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第一話 世界の真実

「この世界はすべて、コンピュータによって創られた仮想現実よ」


 サクヤから聞かされた言葉が俺には理解できない。

 この世界が造られた世界?

 現実ではない?

 そんなことがありえるのか。


 周りを見渡せばその思いは他のみんなも同様らしく、全員が困惑していた。

 しかしサクヤは真面目な顔でその事実を告げる。


「ユージ、あなたの本名は稲葉悠二。年齢は十七歳。日本で生活する普通の高校生。それが本当のあなたよ」


 ズキリと頭が痛む。

 この痛みは一体何なのか。


「嘘だ。そんな馬鹿なことが……」


 サクヤは俺を憐れむように見つめていた。


「それじゃああなたは自分の小さなときの記憶を覚えている? 両親は? 誰に育てられたか答えられる?」

「そんなの当然――」


 そう言いかけて俺は言葉に詰まる。

 サクヤの言う通り、俺は幼い頃の記憶を一切覚えていなかったのだ。

 それどころか数年前のことさえ思い出せない。

 その事実に気付いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 サクヤはそんな俺の様子を見て目を僅かに細める。


「いくら現実世界の記憶を消すことはできても記憶の改変まではできなかったみたいね。どこかで違和感を覚えたことはなかったかしら?」


 サクヤの言葉に俺は思い当たることがいくつかあった。

 たまに夢に見る機械だらけの部屋。

 不意に覚える懐かしい感覚。

 あれは俺の前世ではなくて現実世界の俺の記憶だというのか。


「あなたはとある事故によって記憶を失ってこの仮想現実で生活をしていた。原因はコンピュータの暴走。研究者全員があり得ないと驚愕したわ。まさか人工知能が自我を持つなんて」


 俺にはサクヤが何を言っているのか殆ど理解できなかった。

 聞きなれない単語がいくつもあるうえに内容もあまりに現実離れしている。

 いや、サクヤからしたらこの世界の方が現実離れしているのかもしれないが。


「……それで、結局サクヤはその現実世界から来たってことか? でも一体どうして俺たちの知らないことをサクヤは知っているんだ?」


 すると、サクヤは凛とした瞳でじっと俺を見つめるとそれを告げた。


「私は――悠二たちを救いに来たの」


 サクヤは続ける。


「悠二、あなたと同じ境遇の人は全部で七人いるわ。私はあなたたち7人全員を現実世界に戻すためにここに来た。幸いデータの容量は2人分残っていたから私はすぐに決断できたわ。でも、同じマシンからプレイすれば何が起こるかわからない。現にあなたたちは記憶を失っていたものね。だから私は当時すでに開発中だった、REV004の演算システムを利用しつつ全く別の端末から仮想現実に潜るデバイス、その試作機を改良して一ヵ月で実用化まで漕ぎ着けた」

「ちょっと待て、言っている意味が良く分からないんだが……」


 とにかく初めて聞く単語が多すぎる。

 頭がパンクしそうだ。


「とりあえず今は私があなたたちの味方だと思ってくれればそれで良いわ。そして私はその独立した端末を介してこの仮想現実に侵入したのよ。サポートプログラムのイクスを同行させてね」

「サポートプログラム?」

「簡単にいえばイクスはゲーム中にプレイヤーの手助けをするために造られたお助けキャラなのよ。だからイクスは私やあなたとは違って現実には存在しないってこと」


 俺はイクスを頭から爪先まで観察する。

 どう見ても俺たち同じ人間にしか見えない。


「イクスの名前はそのデバイスのマシンナンバーであるイクスに由来しているわ。彼のおかげで私はここまで順調にプレイすることができたの」

「ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。イクスと申します。私の主な役目はプレイヤーに助言と解説を与えることです」


 それまでサクヤの背後に黙って控えていたイクスは丁寧な口調でそう言って頭を下げた。

 そしてサクヤが話を続ける。


「私は現実世界とこの仮想現実を定期的に行き来しながらデータを収集したわ。全ては暴走の原因を解明してあなたたちを現実世界へ返すため。そして、私はその原因の手掛かりと解決策を突き止めたわ」

「それは一体……」

「案外手掛かりはすぐ間近にあるものね。ところで、そろそろ何か察した人もいるんじゃない?」


 サクヤがミステリアスな微笑を浮かべると、そこで険しい表情でカイが尋ねる。


「待て。お前の話だと本当の世界に存在しているのはたった7人。それじゃあ他の奴は何者なんだ?」

「NPCよ。あなたたちのような人間じゃなくてプログラムされた人形。仮想現実でしか生きることができない造られた存在。それが彼ら」

「そこの男と同じように、か?」

「イクスは少し違うわね。彼は自分がNPCである自覚を持つプログラムの一つであり、プレイヤーをサポートするための存在。彼らが操られた人形なら、イクスはいわば舞台の役者ね。他のNPCは自分たちがNPCだとは気付いていないし、仮に教えたとしても絶対に理解しないようになっている。けれどイクスはこの世界が仮想現実で自分がNPCであることを理解したうえで自分の役目をこなしているのだから」


 NPCとサポートプログラム。

 その二つのよく違いが俺には分からないが、とりあえずこの世界には人間とNPCと呼ばれる存在がいるということはわかった。

 しかし、そうなると問題は、7人の人間は一体誰なのかということだ。


 俺たちは無言で顔を見合わせる。

 緊張感が漂い、その場が静寂に包まれる。


「そ、それで、その7人というのは誰のことなんですか?」


 その空気に耐えられなくなったアイがついにその疑問を口にした。

 それを知ってしまえば今後の俺たちの関係は大きく変わるだろう。

 しかし目を逸らしていてもいつかは向き合わなければならない問題だ。


「教えてくれ、サクヤ」


 俺はサクヤに問いかける。

 みんな薄々感付いているはずだ。

 ずっと俺たちと行動していたメンバーが全員NPCでないということはありえない。

 初期のギルドのメンバーでさえ8人いた。

 つまりこの中にNPCがいてもおかしくないのだ。

 サクヤは俺たちの顔を順番に見渡すと、静かに口を開いた。


「事故に巻き込まれた高校生のゲーム上での登録名は次のとおりよ……ユージ、シーナ、カイ、レン、アキラ、アイ、ユキ。これで計7人」


 誰もが言葉を失う。

 サクヤに名前を呼ばれなかった人物がこの場にいた。


「そ、それじゃあ、まさかフィーアが……」


 俺は信じられない思いでフィーアの方を見る。

 全員の視線がフィーアに集まった。

 フィーアは無言のまま俯いている。


「ええ、彼女は人間じゃないわ」


 サクヤはあっさりと肯定する。


「そんな、フィーアさんが……」


 信じられないといった表情のユキが呟く。


「本当なのか、フィーア?」


 俺は思わずフィーアに尋ねる。

 できれば否定してほしかった。

 すると、しばらくしてからフィーアはようやく口を開いた。


「……そっか、もう分かっちゃんだね」


 そう呟いたフィーアは諦めたように大きなため息を付くと、苦笑を浮かべて言った。


「うん、私は人間じゃないよ。今まで黙っててごめんね、ユージくん」


 フィーアは笑みを浮かべながらも泣きそうな表情をしていた。


「フィーア……」


 その辛そうな表情に俺は何も言えなくなる。


「それにしてはNPCらしさが全然ないように見えるが? NPCに自分がNPCだと教えても理解しないようになっていると言ったのはお前じゃなかったか?」


 カイが疑問を口にすると、サクヤの代わりにイクスが首を振って答えた。


「それも仕方のないことでしょうね。彼女は私とある意味同じ存在であり、ただのNPCではありませんから」

「同じ存在だと?」

「彼女の正体はREV004の学習プログラムです」



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