とある男の受難~苦悩と葛藤とほんの少しの賛美~
ある大新聞の記者が俺に向かってこう聞いた。「どうしてオッパイに登るんですか?」
俺は渋い顔に若干の皮肉を載せてこういった「そこにオッパイがあるからだ」
20XX年、偉大なる霊峰、富士山が巨大なオッパイになった。
科学的な理由なんかわかるわけがない。世界の科学者の半分がオッパイ山の調査に訪れ、やがて諦めた。
それでも科学者はある事実を見つけた。オッパイ山の頂上、乳頭の最先端を押せば何かが起こる。というものだ。
誰にも何故オッパイなのか、何故富士山が変わってしまったのか、わかるわけがなかった。
だが、このたった一つの方法に賭けるしか無い。
そして、そのオッパイ山<とりあえず皆そう呼んでいる>は幾人もの登山家を跳ね除けた。
ヘリコプターで近づこうものなら巨大な乳頭<オッパイ全体の比率を見るととても小さいものだが>から間欠泉のごとく乳白色の液体が吹き付ける。母乳である。
登山家が登ろうとしてもその山肌はつるつるすべすべで、足を掛ける所がなく、体重をかけると柔らかいトランポリンのように、包み込んでくる。
世界有数の登山家があらゆる方法で登頂を挑んだが未だに頂上にたどり着いたものは居ない。
俺はこのオッパイ山攻略のためにある秘策を用意していた。全身に吸盤を貼り付けたスーツで体を貼り付けながら進むのだ。
このスーツの開発のために国に援助してもらい50億円もの大金を掛けた。失敗は許されない。
俺はそびえるオッパイ山の麓にきていた。ここからは湾曲する山肌の関係で頂上が見えない。
弱気になる心に喝を入れ、最初の一歩を張り付かせた。
ペタ。とオッパイの柔肌に吸盤が張り付く。うむ、なかなか安定感がある。
俺はヤモリのように這い上がっていった。
やがて起伏がなだらかになった。オッパイ山は重力の関係で楕円形なのだ。
俺は落ちないように慎重になる。ここから落ちたら死は免れない。山肌の関係で命綱は付けられないのだ。
日が傾いてくる。今大体7合目くらいだろうか。もちろん休憩は出来ても眠ることは出来ない。
俺の命を支えているのは体中に貼り付けた吸盤だけなのだ。気を抜くことは許されない。
俺は固形食料と栄養ドリンクを飲み手早く夕食を済ませた。ヘッドライトを付け闇に備える。
日が落ちてから急激に気温が下がってきた。何も風を遮るものがない為に強風がたたきつけられる。
俺は何度も挫けそうになりながら進んだ。
電話がかかってきた。俺の勇姿を中継で全世界に放送しているそうだ。
視聴率が80%を超えたとテレビ局の人間が狂乱していた。
俺は一人じゃない。全世界の人間が俺を見守ってくれている。不意に涙があふれた。
全世界の人間の応援が聞こえた気がした。俺は力を振り絞って登り続けた。
遠くに頂上が見えた。紛れも無い、乳頭だ。
俺は薄くなった酸素の中でもがきながら進んだ。気温が下がりすぎて眉毛が凍った。
俺は何故生きているのか不思議だった。実はもう死んでいて、俺の亡霊がまだ登っているのだと思った。
だが、俺は生きていた。目の前には乳頭。俺はオッパイ山を登り切ったのだ。
俺は乳頭によじ登った。遠くで朝日が顔を見せた。闇は取り払われ、眼下に巨大な樹海、その向こうに俺が住んでいる街が小さく見えた。
俺は総理大臣に電話した。「午前5時00分、登頂しました。」
総理は泣いていた。その後、先進国のトップに電話を回された。俺は全てのVIP達から褒め称えられた。
曰く、人類の英雄だとか。曰く、最も偉大な探検家にしてマゼランの生まれ変わりだとか
乳頭の最先端はぽこっと飛び出ていた。まるでボタンみたいだ。
俺は、テレビ電話で全世界の人間に中継しながら乳頭を押した。
その瞬間、ものすごい地響き、振動、揺れているのだ。オッパイ山ではなく地球そのものが。
地震が収まった時、驚くべき速報が世界を震撼させた。
――エベレストがオッパイに変わったのだ。




