第九話 戦争の結末
ロキの力は圧倒的だった。
全員でかかってもロキはそれを一人でいなす。
形勢は一進一退の攻防であるが、人数差で誤魔化しているようなものだった。
「ほんと嫌になるわね」
「体力を削るだけで精一杯です……」
前衛のサクヤとシーナが愚痴を漏らす。
「我慢比べだな」
カイの言葉どおり、どちらも決め手を欠いており、じりじりと体力を削り合っていた。
「先にこっちの魔力がなくなりそうですっ」
アイが泣きそうな声を出す。
「皆さん無理はせず、魔力が切れたら順次後方に回ってください」
後方で全体のサポートに回るイクスが言った。
「終わりが見えないですね……」
仲間の強化を続けるユキも苦しそうに呟く。
「でもみんなが現実に帰るためには、ここで負けるわけにはいかない!」
フィーアが連続で矢をロキへと放つ。
ロキは槍を回転させてそれを弾き飛ばす。
無数の矢が地面に突き刺さる。
そのままロキは地面を蹴って突っ込む。
「ふっ!」
ロキが正面にいたサクヤへと槍を突き出す。
サクヤはそれを後ろへ跳んで避ける。
同時にカイが刀を振り下ろす。
ロキは槍で受け止める。
その背後から瞬間移動したシーナが大鎌で斬りかかった。
ロキはカイの刀を槍で弾くと、背中に手を回して槍で鎌を防ぐ。
同時にカイがもう一度刀を振り下ろすが、それは空を切った。
距離を取ったロキは息を乱すことなく告げる。
「その程度で俺の邪魔をしようとするなんてな。舐められたものだな」
「それはお互い様だ」
そこでロキは気付く。
ロキの頬にうっすらと血が滲んだ。
カイの刀がロキの頬を掠めていたのだ。
「……ふっ、やるな。お前たちの認識を改めよう」
「今更改めてもらう必要はない」
カイは無表情で答える。
そこで銃声。
サクヤがロキに発砲したのだ。
しかしロキは銃弾を槍で真っ二つに切り裂いた。
「現実離れとはこのことね」
サクヤが呆れて呟く。
「ふっ」
同時に、銃弾を防いだロキが流れる動作で地面を抉るように槍を振り上げる。
するとその一振りで生まれた衝撃波が、地面を割りながら斬撃となって進む。
「っ!」
全員が反応して左右に跳んで避けた。
同時にカイがロキに接近し、再び刀を振り下ろす。
ロキは槍を横にしてそれを受け止めた。
刀と槍で互いに押し合う。
「サクヤ」
そこでカイが声を上げる。
そこで再び銃声。
鮮血が飛び散る。
カイの背後から放たれたサクヤの銃弾は、カイの肩口を貫くと、そのままロキの右腕に命中した。
「くっ」
咄嗟に槍を左手に持ち替えてカイに突き出すロキ。
しかし二人の間に現れた結界が槍を防ぐ。
アイの能力だ。
そこで接近していたシーナが背後からロキの首に向けて鎌を振り抜く。
「それはもう見切った」
ロキは後ろに体を逸らせて鎌を避けると、そのまま片手で槍を操ってシーナに槍を突き出す。
シーナは振り抜いた鎌を戻して槍を弾く。
「……これで終わりです」
シーナが呟く。
「なに?」
ロキが眉をひそめる。
そこで瞬間移動で離脱したシーナと入れ替わりに、ロキの目の前に突然別の人影が現れる。
高速移動。
そして振り抜いた剣はロキの腰から肩口を切り裂いた。
「ま、さか……」
ロキの手から槍が落ち、ロキは地面に倒れる。
その人物にカイは言った。
「……遅いぞ、ユージ」
彼は苦笑を浮かべてそれに答えた。
「待たせたな」
――
俺は倒れたロキを見下ろす。
ロキは仰向けになって、苦しげに呼吸をしていた。
「ユージくん!」
フィーアたちが駆け寄ってくる。
みんな達成感と安堵の混じった興奮状態であった。
それはきっと俺も同様だろう。
「おいしいところを持っていったわね」
棘のある言い方をするサクヤ。
しかしその口元には微笑を浮かべていた。
素直じゃない。
「ふっ……最後までユージにしてやられたか」
皮肉げに微笑を浮かべてロキは呟いた。
俺はロキを斬った。
致命傷だ。
もう助からないだろう。
ロキほどの実力者の動きを止めるにはこうするしかなかった。
一撃で体力を削るには、スカジのときのように致命傷を避ける余裕はなかった。
「……ユージ」
サクヤが俺の目を見る。
俺の代わりにロキにとどめを刺すつもりなのだろう。
素直じゃないくせに人一倍優しいのがサクヤという少女なのだ。
俺は首を振る。
その必要はない。
責任から逃げれば、この先もっと大事な場面で信念が揺らぐ。
今更なんだというのだ。
戦争とはそういうものだ。
これまでだって俺は何度も人の死を見てきたんだ。
「ロキ様っ!」
そこで叫び声が聞こえる。
それは片腕を失いながらここまで追ってきたスカジであった。
意識を取り戻したのか。
だが、体力はすでに限界であり、すでに戦える状態ではない。
その怪我で意識を保っていられるだけでもたいしたものだ。
それでも苦しげな表情を浮かべながらロキの元へと駆け寄る。
「……スカジ」
「ロキ様、そんな……」
ロキの前で膝を付くスカジ。
「すみません、わたくしのせいで……」
「いや、お前はよくやった。何も嘆くことはない」
ロキはスカジの頬に手をやると、その瞳を指で優しく拭う。
「最後まで俺に付いてきてくれて、感謝している」
「そんなこと……」
「どうやら俺の復讐はここまでらしい……」
ロキは淡々とした声でそう言った。
その表情から内心は読み取れない。
「ロキ様……」
スカジはロキに顔を寄せた。
二人の唇が触れ合う。
そこで二人の体が粒子状に変化し始めた。
どうやらこれで戦争は終わったらしい。
皮肉にも粒子となって光輝く二人の姿はとても美しかった。
そしてまもなく、二人の姿は完全に消えてしまった。
俺はしばらく二人のいた場所を無言で見つめていた。
いくら作られた仮想の世界でも彼らは生きていた。
一人一人に戦う理由があり、生きる目的があり、そこにはドラマがあった。
俺はそれを作り物だと笑うことはできなかった。
「終わったわね」
サクヤが俺に言った。
「ああ、終わったな」
俺は頷いた。
いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
俺たちは魔王を倒して現実世界に帰ると決めたのだから。
それから、すぐ側に落ちていた槍を拾う。
『伝説の槍』。
9つの秘宝のうちの一つを手に入れた。
「これで残りの秘宝はあと3つだね」
フィーアの言葉に俺は無言で頷く。
その言葉には色々な感情が込められていた。
あと少しだ。
それで俺たちはもう会えなくなってしまう。
それでも俺たちは前に進まなければならない。
それをフィーアも望んでいるのだ。
「よし、みんなに知らせるぞ。終戦の報告だ」
俺たちはロキを倒し、秘宝の一つを手に入れた。
今はその喜びをみんなで分かち合おう。
こうしてアースガルズとの戦争は終わりを告げた。




