序・新人操者の初任務4
「質問ですが、この左のモニターって何ですか?」
ここはどうやら広大な森林地帯のようで、前方に注意しつつミライは機内を一通り見回した。辺り一面よく分からない物が多いけど、直感的に一番気になった。コツコツと叩いてみると、イセンが答えを返して来た。
「多分執事機能のついたパソコンみたいなものだよ。それに向かって曲名とかを喋ると、動画サイトから探してきて流してくれるんだ。面白いだろう」
「使っててちょっと怖く無いですかね。 普通に使ってたらいきなり主電源落ちちゃったりとか」
「まあたまに考えもするが、テレビだって壊れるときは突然壊れるしな。人間は道具を作って使う生き物だが、作れなくても使い方が分かれば今のところは問題ないさ」
「……Hello Jackpotの最新曲」
悩んだ末にボソッと呟いた回答。よく分からない物ほど気になるのが人の性である。
「お、君と私は気が合う様だ! そのバンドは私も好きだよ」
ミライが呟いたグループに共感したイセンであったが、浮かべた笑みには少し焦りが浮かんでいた。
現在、前方をミライが先行して、イセンは追従する形で運行している。本来は形だけでも護衛機が前であるのだが、あまり説明を聞いてなかったミライに合わせている。
いや、正確には合わせるので精一杯なのだ。
「機体の性能は操者に関わらず一定のはず……。それだけにミライの乗る第一号機に追い付かないのは何故だ……?」
「? どうしましたか、イセンさん。あ、流れ星!」
ミライに話しかけられて、イセンはフッと我に返り空を見上げる。いつの間にか茂っていた木々は少なくなり、山肌が顔を出していた。
「む? 何でもないぞ。ただ、今日は変な日だと思ってな!」
「変な日ですか?」
「そうそう。私もこの仕事に就いて少しは経つが、五日間も連続で操縦するのは初だ。こう長く機体に乗っていると、たまには自分の身体を動かしたくなるな。せめて思いっきり背筋を伸ばしたいよ」
実際の所、イセンは三日連続で操縦したことも一回しかない。というのも、健康面からそこまで長期の運用は控えられているからだ。インスヴァイトの機構はパイロットにも明示されていない為、どの程度の影響が出るのかは分からないが。
「かわりに羽でも伸ばします?」
「ハハッ、無茶言うな……と、もうすぐ目的地だ。ここの名産はキノコらしいぞ。二泊三日の間によく堪能するといい」
会話をしている二人の正面に、集落のような物が現れた。まだ遠いのでしっかりとは確認できないが、住居が群れをなして出来上がったような小規模な物だ。
「え? へー、キノコが美味しいんですね」
「誤魔化さないで聞けば教えてやらんこともないぞ」
「そんな滞在するんでしたっけ~!」
そんなやり取りの後、二人は無事に村へとたどり着いた。この村は旧北アメリカの山中に位置し、高度がある為か少し日差しが強い。ミライはイセンの指示に従い荷物の搬入を済ませ、村長の家へと向かっている。ちょうど昼過ぎに着いた為、諸々の作業を終えた頃には、昼食としては少し遅い時間となってしまったが、村長の家では料理を振る舞おうと台所が騒がしかった。食事にはイセンが話していたようなキノコが沢山使われている。
「そういえばミライは初仕事か」
「まあそうですね」
「この村の人たちは優しいな。慣れ親しんだ故郷から移動するというのに」
「初めて来るのがこの村で良かったです。キノコはそこまで好きではないですけど」
「む、この村を撤退させるのは知ってたのか」
のんびりと道を歩いてる途中、イセンは少し驚いた表情でミライの方を振り向いた。
「いや~、世界を画一化していく中でそういう村があるのは聞いたことあるので、知ってた訳ではないでふ」
「……どこか絡みやすいところがあるな、貴様は……」
ミライが言葉を切る前に、イセンが軽く頬を引っ張る。
「まあ、この村の撤退についてはミーティングでは話されてないがな」
「ちょっとイセンさん」
つい突っ込んでしまった後、ミライは少し不思議そうな顔をした。
「まあ、任務の時に訪れる場所は自分でも調べるようにしているのだ。インスヴァイトにあるモニターについては話をしたな。ミライが歌を流してたアレだ。色々分からない所もあるが、地名を伝えるとモニターに情報が出るのだ」
「信頼できるんですか?」
「インターネットの情報だ」
「どこから電波拾ってるんですかね……」
「さあ……」
インスヴァイトについてまだ分からない所も多く、そのようなやり取りをしてる間に目的の家へと到着した。二階建ての木造物件で、庭は広く一台くらいならヘリも停められそうだ。とりあえず呼び鈴を鳴らす。
「あらこんにちは。今日は暑くて大変ね~。すぐ入るといいわ~」
「すいません、インスヴァイトの新人パイロット継葉ミライです」
「同じく上官のイセン・シュベルクです。予定されていた業務の終了を報告に参りました」
出迎えてくれたのはがっしりとした女性で、にこやかに二人を奥へと案内してくれる。料理を作っていたからか、服の上にエプロンを来ている。