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いざ初勝利へ

 2年ぶりに帰ってきたJ1。その出足は、開幕連敗とつまづいた感があるアガーラ和歌山。松本監督が掲げた「開幕5試合で勝ち点8」という目標を達成するには、3連勝をする以外になくなった。そもそもJ1残留の指標とされる勝ち点5を得るにも1勝2分けか2勝しか選択がないのだから、空気はどこか重くなりがちだ。しかし、練習中の選手たちに追い込まれたような悲壮感はまるでなかった。


「マークずれてるぞ!DF、もっと声かけろ!」

「へいへい!こっち出せこっちぃ!」


 選手たちの声が響く練習場。そこにあるのは次戦への集中力だけだ。


「やってることは基礎練ばっかりだけど・・・みんな強度高いですね」

「ああ。まるで試合そのものだな。スライディングもタックルも本気だ」

 Jリーグを専門に扱うスポーツ紙「Jペーパー」の和歌山番、浜田記者のつぶやきに、アガーラ和歌山のオフィシャルライターの玉川が同調した。

「特に、今年は守備陣の空気が明らかに違う。やっぱ日本代表効果かな」

「と言いますと?」

「内海が空気を引き締めてる。口でもプレーでも周りに高いレベルを求めている。それでいて『自分には無理だ』と諦めさせないのは、結木の存在だ。叩き上げで出世した成功例だからな」

「なるほど。同じ日本代表でもタイプが違うから相乗効果を生んでるんですね。和歌山の番記者してますけど、DFにこれだけ締まった空気をしているのは初めてですもの」

「だからこそ、早いうちに無失点の試合を作りたいんだがな。なんだかんだ言っても、結果が一番説得力を持つ。まあ、次は難しそうだけどな」

「確かに、すごい選手がいますからね」

「それも異次元のな」





 練習後、クラブハウスにて行われたミーティングで、和歌山の選手たちは次の対戦相手である尾道の試合映像を見ていた。そして、ある選手のプレーに舌を巻き、目を丸くしていた。

「おいおいマジかよ・・・。こんなレベルの選手がなんで日本に来たんだよ」

「ボールを持ってからの仕掛けがすごいな。DFがまるで相手になってない」

「ドリブルのキレもシュートの威力もモノが違う。開幕戦なんかこいつで勝ったようなもんだろ・・・」


 選手たちが次々と賛辞を送るのは、今のJリーグの主役と言っていい、尾道の新外国籍選手のトリニダードだった。

「まあ、見ての通り、今の尾道はこいつが大黒柱。これに引っ張られるように、周りの若手も積極的にゴールに絡んでいる。サイドバックに回った茅野もいいクロスを入れているしな」

 松本監督は尾道の攻撃をそう総括した。

「確かに、こいつを潰さない限りは尾道の攻撃を止めるのは無理ですね。かといってこいつばっかり注意しても、野口タクトも油断ならないし、浦ってやつのスピードもいい。一筋縄には行きそうもないですね」

 指揮官の見解に内海も同調する。しかし、そんな空気を無視して、小宮が尾道の罵倒をはじめた。

「は〜、やだねやだね。二流は見かけ倒しにあっさり尻込みしてさ〜。本気でこいつを警戒するようじゃ、このチームも先が知れるね」

「相変わらず口悪いなお前。でも実際こいつはすげえし、尾道の攻撃は明らかに強力になってる。警戒するのは当然だろ」

 結木はそう反論したが、小宮は鼻で笑う。

「お前本気でビビってんのかよ?まあ、確かにこいつはいいよ。・・・ボールが持てればの話だがな」

 小宮の指摘に、全員の表情が変わる。

「この年齢で日本に来るやつは、既に完成して延び白がなくなったか、不治の欠陥を持ってるかのどっちかしかない。こいつは後者の典型。ボールを持ってないときのこいつは素人よりも怖くねえぐらい動けねえ。それに、こいつの重心が前過ぎる上に出てる面子のほとんどが自分のリズムでしかいいプレーができないひよっこばかりだ。こんなスカスカな中盤、同好会・・・いや、体育の授業レベルでもお目にかかれねえよ」

 小宮の解説に照らし合わせて、開幕戦の尾道の失点シーンを見る。そして、この指摘は狂いなく的を得ていた。

「最終ラインにしても同じだ。マルコスは離脱明けで明らかに動きが落ちてるし、茅野も上下動はまともだがやらないよりマシってレベルだ。おまけにセンターバックのコンビはよそのクラブの廃材の再利用。ウチの前線が得点できないわけがねえ」

 ドヤ顔で説明を終えた小宮に、松本監督は拍手を送った。

「まあ、いろいろ語弊はあるが、小宮の解説でほぼ正解だ。確かにトリニダードは驚異ではあるが、肝心の味方が彼を使えていない。ウチの持ち味であるミドルシュートは打ち放題と言っていい」

 松本監督はペンをとってホワイトボードにあれこれと書き始める。

「守備に関しては、まず一番の出しどころである亀井を潰し、サイドハーフは常に前後から挟み込め。とにかくトリニダードへのパスを遮断して孤立させろ」

 そして攻撃についてはこう指示する。

「最終ラインはほぼ刷新されている上に、札幌戦と川崎戦を見る限り、ろくな決まり事がない。だから剣崎の1トップに竹内と櫻井の2シャドーで徹底的に崩す。剣崎は池山を抑え込み、竹内と櫻井は積極的に円山の裏へ仕掛けろ」

 そして最終ラインにはこう指示した。

「最終ラインは内海とエデルソンがセンター。結木は左、右にはソンでいく。エデルソンは野口をマークして、特に空中戦だけは絶対に先手をとれ。内海はパートナー役を封じろ。サイドの二人を含めて高めにラインをとれ。イケると思ったらどんどんオーバーラップしろ。サイドチェンジを多用して、向こうの守備を常にずらすように攻めろ。以上だ」


 リーグの主役を相手に、和歌山の読みは当たり、初勝利を手にするのだろうか。


本シリーズではお馴染み。沼田政信さんの「幻のストライカーX爆誕(仮題)」とのコラボ企画!久々にジェミルダート尾道と戦いますので、お楽しみに!

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