ここに来た理由
千葉、栃木と格下クラブを一蹴した翌日。宿舎のエントランスにて、結木と内海のインタビュー収録が行われた。
何度も繰り返しているようだが、現役の日本代表、しかも若手に位置する二人であり、大型契約を蹴ってあえて和歌山を選んだという共通項を持つ。アガーラ和歌山特集として、地上波のサッカー番組が特集を組んでいたのである。
「このオフ、お二人の移籍はかなり話題になって、それこそ億単位の年俸や複数年契約が用意されたらしいですが、なぜこの和歌山というクラブを選らんだんでしょ。まずは結木選手」
進行役のサッカー解説者に振られ、結木は頷いたのちに答えた。
「まあ・・・僕の場合は辞め方がアレだったし、ちょっと普通の移籍とは違うから難しいんすけど・・・。まずは思ったよりもオファーが多かったのにビックリしたっすね」
「移籍とかは頭にはあったんですか?」
「いや、正直尾道を出る日がこんなに早くくるとは思ってなかったんで。あと・・・言い方おかしいんすけど、金のあるクラブでプレーする自分がまるで想像できなかったんで。オファーをフロントから教えられて『嘘だろ?』って感じで。でもちょっと気持ちの整理が全然つかなかったんで・・・」
「それで(移籍先が)決まるまで時間がかかったわけですね」
「元々横浜のユースでやってトップに上がれなくて、でもどうしてもサッカーしたかったんで、出雲蹴球倶楽部(島根県のアマクラブ。現在地域リーグ1部)のセレクション見つけて受けて。で、天翔杯て対戦した和歌山から声かけてもらってJリーガーになれたんすよね」
「で、その翌年には尾道に移られてますね」
「尾道は本当にいいとこだったすね。佐藤さん(前監督)とか正岡さん(元監督)には、出番をもらえて成長できましたし、林さん(前GM)には常に気をかけてもらえてすごくやりやすかった。お陰で代表に呼ばれるぐらいに変わることができたので。今の自分があるのは尾道のお陰ですね。だから・・・こういう形で出るのは、残念というかね」
「で、オファーがいろいろ、それこそAC東京やガリバー大阪と言ったACLも狙えるクラブからもあったなかで、なんで和歌山に決めたんでしょ?」
「まず真っ先に東京さんからお話をもらって、上層部さんからも直接お話もして誠意は感じたんですけど、さっきも言ったように移籍自体が僕にとって想定外だったんで、考えるも何もなかったんですよ。そんな中で周りがなんか『東京入り濃厚』っていう雰囲気があって、どんどん分かんなくなってきて。そんな時に和歌山の今石GMから連絡を頂いて」
「え?じゃあ和歌山がオファーをくれたのは結構後の方?」
「順番で言えば一番最後でしたね」
結木の告白に、解説者だけでなく内海も驚いた。
「え!?お前ほんとに急に決めたんだ」
「そう。一番ビックリした。一番考えてなかったもんよ。和歌山からオファーあるなんて。だって内海獲ろうって、ただでさえ日本代表のFWを抱える上でさ。そんな体力あるとは思ってなかったし」
目を丸くした内海に、結木は苦笑混じりに答えた。
「で、どんな電話だったんですか?」
解説者の質問に、結木は当時を振り返った。
「もう、いきなりでした。電話出たら『元気か?所属先、決まりそうか』と。で、こっちが返事する前に『ウチはいつでもいいからな』っていきなりですよ」
「すごい、まあ・・・単刀直入」
「でもなんか響きました。あと、オファーを受けた中でどこのユニフォームが似合うのか想像して見たんですよ。そしたら和歌山が一番スッと浮かんだ。古巣だったってこともあったんすけど、自分のことを気にかけてくれてるって感じが響きましたね」
「そこからは一気に決まったと」
「あの後今石GMとあって話して、すんなり決めました。東京さんにも『しっかり悩んで、納得できる決断をしてください』と言われたのでありがたかった。ただ、尾道をはじめビックリした人が多かったですがね」
最後の文言に、内海は結木の心中を察した。
(言わなくていいのにな・・・よっぽど腹に据えかねてるんだな)
「ビックリと言えば、内海選手の和歌山入りも驚きましたねえ。一番の理由はなんだったんですか」
続いて解説者は、内海に質問を始める。内海の方は、何やら照れくさそうに移籍の経緯を振り返った。
「一番・・・う〜ん、笑われるかもしれないんですけど『男が男に惚れた』というか、剣崎龍一という存在が味方としているときのサッカーを体験したかった。最後の決断の後押しになったのは、やはり剣崎の存在ですね」
「ほうほう。なかなかおもしろい理由ですねえ。ではもう初めから和歌山に行くと決めていたんですか?」
「いや、結構悩んでました。湘南に残るというのも選択肢として考えてましたし、条件面で言えば和歌山以上のクラブもありました。年齢も年齢なんで、そうそう軽々しい判断もできないんで、練習と試合のとき以外はずっと頭の中がぐるぐるしてましたね」
「まあ、Jリーガーの年齢は24歳とよく言われてますし、欧州などでは若い年代で積極的に移籍するケースが少なくないですから」
「特に僕の場合は、オリンピックに一番年上で出られたっていうのが余計悩んで。『この節目の年は大事だぞ』という思いが強くて・・・まあ、悩みましたね」
「その中で和歌山入りを決断されました。決め手はさっき言った剣崎選手の存在ですか?」
「う〜ん、ちょっと違うって言ったら矛盾するんですけど、それはあくまで魅力の一つであって。実際に今石GMお会いしたときに『いいオファーがあったら、いつでもウチを踏み台にしてくれ』って言われたんすよね。これはビックリしましたねえ」
「それはすごいですね・・・」
「これ言われたときに、ほんとにこのクラブが選手を見てるんだなって感じましたね。日本って義理人情というのが強いっていうか、移籍がまだまだネガティブに見られる。欧州とかの先進国ではより大きなクラブに行くことがステータスになってるけど、日本だと時として『裏切り』みたいに表現されることも少なくない。そんな中で前向きに考えられるというのは大きかったですね」
「ということは、ゆくゆくは海外でのプレーも考えているんですか?」
「A代表でプレーするようになっていろんな方と話することもあるんですけ、やっぱり海外を経験しているかどうかで、選手としての根幹が違うなと。別に国内でプレーしていることを否定しているんじゃなくて、考え方や価値観の幅っていうのは日本人以外の人に囲まれることで得られるんだと思ってます。やっぱりずっと代表でプレーしたいですし、行くとしたら請われる形で行きたい。それだと自然と高いレベルを求められるのでやりがいはあるでしょうしね。でも、そのためにはここで結果を残さなければいけない。それこそ高いレベルでの働きを求められてますから、和歌山でのやりがいもありますね」
そしてインタビューは、締めのコメントに入った。
「では最後に、意気込みをうかがいたいのですが、まずは結木選手」
「まあ・・・月並みですけど、少しでもチームの勝利に貢献したい、じゃないですかね。まずは。特に以前いた時と違って、今度は明確に結果を求められるので、それを出せるように頑張りたいっすね」
「続いて、内海選手」
「僕や結木、それに剣崎に竹内がいることで、和歌山は今年J1残留じゃなくて、J1優勝を求められるという感覚はありますし、来た以上はそれを目指したいと思います。一戦一戦、地に足をつけながら結果を求めて、シーズン終わった後に、みんなが喜べる順位にいたいと思います」
こうして移籍組のインタビューは終了した。その翌日、和歌山は今年の目標を定める上で試金石となりうる、大宮とのプレーシーズンマッチを戦う。




