、責任感があることにな。なら、それ相応の結果を出してもらうぞ。言った以上はな」
「任せろってんだ!な、トシ」
「おいおい、巻き込むなよ」
剣崎にそう振られて、竹内は苦笑するが、彼もまた剣崎の言葉に反対ではない。
「だが実際、お前たち4人がいる以上、今シーズンウチは楽に戦える試合はそんなに多くない。残留争いをするレベルからは、むしろガチガチに守られて勝ち点をとるのに苦労するかもしれん。どれだけ警戒されるのかを体感するのもいいかもしれんな」
独り言のように呟いてから、松本監督はペンを手に取った。
「当分のうちのテーマは『いかにしてバイタルエリアをこじ開けるか』だ。今日の試合を通じて、それがどれだけできるのかを、しっかりと見せつけてこい」
スタメン
GK1天野大輔
DF38結木千裕
DF3内海秀人
DF50ウォルコット
DF40吉原裕也
MF2猪口太一
MF10小宮榮秦
MF15ソン・テジョン
MF7菊瀬健太
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
試合は和歌山ボールでのキックオフだった。センターサークルから、竹内が味方に蹴ったボールは、まず小宮の足元に収まる。
「ふん。あの野郎、口だけ立派になりやがって。だが言った以上責任はとれよ。俺様がおぜん立てをしてやるからなおさらな」
小宮はそうつぶやいて周りを見渡す。
「んじゃ、まずは」
そう言って右に展開する。駆けあがってきた結木は、パスを受けるとドリブルで仕掛ける。
(剣崎の奴、でかい口叩きやがって。俺まで巻き込むなっつの)
同じ現役日本代表という肩書を持つ結木は、剣崎の大言にあきれつつも、それを否定はしなかった。
(まあでも、実際それぐらいの期待というか、求められるんだしな。何かしらは見せねえと・・・な)
ソンとのワンツーを挟んでさらに攻めあがった結木は、一度ゴール前を見やる。ニアに竹内、ファーには剣崎、それぞれマークがついている。
(挨拶代わりに・・・)
結木は右足から鋭いクロスを放つ。低い弾道のそれは、竹内を狙っていた。クロスが放たれた瞬間、竹内は自分の背後の選手のポジションを見やる。
(まずはファーストシュートだ)
竹内は、クロスをヘッドで後ろにそらした。ファーの剣崎につないだのである。
「よしっ!」
それを剣崎が、走りこみながらダイレクトボレーで狙う。だが、ボールはわずかに枠を外した。
「くそっ、上がりすぎたぜ」
「上出来だよ剣崎。挨拶にしちゃ十分さ」
「でもよう、どうせならいきなりいきたかったぜ・・・」
悔しげな表情を浮かべた剣崎は、なだめた竹内にそう愚痴った。ただ、外しはしたものの、相手を警戒させるには十分だった一発。和歌山の右サイドに大宮の選手たちは警戒を強める。対して和歌山の選手たちは、あえて右サイドからの攻撃を繰り返した。
そしてこの、露骨すぎる和歌山の攻めに対して、大宮の守備陣も警戒する。和歌山の右サイドに対応しつつ、いつでもサイドチェンジに対処できるように重心を残している。
そんな大宮の守備を、小宮は嘲笑した。
「ククク。あんたらバカだな。サイド一辺倒でゴールに近づくもんかよ」
ボールを奪いに来た選手にそう言い放つと、小宮は虚を突くようなノールックパス。受けたのは、センターバックの内海。敵陣でパスをもらったということは、内海がオーバーラップを仕掛けているということだった。内海はこの後も、センターバックとは思えないぐらいの鮮やかな足さばきで、自ら仕掛けていく。これはまずいと、大宮のGKが前に出てきた。
(よし)
その動きを見て、内海はパスを出す。ボールはどフリーの竹内に渡る。竹内にとって外す方が難しいシチュエーション。軽いタッチでボールをゴールに流しこんだ。
内海の果敢なオーバーラップ、そしてバイタルエリア近辺でタメをつくる小宮の存在感に、松本監督はひとつの手応えを得る。
(よし。正面突破の手段はある程度目算が立ちそうだが、これを見て他の選手もチャレンジしてもらいたいものだな)
一方で、ゴールへの鼻息が荒い剣崎は憮然としていた。
(ちぇ。トシに先越されちまった・・・まあ、だったら尚更これで終われねえや!)
剣崎はひとつ鼻息を吹いた。




