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第十一話 アイの覚悟

 それからしばらくして俺たちは遠征に出た。

 目的地はニヴルヘイム。

 秘宝、『伝説の盾スヴェル』を手に入れるためだ。

 現実世界へ帰るためにのんびりしてはいられない。


「なんだかクエストを思い出すね」


 道中、フィーアがぽつりと言った。


「ああ、ちょっとわくわくしてきたかも」


 俺もフィーアには同感だ。

 久しぶりの旅。

 それも秘宝を探すための旅だ。

 各地を回ってクエストをこなしていたギルドの頃を思い出す。

 それに今回の遠征のメンバーは少数精鋭だ。

 戦争をするわけではないので大っぴらに軍を引き連れていくわけにはいかない。

 だから余計に昔を思い出すのかもしれない。


「うう、それにしても寒いですね……」


 アイが体を縮こませながら白い息を吐く。

 ニヴルヘイムはユグドラシルの最北端に位置する雪国だ。

 防寒対策は必須であるし、遭難には注意が必要だ。

 今も吹雪いており、視界が悪い。


「あと2キロで街に着きます。そこで休憩ができますよ」


 目的地へはイクスが案内してくれていた。

 サポートプログラムであるイクスはこの世界のことを殆ど理解しており、9つの秘宝のありかもわかっているらしい。

 おかげでこの悪天候でも迷わずに最短距離で目的地へ迎えている。

 便利過ぎる能力だ。

 ニヴルヘイムにある『伝説の盾スヴェル』はとある洞窟の最深部にあるらしい。

 つまり久しぶりのダンジョン攻略だ。

 俺はそれを聞いてさらに胸が高鳴った。

 冒険者魂がうずいている。

 これくらいの吹雪なんて気にもならない。


 しばらくするとイクスの言うとおり街に着いた。

 そこはニヴルヘイムでも特に栄えている街で旅人も多く訪れる。

 宿泊施設も充実している。

 俺たちは宿に入ると、各々旅の疲れを癒した。

 ベッドに仰向けになり、俺はぼんやりと天井を見上げる。

 現実の俺はどんな生活をしていたのだろう。

 ふとそんなことを考える。

 争いのない平和な世界で俺は学生をしていたとサクヤは言っていた。

 俺にはその姿が想像できない。

 それでも現実に戻ったらすべて思い出すのだろうか。


 ……考えていても仕方ない。

 気分転換でもしよう。

 俺は部屋を出ると、宿の共有スペースへと向かう。


「あ、ユージさん」


 暖炉の前で温まっているアイがいた。

 俺はアイに近寄る。


「酷い吹雪だな」

「ですね。寒いのは苦手です……」


 アイは背中を丸めて、両手で抱えるように持っていたカップに口を付ける。


「それは?」

「ホットミルクです。宿の主人にもらったんですけど、ユージさんも飲みます?」


 そう言ってアイはカップを俺に差し出した。


「……じゃあ一口」


 アイからカップを受け取って口を付ける。

 温かく体の中まで染み渡った。


「美味いな」

「はい。それに温まります」


 アイは無邪気な笑顔で頷く。

 俺はカップをアイに返した。


「明日はいよいよダンジョン攻略だな」

「私、楽しみです」


 アイは俺を見てはにかむ。


「……不思議ですね。前の私ならきっと不安ばかりで、楽しみなんて思うことはなかったと思います」

「今までいろんな経験をしてきたからな。それに比べたらダンジョンの攻略なんて気楽なもんだ」


 クエスト。

 ダンジョン攻略。

 そして戦争。

 俺たちはここに来るまで多くの経験をしてきた。


「今の私なら、ユージさんの力になれるような気がします」

「今までだってアイは十分俺たちの力になってるぞ」

「ありがとうございます。でも私なんてまだまだです……私、ユージさんを尊敬してます」

「俺を? 俺なんてノリで生きてるような奴だぞ?」

「ユージさんは凄いです。今だって責任のある立場で多くの人を一つにまとめて、そしてみんなを守ってくれてます。ユージさんがいたからここまで来られたんだと私は思います」

「それはアイも同じだろ。誰一人欠けてもここまで来れなかった」

「それでも、ユージさんは特別です」


 アイは微笑を浮かべたまま、首を振ってそう言った。


「ユージさんが私たちをここまで連れてきてくれました。ユージさんと出会えて良かった。だから私はもっとユージさんの力になりたい、そう思うんです」


 真剣な瞳が俺を見つめる。

 意外だった。

 普段の彼女を知っているからこそ、その覚悟の大きさがわかる。

 争いを好まない純真な少女が、戦う覚悟をし、俺の力になりたいと言ってくれている。

 嬉しくないはずがない。

 同時に、そんなアイがとても愛しく思えた。

 俺もアイの気持ちに応えたい。


「アイ、俺はみんなを現実の世界へ帰したい」

「はい」

「それにはアイの力が必要だ。だからアイ、俺の力になってくれ」

「ユージさん……」


 アイは嬉しそうに微笑む。

 その不意に見せたアイの大人びた微笑に俺は視線を奪われる、

 気付けばしばらく無言で見つめ合っていた。


「と、とにかく、まずは明日のダンジョンだな」

「そ、そうですね」


 俺は視線を逸らして言うと、アイも俯いてこくこくと頷く。

 それからアイは窓へと視線を移した。

 俺もそっちを見る。


「明日は晴れてくれるといいんですけどね」

「ああ、そうだな」


 吹雪の勢いは先程より弱まっていた。


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