序・新人操者の初任務1
元日本国のとある山中で、八人の男が三十kg程の荷物を背負って会話をしている。
「この長い山行もあと数十分で終わりですね」
「6泊7日の山籠りだったが、脱落者共の荷物を運んでくれて助かったよ、上官さん」
「数年後はお前らが引率だ、覚悟しておけ」
「一週間もすればINSVOLが授与されるだろう。伸びた髭もきちんと剃れよ?」
国際特殊車輌操作免許INSVOLはインスヴァイトのライセンスで、取得には既存の車輌の操作技術はもちろん様々な条件をこなす必要がある。インスヴァイトは操縦者に生まれつきの適性がなければ動きもしない特殊な乗り物だ。免許を持っていても私用で扱う事は出来ず、貧困地域への物資運搬という限られた用途でのみ使用可能であり、未だ台数も多くない。
そんな制約のある乗り物でも一般市民からの人気は高く、まさに今、夏の山々を横断しているこの男達は、教官二人を除いてINSVOL取得の最後の過程を終える所だった。
「せっかく一緒に操縦資格を得るんだし、希望の勤務先と地域でも教え合いません? 実際に就けるかどうかは分かりませんが」
「すまないが、自分の事をべらべら喋るのは嫌いでね」
「いいんじゃないか? なぜかは知らんが希望通りに事が進むかもしれないしな」
ニヤリと笑った教官の言葉を聞き、消極的だった男が再び口を開く。
「元南アジアの辺りだ。今はアホな政治家崩れが揉め事起こしてるあの地域だよ」