第十九話 頼れる仲間たち
ヘルヘイムの首都エリューズニル。
街の周囲が高い壁に囲まれ、壁の上には砲台が見える。
その物々しい姿は街というよりも要塞だ。
道中現れるヘルヘイム軍を倒しながら、俺たちはついにここまで到着した。
特に苦戦することなく、こちらの損害は皆無に等しい。
だからといって戦争が終わるまでは油断してはいけない。
俺は兵士たちに声をかけると、壁の近くまで進む。
壁の向こう側。
その先にある巨大な宮殿。
この中にヘルがいる。
壁に囲まれるエリューズニルに入るには四方に作られている門を通り抜ける必要がある。
しかし、門まであと少しというところに、大勢のヘルヘイム軍が待ち構えていた。
その数は今までの比ではない。
逆にここさえ乗り切ればヘルのところまで一直線だ。
俺たちは待ち構えるヘルヘイム軍へとゆっくり近付く。
いきなり撃ってくるようなことはなかった。
ヘルヘイム軍と正面から対峙する。
そこで軍勢の中から二人の子どもが俺たちの前に歩み出た。
「ようこそヘルヘイムへ」
「歓迎はしないわ」
似たような顔立ちの少年と少女。
年齢も背丈も同じくらいに見える。
双子だろうか。
だが、見た目が幼い子どもだからといって、俺は気を緩めるつもりはない。
ここにいるということは二人とも軍人であり、それなりの地位にいる。
しかもその恰好はヘルヘイム軍の軍服とくれば疑いようがない。
「お前たちがこの部隊の責任者か?」
俺は二人に問いかける。
すると二人は微笑を浮かべて言った。
「僕はガングラティ」
「私はガングレト」
「ヘル様から言われている」
「あなたたちを始末するように、って」
まるで悪戯を楽しむように無邪気な口調でさらりと告げる子どもたち。
その異様なギャップが逆に二人の底の知れなさを際立たせた。
「ヘル様、焦っている」
「それに、怒っている」
「ヘル様は『伝説の槌』を大切にしている」
「私たちは『伝説の槌』を守らないといけない」
あくまで俺たちの邪魔をするつもりらしい。
いくら子どもであろうと戦場では年齢は関係ない。
敵対するのであれば、こちらも相応の手段を用いて対処する必要がある。
「俺たちも秘宝を手に入れないといけないんだ。悪いけどここを通させてもらう」
「それはさせない」
「ここは誰も通さない」
「それじゃあ無理やり通るしかないな」
それを合図に、互いの国の兵士たちがそれぞれ動き出す。
壁の上から砲撃も始まる。
砲弾が着弾した衝撃による地響き。
突撃する兵士たちの咆哮。
刃がぶつかり合う金属音。
「行くよ、ガングレト」
少年は隣の少女と視線を交わす。
「行きましょう、ガングラティ」
そして少女もそれに答えた。
こちらの兵士数名が少年の方へと向かう。
まだ少年と兵士の間には距離がある。
だが、少年は兵士が間合いを詰める前に剣を振る。
すると少年の持つ剣の刃が伸びた。
刀身が複数に別れ、それらが中にある細い金属製の紐のようなもので連なっている。
まるで鞭のように刃を操り、周囲にいた兵士を一度に切り裂いた。
そして再び元の剣状に戻る。
「ほらほら、遠慮しないでみんな僕と遊ぼうよ」
微笑を浮かべて剣を自在に振るう少年。
そこに恐怖心はなく、むしろ戦いを楽しんでいるようだった。
「ふふ、私も混ぜて」
少女が背後に控える兵士から武器を受け取る。
こちらの武器も特徴的であった。
自分の身長の倍はある大剣。
それを少女の細腕で軽々と振り回す。
それなりに重量があるはずだが、少女の動きは軽やかでそれを感じさせない。
これまでと違いこちらにも死傷者が出始める。
「やりにくい相手だ」
見た目が子どもというだけでない。
二人ともなかなか目にしたことのない戦闘スタイルだ。
それが兵士たちを惑わせる。
「ユージ、彼らの相手は私たちがします」
「まあ、それが妥当な判断でしょうね」
そこで、シーナが少年の方へ、サクヤが少女の方へと行く。
「お姉さんたちが相手?」
「少しはやりそうね」
二人の実力を見抜いたのか、少年たちも警戒する。
今までの余裕の笑みが消えていた。
「さっさと行きなさい。ここは何とかしておいてあげるわ」
背中を向けたサクヤが俺に言った。
二人に任せれば大丈夫だろう。
「サクヤ、シーナ、ここは任せる! ユキ、フィーア、全体の指揮は頼んだ!」
俺の言葉にそれぞれ頷く。
「――ブリュンヒルデ、ヘルヴォル、スクルド、俺に付いてこい」
俺は腕利きの三人を引き連れて街の方へと走る。
ここから先は少数精鋭だ。
「行かせない」
少女が俺たちを追いかけようと動きかける。
しかしサクヤが拳銃でそれを牽制する。
結局その場から動くことができず、俺たちを追うことを諦めて、少女は悔しげにサクヤを睨んだ。
「あなたの相手はこっちよ」
「ユージの邪魔はさせません」
本当に頼もしい二人だ。
俺も安心してこの場を任せられる。
人込みを駆け抜け、剣を一振りして門を破壊する。
そして俺はエリューズニルへと足を踏み入れた。
――
街へ入ると、そこにも大勢の兵士がいた。
統率のとれた動きで俺たちに襲い掛かる。
だが、苦戦するような相手ではない。
俺たちはそれを倒しつつ、ヘルのいると思われる宮殿を目指す。
「陛下、自重してください。ここは我々だけで何とかします」
槍を持ったブリュンヒルデが困り顔で俺に言った。
「いや、気を使わなくてもいいぞ。俺も戦いたいんだ」
「陛下に万が一のことがあってはいけません。もう少し立場を考えてください」
ブリュンヒルデたちの腕を疑っているわけではない。
むしろその実力を高く評価している。
しかも、今の彼女が所持している槍は、秘宝の一つ、『伝説の槍』である。
ヨトゥンヘイムで彼女より優れる槍使いは俺の知る限り他にいない。
9つの秘宝は単純に武器としても優れており、所持者の力を底上げする。
イクスも以前、秘宝は武器として装備する方が良いと言っていた。
だから俺はブリュンヒルデにそれを託した。
俺が前線で戦う理由は、単に俺がそうしたいからだ。
「どうせ俺は皇帝なんて器じゃないし、何かあれば他の奴に任せるさ」
見ているだけなんて我慢できない。
体を動かす方が俺は向いている。
しかしブリュンヒルデはまだ浮かない表情だ。
「ユージ様、ブリュンヒルデさんが言いたいのはそういうことではないと思いますよ?」
微苦笑を浮かべるヘルヴォル。
「どういうことだ?」
「皇帝という立場を抜きにして、ユージ様の身に何かあれば悲しむ人が大勢いるということです。ですよね? ブリュンヒルデさん」
ヘルヴォルが意味深な視線をブリュンヒルデに送る。
俺も視線を向けると、ブリュンヒルデは顔を赤くして視線を逸らした。
「いえ、私はあくまで家臣として、国民の動揺を危惧して言っているまでです……ヘルヴォル殿の言うことも否定はしないですが」
「ふふ、ブリュンヒルデさんは真面目なんですから」
その様子を面白がるようにヘルヴォルは笑う。
「ユージ様ほどの素敵な方を敬愛し、恋慕うのは自然なことです。隠さなくてもいいじゃないですか」
「ふ、不敬ですっ、ヘルヴォル。一家臣である私が陛下を恋い慕うなど恐れ多い……」
さらに顔を赤くして狼狽するブリュンヒルデ。
凄く照れくさいのでそういう話は本人の前でしないでほしい。
だが、心配してくれている気持ちは十分に伝わった。
「安心しろ、ブリュンヒルデ。俺の実力はずっと近くで見てきただろ。心配する必要がどこにある?」
「はい。それは十分わかっているつもりなのですが……」
納得はしていない様子。
まあ、頭では大丈夫だとわかっていても心配してしまう気持ちは俺もわかる。
だから俺からこれ以上は何も言わない。
「ユージって結構頑固だよね」
俺たちの様子を見ていたスクルドが微笑する。
この状況を楽しんでいるようだ。
もっとも、いつまでも談笑していられない。
宮殿に近付くにつれ、兵士の数が増えてきた。
「次から次へと蛆虫が……ユージ様に刃を向けるなど万死に値します」
ヘルヴォルが斧で周囲の兵士を薙ぎ払う。
その武器はヨトゥンヘイムの宝物庫にあった秘宝『伝説の斧』。
彼女もそれを持つだけの実力がある。
それにしても以前から思っていたけど、ヘルヴォルって戦闘中は口が悪くなるな。
目つきも殺気立ってるし。
「ユージ様、見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。怪我はありませんか? 返り血は付いていませんか?」
しかし俺に対しては常に普通だ。
むしろ普段より優しくなるような気さえする。
敵に対して容赦ないタイプなのかもしれない。
「ふっ!」
そしてスクルドが秘宝『伝説の短刀』を華麗に振るう。
相手の刃をかいくぐり、懐に潜り込んで的確に切り裂く。
このナイフを手に入れてから、渡す相手を誰にするか迷っていた。
レンが生きていれば迷わず彼女に渡していただろう。
だからレンと比べてしまう。
彼女に並ぶ使い手はこの国に存在しない。
村でダンジョンに潜っていた頃、カイが『伝説の刀』の力をまだ十分に引き出せていないと言っていたことがある。
秘宝は持ち主の力を引き上げるが、逆に持ち主も秘宝の力を引き出すのだ。
この遠征でスクルドの戦闘を見て、俺はその技術の高さに一目惚れした。
彼女なら秘宝の力を最大限に引き出してくれるはずだ。
そして、ブリュンヒルデも危なげなく兵士を倒していた。
NPCであることなんて関係ない。
三人とも俺の信頼できる仲間だ。




