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第二十話 魔王スルト

 俺たちはついに宮殿の中へと侵入する。

 廊下や階段を一気に駆け抜け、ヘルのいる部屋を目指す。

 長い廊下の先に大きな扉があった。

 走る勢いのまま突っ込み、剣を一振りして扉を破壊する。

 その部屋の奥に、椅子に腰かけ俺たちを見るヘルがいた。


「……来たか」


 ヘルは座ったまま表情を変えずに呟く。


「覚悟はいいか?」

「ふん、覚悟じゃと? お主を潰すのに覚悟など必要ない」


 ヘルは尊大な態度を崩さずに言った。

 ただの強がりのようには見えなかった。


「最後にもう一度だけ言う。俺は別に侵略しにきたわけじゃない。『伝説の槌ミョルニル』さえもらえるならこの国からすぐに手を引く」

「ここまで暴れておいてよく言うわ。お主のせいでどれだけの損害が出たと思っとる」

「何と言われようと構わない。俺にもそれが必要な理由があるんだ」


 何度も言うが、甘さは捨てた。

 秘宝を手に入れるためには手段を選ばない。

 現実世界に帰って消えていったみんなと再会するのだ。


「……交渉決裂だな」

「元から交渉の余地など存在せぬ」

「後悔しても知らないぞ」


 俺は剣を構える。


「くどい。お主はすでに妾の逆鱗に触れておる」


 そこでヘルの周囲に風が巻き起こる。

 建物の中だというのに風は嵐のように吹き荒れ、目を開けるのもやっとだ。

 壁に飾ってあった剣や槍がカチャカチャと金属音を立てる。


「陛下っ」

「三人とも下がってろ。ヘルの相手は俺がする」


 ブリュンヒルデたちを部屋の外へと下がらせる。


「殺すだけでは物足りん。死んだ方がマシと思うほどの苦痛を味合わせてからじっくりと殺してやろう」


 ヘルは椅子から立ち上がると、俺に指を向ける。

 すると飾ってあった武器が四方から俺に向かって飛んできた。

 鑑賞用のレプリカではなく本物らしい。

 俺はそれを跳んで避ける。

 そのまま空中で剣を振り上げ、ヘルへと振り下ろした。


「むっ」


 ヘルが俺に右手を向けると、ヘルの周囲に半円上の結界が現れる。

 俺は剣を押し込むが、結界を壊すまでには至らず、一度下がって距離を取る。


「ふむ、お主の剣もなかなかの一品と見た。それを妾に譲るなら交渉くらいはしてやってもよいぞ」


 ヘルが俺の剣を興味深そうに見つめてにやりと笑う。


「それはできないな。そもそも交渉するだけで、結論は変わらないんだろ?」

「当然だ」


 ヘルは周囲に散らばった武器を見渡す。


「『伝説の槌ミョルニル』はここにあるどんな武器よりも優れた品じゃ。誰にも渡さん」


 俺はそこまで目利きに自信があるわけではないが、これまでの経験から見て、ここに飾ってあった武器はどれも質の良い立派なもののように見える。

 それでも9つの秘宝が別格であることは、秘宝の一つ『伝説の剣ヴェルンド』を持つ俺にもわかった。

 ヘルが秘宝に執着するのも理解できる。


「まあ仕方ない。それならお主から奪うまでじゃ」


 ヘルが俺に右手を向ける。


「っ?」


 すると、俺の体が突然ずしりと重くなる。

 まるで上から見えない力が加わっているようだ。

 剣を床に刺して杖代わりにして体を支える。


「ほう、まだ立っていられるとはな」


 ヘルが感心した表情を浮かべる。

 厄介な能力だ。

 だが、どうにもならないわけじゃない。


「この……」


 俺は両足に力を入れてしっかり立つと、両手に力を入れて剣を引き抜く。

 そしてヘルへ向かって加速した。


「っ!」


 ヘルが慌てて結界を張る。

 剣が結界に弾かれる。

 だが、能力が解除されて体が軽くなった。

 そこでようやくヘルも動揺し始める。


「お主、何者じゃ? 妾の術が効かぬなどありえん」

「どうやら俺は平凡な学生らしいぞ」


 何も特別なことはない。

 俺が動けるのは単に俺とヘルのレベルの差に開きがあるからだ。

 俺はヘルに向かって駆け出す。


「くっ」


 ヘルは両手を突き出し、再び結界を張る。

 俺は剣を思い切り振り下ろすと、さらに剣を握る両手に力を入れる。

 結界がミシミシと音を立て始めた。


「馬鹿なっ」


 そのまま力を加える。

 結界にひびが入り始める。

 顔をしかめて必死に結界を維持するヘル。


「砕けろっ!」


 そして、ついに結界が割れた。

 俺は剣を引きながら懐に潜り込む。


「このっ!」


 ヘルも反撃しようと手の平を俺に向けるが、その時点で勝負は付いていた。

 俺はヘルの腹部を剣で貫く。


「がはっ……!」


 ヘルが血を吐き出す。

 俺は剣を引き抜く。

 ヘルは粒子となって消えた。

 あっさりとした勝利だった。

 達成感も何もない。

 残ったのは虚しさだけだった。


「……さて、秘宝はもらっていくぞ」


 ヘルが消えた場所に鍵が落ちていた。

 俺はそれを拾うと、部屋の一番奥へと進む。

 イクスから事前に秘宝の隠し場所を教えてもらっていた。

 部屋の奥の壁に飾ってある大きな絵。

 その裏を除くと、そこに小さな扉があった。

 隠し金庫だ。

 落ちていた鍵を差し込むと、ぴたりと合った。

 中を開けると、そこに小さな槌が入っていた。

 これが『伝説の槌ミョルニル』である。

 俺たちはついに最後の秘宝を手に入れた。


「……さて、これでどうなるんだ?」


 条件は揃った。

 9つの秘宝は今、俺たちの手の中にある。

 俺はいつでも動けるように周囲に気を配る。

 あるいは、すでに魔王は目覚めているのだろうか。


 そのとき、大きな地鳴りが起こった。

 建物全体が激しく揺れる。

 外では強風が吹き、雷鳴が轟く。

 カラスが空を無秩序に飛び回り、獣の遠吠えが遠くで聞こえた。

 まるでこの世の終わりかと思うほどの光景。

 動くことができず、その場でじっと揺れが収まるのを待った。

 しばらくして、ようやく地鳴りが落ち着く。

 幸い建物が崩れることはなかったようだ。

 ほっと息を付いたそのとき、俺の頭の中で声が聞こえた。


『――久しいな、人間たちよ』


 その品位を感じる低い声をただ聞いただけで、自然と体が震えた。

 これが畏怖という感情だろうか。

 細胞レベルで体が危険を知らせる。

 強大な絶対悪。

 俺たちはとんでもない相手と戦おうとしているらしい。


『我が名はスルト。この世界に終焉を与える者である』


 それは魔王の宣戦布告であった。


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