第三十一話 始まりの終わり
俺たちはスリュムヘイムの宮殿を目指して森の中を走っていた。
途中でアサシンの襲撃があった最悪の場合を考え、ブリュンヒルデたちと別行動を取ることにした。
アサシンの狙いはどうやら俺たちのようであるし、戦闘になった時にこれ以上兵士から犠牲が出ることは避けたい。
生き残ったのは怪我人も含めて総勢で三千人ほどだろうか。
あれだけの規模の戦争にしては被害の少ない方だろう。
だが、レンを失ったショックは計り知れない。
それにおそらくアキラも……
「ちっ……くそっ!」
感情が抑えられなくなり俺は無意味に叫ぶ。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
もっと俺に力があれば。そんな後悔が頭の中で渦巻く。
「アキラさん……どうかご無事でいてください……」
今にも泣きだしそうな弱弱しい声でユキが呟いた。
アサシンの強さは異常だった。
あそこでサクヤが来なければもっと被害は増えていたかもしれない。
俺は後ろを走るサクヤにちらりと視線を移す。
別行動を取ったのは俺、フィーア、ユキ、カイ、シーナ、アイ、そしてサクヤとイクスの八人だった。
この人選はサクヤが指名した。
どうやら俺たち以外には話したくない内容らしい。
今のところサクヤとイクスの二人は何も言わずに俺たちに付いてくるだけだった。
広大な森の中ほどまで来たところで開けた場所に出たので、俺たちは一度休憩することにした。
近くに小川も流れており、体を休めるのにはちょうどいい。
それからしばらく時間が経ったところで、カイが俺に尋ねた。
「ユージ、これからどうする? アサシンも気になるが、ロキもこれからアースガルズに戻って体勢を立て直すことだろう。ロキを倒すなら早い方が良いと思うが?」
「ああ、だけどいつアサシンの邪魔が入るか分からない。それに、レンとアキラ抜きですぐにアースガルズに攻め込むのは厳しいと思う。俺たちにも立て直す時間が必要だ」
「確かにそうかもしれないな」
カイが頷く。
そこで全員が黙り込み、辺りは静まり返った。
……失言、だったかもしれないな。
俺の言葉がこの場に二人がいないことをみんなに再認識させたらしい。
重苦しい空気が支配する。
だが、それを打ち破る声がした。
「――まだ悲しむには早いわよ」
そう言ったのは、それまでずっと黙って俺たちの様子を見ていたサクヤだった。
「確かに彼女たちはこの世界から消えたかもしれないけど、まだ死んだわけじゃないから」
「……サクヤ、それはどういう意味だ?」
サクヤの言葉の意味が俺には理解できずに聞き返す。
この世界から消えるということはつまり死ぬということではないのか。
「そのままの意味よ。この世界での死は本当の死ではない。あなたたちの誰かが生き残っている間はね」
サクヤは意味ありげな微笑を浮かべた。
俺はその謎めいた瞳を見つめ返す。
サクヤはこの世界のことをどこまで知っているのか。
そもそもサクヤは一体何者なのだろうか。
その目的は何なのだ。
サクヤの全てが謎に包まれていた。
「サクヤ、教えてくれ。君は一体何者なんだ?」
「ユージ、本当にあなたは何も覚えていないのね……」
するとサクヤは悲しげな表情を浮かべ、じっと俺を見つめる。
俺にはその瞳が何を告げようとしているのかまったく心当たりがなかった。
「そうね……まずはこの世界の真実から教える必要があるみたいね」
サクヤは呟くと、俺たちの顔を順番に見渡す。
そしてサクヤは、その事実を告げた。
「――この世界はすべて、コンピュータによって創られた仮想現実よ」




