第七話 スカジとの再戦
俺が各国へ使者を送ってからさらに一ヵ月が経過しようとしていた。
今ヨトゥンヘイムには各国から支援の知らせが集まっている。
ミズガルズ、アルフヘイム、ニダヴェリール、スヴァルトアールヴヘイム。
この四か国が協力してくれることになった。
ここまでイクスの読みどおりだ。
アースガルズ包囲網は確実に出来上がりつつある。
俺たちはヨトゥンヘイムを出発し、アースガルズへと進軍を開始していた。
同時に、他の国もアースガルズへと兵を集結させている。
間違いなくこれがロキとの最終決戦となるだろう。
俺たちは馬で移動していた。
天候にも恵まれ、今のところ順調に進軍することができた。
「ユージくん、ロキを倒したらアースガルズはどうするの?」
俺の隣に並んで、馬で駆けるフィーアが言った。
「そうだな……各国の代表と話し合って決めようか」
実はその後のことは具体的には考えていなかった。
俺たちの目的はロキを倒すことと秘宝を手に入れることだ。
アースガルの領土に興味はないし、統治はミズガルズにでも任せてしまって構わない。
「とにかくそれを考えるのはロキを倒してからだな。言うまでもなくロキは手強い。それにスカジもいるんだ。簡単にはいかないだろう」
「うん、わかってる。それに、私たちがゲームをクリアするためには、これ以上犠牲者を出すわけにはいかないもんね」
この戦争は俺たちがゲームをクリアすることに繋がっている。
しかしフィーアの瞳に迷いはなかった。
フィーアはすでに覚悟ができていた。
だから俺もその覚悟に応える必要がある。
「ああ、俺たちは必ず現実世界に帰る。だからフィーア、俺に力を貸してくれ」
「もちろんだよ。私は何があってもユージくんを……好きな人を守るから」
フィーアは真剣な表情でそう言うと、ぎゅっと手綱を強く握った。
――
そしてついに戦争が始まった。
アースガルズに着いた俺たち。
アースガルズも各地に軍を配置し、俺たちの進軍を待ち構えていた。
次々と戦闘が開始され、進軍していた兵士の足が止まる。
しかし次々やってくるアースガルズの兵と戦闘をしながらも、俺たちはロキのいると思われる宮殿へと進み続けた。
アースガルズの中心都市、イザヴェル。
民衆の悲鳴や兵士の怒号があちこちから聞こえてくる。
俺たちはその混乱の中を駆け抜けた。
躊躇っていてはいけない。
一般人に手を出さないように兵士には命じてあるが、この騒ぎでは負傷者が出ているかもしれない。
それでも俺たちはただロキのもとを目指して走った。
イザヴェルの中心部に建てられた大きな宮殿。
周囲を高い城壁に囲まれた不落の要塞。
俺たちはついにそこまで辿り着いた。
周囲にいた敵の兵士たちを蹴散らし、俺たちの軍が宮殿を囲む。
「この中にロキがいるんですね……」
「ああ」
アイの言葉に俺は頷く。
そこで大きな破壊音が轟いた。
破城槌によって門が破壊されたのだ。
そして宮殿の中へと兵士が中へと殺到していく。
「俺たちも行くぞ!」
続いて俺たちも宮殿の中へと侵入を開始した。
宮殿の中は今まで以上に兵士で埋め尽くされていた。
さすがは大国アースガルズだけあって兵士の数も圧倒的だ。
前回とは違って今度は俺たちの方が数では不利だった。
しかしレベルで負けているつもりはない。
俺たちはやってくるアースガルズ軍を返り討ちにしながら宮殿内を進んだ。
「ここまでは順調ね」
「サクヤの指示のおかげだな」
戦術や陣形に関してはサクヤの知識が役立っていた。
サクヤが言うにはどうやら現実世界で起きた、大昔の実際の戦いで使われていたものを元にしたらしい。
「こんなこともあろうかと多少ネットで知識を仕入れてきたのよ」
以前にサクヤはそう言っていたが、俺にはネットが何か分からなかった。
サクヤはたまに俺の知らない言葉を当たり前のように使うことがある。
そのため理解するのが大変だった。
宮殿は広く、中に入ってもロキのもとへなかなか辿り着くことができなかった。
しかし宮殿内に入った途端、ロキのプレッシャーのようなものを全身に感じた。
そして、宮殿の雰囲気もどこか重苦しい。
部屋全体が薄暗く、空気が冷たい。
「なんだか不気味ですね……」
同じことを思っていたのかユキがぽつりと俺に呟く。
この雰囲気もそう感じるように設定されて作られたものなのだろうか。
サクヤの話を聞いた今だとそう思ってしまう。
だが、今はそれを気にしている場合ではない。
アースガルズ軍の兵士が押し寄せる。
「陛下、先に行ってください!」
「この場は私たちが食い止めます」
「くっ、すまん。ブリュンヒルデ、ヘルヴォル、この場の指揮は任せたぞ」
「ユージ様もどうかご無事で」
この間にも戦闘によって味方の兵士の足が止まり、徐々に俺たちの前を行く兵士の数が減っていく。
ついに俺たちが部隊の最前線になったとき、宮殿の広間に辿り着いた。
その両開きの大きな扉を開けると、そこに一人の女が立っていた。
「――ようこそ。お待ちしておりましたわ」
そこにいたのはスカジだった。
俺たちは周囲を警戒しながら広間の中に入る。
「スカジ……よくミズガルズから脱走できたな」
「ええ、ロキ様がわたくしを救ってくださいましたの」
微笑を浮かべたスカジが俺に言った。
やはりロキが一枚噛んでいたらしい。
「ユージ、わたくしはあなたを許しません。ロキ様の野望の障害となるあなたには消えてもらわなくてはなりませんわ」
スカジにも譲れない信念があるのだろう。
だが、俺たちにはロキを倒さなくてはならない理由が多すぎた。
村の復讐。
レンから託された願い。
ヨトゥンヘイムやミズガルズの平和の維持。
そして、ゲームをクリアして現実に帰るため。
俺たちはロキを倒す必要がある。
俺は剣を抜くと、一歩前に出た。
「みんな先に行け、ここは俺がやる」
「ユージ、私も戦います」
俺はシーナの言葉に首を振る。
「いや、ここで足止めを食うわけにはいかない。みんなは早くロキのところへ行ってくれ」
この先にロキがいるとすれば、戦力は一人でも多く残しておいた方が良いだろう。
スカジの誘いに乗ってみるのも悪くはない。
「カイ、後は任せる」
カイに任せておけば上手くやってくれるだろう。
「分かった。この場はお前に任せたぞ」
カイは頷くと先へと走る。
色々言いたいこともあっただろうが素直に従ってくれるカイに感謝する。
「そういうところはここでも相変わらずなのね」
サクヤが俺の隣を通り過ぎる際に、ぼそりとそう呟くと、そのままカイに続いた。
他のみんなもスカジの脇を通り、ロキのもとへと向かって走り抜ける。
残った俺に対し、スカジが眉をひそめて尋ねる。
「……良いのですか? あなた一人でわたくしに勝てるとでも?」
「ああ、もちろん勝つつもりだ」
そのつもりじゃなければ一人で残らない。
思えば、俺はこれまで仲間たちに助けてもらって旅をしてきた。
だけどこの先、さらに厳しい戦闘が続けば必ずこういう場面がくるだろう。
俺一人でスカジを倒すことができなければ魔王の相手なんて到底できないと思う。
これは俺が自分自身に対して課した試練だ。




