序・新人操者の初任務6
村長夫妻と向かい合うようにしてイセンとミライが座っている。
「とりあえず細かい話は食べてからにしよう。支度も全て終わったようだし」
村長に取りまとめられて料理を食べ始める一同。どの料理も申し分のない味で、食べるのに集中しているからか皆の口数は少ない。徐々に会話が弾んでくる頃には、皿の上にほとんど料理は残っていなかった。
「あの、この料理に使っているキノコはどこで採れるんですか?」
「この村より少し標高の低いところの森で採れますわ。用事がなければ散策するのも良いですわね。この二人は料理が上手なので、いつも任せてしまってますわ。前に他の子もいましたが、あの子は物をよく焦がすので、別の事を任せてましたわね……と、長々とすいませんね」
「お前はいつも話が長いし、気にしなくてもいいだろ」
「全く、失礼しちゃうわ。あなただって無駄なこと言うじゃないの」
使用人の二人はもう食べ終わって片付けを始めている。
「いえ、自分は全然大丈夫ですよ。今日と明日はあちこち行ってみたいと思います。イセンさんも一緒にどうですか?」
「ん、ああ。私はやることがあるのでミライ一人で行くといい。迷子にならんようにな」
「別に迷いませんよ……」
子供を心配するような言い方に、ちょっとムッとした声でミライは返答した。
「それじゃあ村長さんと話し合うから、まあ終わったら連絡を入れよう」
「あ、はい。任せて大丈夫ですか?」
「後輩に心配される覚えは無いぞ」
「あ、すいません行ってきま~す。美味しい料理ご馳走さまでした~」
適当な言い回しをして、ソロソロと退散していくミライ。いなくなってから少し間をおいて、村長がイセンに話し掛ける。
「もう一人の子は聞かなくても良いのかね?」
「彼はあまり入ったばかりでこういう話はまだ全然知らないですので。見ての通り良い奴なんですが」
イセンは苦笑いを浮かべたが、一呼吸置いて真剣な面持ちで切り出す。
「今回は移住の件に承諾してくださり、ありがとうございます」
「全て私が決めたことではないのでなんとも。まあ、閉鎖されるなんて訳でも無いので、反発もそこまで強くはなかったですからな」
「このような話では中々すんなりとはいかないことも多くて。まあ、不満も分かるのですが、最初は機械を扱うだけだと思ってた仕事というか、我々はそこの意思決定に関与していないのですが……いえ、すいません。とにかく、優しくしてくれるだけでありがたいのですよ」
イセンとミライの訪れたこの村は山の中腹にあるが、最近火山活動が活発化しており、住民の退去が推奨されていた。このような移住の動きは10年前に世界画一化計画の構想が出て以降、様々な場所で進んでいて、各地へと赴き輸送や要人警護などを行う傍ら、インスヴァイトを駆るパイロットが一部協力することも少なくない。
「そうでしたか……自身の体調にお気を付けて頑張って下さい。村の方で作るべき資料は片付けておいたので、後は任せます。では、サラヴァン」
「これをどうぞ」
村長にサラヴァンと呼ばれた使用人の一人が、いつの間にか書類を持って、イセンへ手渡してきた。髪は肩につかない程度に切り揃え、薄茶色の髪はストレートできっちりとした印象を受ける。服はもう一人と同じエプロンを身につけている。
「ありがとうございます。後は宿泊施設などを紹介していただきたいのですが」
「それならうちに泊まってくれて構わない。ちょうど最近空き部屋も出来ましてね」
「それは助かります。……少々出掛けて来ても構わないですか?」
「構いませんよ。もうすぐ形だけで無くなってしまう村ですがね。誰かしら家にはいますので、御用がお済みになられたらいつでも戻ってきてくれて構いませんよ」
「はい、ありがとうございます」
席を立ち村長に一礼をすると、イセンは部屋を出ていった。ミライが先に出掛けて行って半刻程経ったが、とりあえず仕事が終わった旨を端末でミライへと伝える。
「……森にでも行ってみるか」
そう言って扉を開けたイセンの目には衝撃的な光景が目に映る。
「あ! 見つかったじゃないですか!」
「あなたが早く来なかったからよ! 私は悪くないわ!」
なにやらバタバタという凄まじい音も鳴っているため、声は掻き消されて何を言っているかはイセンに届いていないが、それでも言い争う若い男女がいた。それも中空で。
何故空にいるのかと言うと、二人はついさっき自分が乗っていたヘリに乗っているからで、若い男の方にはイセンも見覚えがあった。ヘリによって舞う砂ぼこりも気にせずイセンは叫んだ。
「ミライー!?」