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意気軒昂

「よっしゃ、行ってみっか!」


 尾道相手に大勝でJ1復帰後初白星を挙げた和歌山。その試合でハットトリックを決めた剣崎が、そう叫んでピッチに立った。

 まずはリーグカップのグループリーグ初戦、相手は新潟、アウェーでの試合である。


スタメン

GK25野本淳

DF32三上宗一

DF20外村貴司

DF4エデルソン

DF19寺橋和樹

MF17近森芳和

MF31前田祐樹

MF15ソン・テジョン

MF8菊瀬健太

FW9剣崎龍一

FW33村田一志


 尾道戦からスタメンを大幅に入れ替えた和歌山は、この新潟には竹内、内海はベンチにも入れず、若手主体で臨んだ。

 前半は、目覚めた剣崎のワンマンショーだった。開始早々、左サイドを突破した菊瀬の折り返しをダイレクトでねじ込むと、前田のフリーキックを頭で折り返して村田のゴールをアシスト。ハーフタイム直前には、近森からのロングパスに、真っ先に反応。DFラインの裏に抜け出した。キーパーとの一対一もあっさりかわした剣崎が、前半の3得点に全て絡み、日本代表のエースとしての力量を存分に発揮した。

「え~。連続ハットやりてえのにお役御免?」

「点を取ったら代えるという約束だったろうが。使いたい選手はお前だけじゃないんだよ」

 ハーフタイムには、剣崎と松本監督の間でこんなやり取りがあったが、後半になっても和歌山の破壊力は健在だ。その剣崎と代わって出場した須藤が、さっそくゴールを決めると、その後新潟の意地に屈して1点を返されたものの、菊瀬に代わって途中出場の緒方のクロスを、同じく途中出場の猪口が飛び込んでネットを揺らして5-1と快勝した。


 そして問題のリーグ戦。第4戦は二戦連続のホームゲームで、今度は鳥栖を迎え撃った。


GK1天野大輔

DF38結木千裕

DF3内海秀人

DF20外村貴司

DF19寺橋和樹

MF7栗栖将人

MF10小宮榮秦

MF46脇坂レイモンド

MF8菊瀬健太

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


 日本代表4人をはじめ、今シーズンのベストメンバーと言える布陣で臨んだ和歌山。しかし、対戦する鳥栖は2トップを軸とした和歌山の破壊力を警戒し、かなり守備的な作戦をとっていた。3バックのうち、剣崎と竹内には、それぞれ対人戦に強みを持つセンターバックを一人ずつ当て、残った一人が遊撃的にフォローする形をとった。そしてなるべく中央のエリアに人数をかけ、サイドで崩されてもバイタルエリアで仕事をさせないようにした。こうされると、和歌山の攻撃はある程度軽減できる。

 しかし、それを打破したのは、脇坂と結木の右サイドだった。

「へいっ!」

「よしゴーゴー!」

 仕掛けてきた結木のボールを受けて、脇坂はすかさずワンツーパス。抜け出した結木は、得意のオーバーラップで一気に攻めあがり、自慢の高速クロスを放つ。

 あるいはボールを持った脇坂が、じわじわと中央にドリブルし、相手を誘い出して一気に切り返す。この二人がチャンスを生み出し、次第に鳥栖の守備がずれ始める。そして前半43分だった。

「うらっ!!」

 結木の鋭いクロス。鳥栖のDFがなんとかヘディングで跳ね返すが、そのセカンドボールを小宮が拾う。

「人がいりゃいいってもんじゃねえだろ?」

 虚を突いた小宮のループ。キーパーは何とかパンチングで跳ね返すが、弱弱しいボールを拾った剣崎が右足を振り抜く。これは相手に当たって跳ね返ったが、そのこぼれ球に走りこんできたのは、センターバックの内海。ペナルティーエリアの外からの強烈なミドルシュートが、地を這ってゴールネットを揺らした。


 後半、鳥栖は剣崎に勝るとも劣らない、絶対的エース・豊倉の馬力を押し出して反撃に転じる。こういう展開は、和歌山としては渡りに船であったが、最終ラインに絶対的な存在がいなかった昨年までは、取ったり取られたりの不安定なゲーム展開に陥ることがほとんどだった。

 だが今年は違う。豊倉の圧力を、内海が見事なまでに防いだのだ。天野の落ち着いたコーチングもあって、鳥栖の攻撃を単発で終わらせることに成功。徐々に優位に試合を進めると、栗栖のパスカットからカウンター。右サイドに展開し、最後は結木の折り返しを、ニアサイドの竹内がスライディングで押し込み追加点を挙げる。とどめはまたも結木のクロスを、今度はファーサイドの剣崎が頭で叩き込んで計3得点。松本監督は小宮に代えて猪口、栗栖に代えてウォルコット、寺橋に代えて辛島と着々と守備を固めシャットアウトに成功。リーグ戦の星を五分に戻したのであった。


「DFとしては無失点で終われたことが何よりうれしいですし、こんなに早く移籍後初ゴールを挙げられるとは思ってもなかったので、今日は、名刺代わりとしては最高の一日にできたと思います」

 お立ち台でそう語った内海に、万雷の拍手が注ぐ。

「やっぱり、自分のクロスを確実にゴールにつなげてくれる選手がいるので、思い切って上がれるし、そのかいもありますからね。今度は紀三井寺で、ちゃんと勝ちに貢献できるように今後も頑張ります!」

 同じく初のお立ち台の結木も、笑みを見せながらそう叫んだ。


 その翌日に、W杯アジア最終予選のメンバーが発表。和歌山の四人が順当に選ばれたのであった。

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