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第二十九話 混沌

――


 二人の刃が交錯する。


「くっ……」

「っ!」


 レンのナイフがナルヴィの首筋を切り裂く。

 一方ナルヴィの杖はレンの胸を貫いた。

 そのまま二人は同時に地面に倒れる。


「レンさん!」


 フィーアが悲鳴を上げる。

 ユキと一緒にレンのもとに駆け寄った。


「ぐっ……そう上手くはいかないものだね……」


 レンは苦笑を浮かべて小さく呟く。

 その胸から血が溢れて地面に流れていた。


「い、今、回復アイテムを……」

「ユキさん、残念だけどこれは致命傷だよ。アイテム程度でどうにかなるものじゃない」

「で、ですが……」


 ユキは言葉に詰まる。

 レンの言うとおり、もはやアイテムでなんとかなる状態ではなかった。

 出血量が回復速度を上回っている。

 何とかしたいがどうすることもできない。

 次第にレンの呼吸が荒くなっていくのがユキたちにも分かった。


「……呆気ないものですね」


 近くで倒れていたナルヴィがぽつりと呟いた。

 あの出血量ではナルヴィも長くはもたないだろう。

 ナルヴィの言葉にレンが答える。


「人生なんて死ぬときは呆気ないものだよ。僕たちはこれまで何度も見てきたじゃないか」

「それを知っていて、あなたは復讐のために生きてきたんですか?」

「うん、僕自身を納得させるためにね」

「満足はできましたか?」

「うん、とても」


 レンは即答した。


「……私は未練ありまくりですよ。ロキ殿の復讐を最後までこの目で見届けることができず残念です……」


 ナルヴィは自嘲気味に笑うと、そこで目を閉じる。

 そしてそのままナルヴィは二度と目を開けることなく、この世界から消えてしまった。


「さて、僕もそろそろかな?」

「レンさん、お願い、死なないで……」


 フィーアが縋るようにレンの手を握る。


「フィーアさん、僕は本当に満足しているんだ。村の敵の一人をこの手で殺すことができた。ロキを殺せなかったのは少し残念だけど、きっとユージ君が倒してくれるから後悔はしてないよ」

「でも私たちはレンさんに生きていてほしいんだよ?」

「はは……それじゃあみんなに謝っておいてくれるかな。抜け駆けしてごめんね」


 レンは冗談めかして笑う。

 しかしその声に強さはなかった。


「そんなっ? 嫌です、レンさん。生きてください」


 しかしユキの叫びは届かない。

 そこでレンの体から無数の光が溢れ出る。


「残念だけど、僕はここでリタイアするよ……二人ともユージ君のこと、頼んだよ」


 レンはいつもと変わらない、皮肉げな微笑を浮かべた。

 そこでフィーアの手からレンの手を握っていた感覚が不意に消え、するりとレンの手をすり抜けてしまう。

 レンの存在がすでにこの世界から消えかけていたのだ。


「レンさん……」

「二人とも、ありがとう。これまで楽しかったよ」


 レンはとても満足そうな表情を浮かべ、両目を閉じた。


「……君たちと会えて、良かった」


 それから間もなくレンの体は粒子となって、そして消えてしまった。

 そこに残ったのはレンの持っていた銀のナイフだけであった。


「レンさん……そんな……」


 ユキはその場で崩れ落ちる。

 受け止められない現実。

 どうしていいのか分からずに、ユキはただ茫然とそれまでレンのいた場所を見つめる。


「……行こう、ユキちゃん。私たちにはまだやることがあるはずだよ」


 そこでフィーアが優しい声で言った。


「レンさんも言ってたでしょ? ユージくんを頼んだって」

「……そうですね」


 ユキは涙を拭うと、こくりと頷く。

 いつまで泣いていてもレンは戻ってこない。

 それどころかここで挫けてしまえばレンの意思まで無駄になってしまう。

 ユージとロキの戦闘はもう始まっているはずだ。

 フィーアとユキはロキのいる敵陣最深部を目指してひたすら走った。


――


 フィーアから聞かされたのはレンの死だった。

 俺は動揺を隠せずにいた。

 レンが死んだ?

 そんな馬鹿な。

 とても信じられない。

 他のみんなも驚いて目を見開いていた。


「そんなっ、レンさんが……嘘ですっ」


 一番動揺していたのはアイだった。

 そんなアイの姿を見て逆に俺は冷静さを次第に取り戻す。

 レンが死んだなんて嘘だと信じたい。

 だが、レンはフィーアとユキの目の前で消えてしまったのだ。

 それならきっと本当のことだろう。

 まだ現実を受け止めきれない。


 しかし、俺が辛うじて意思を保っていられるのは、レンの復讐の対象でもあるロキが目の前にいるからだった。

 ロキを倒すという目的が、俺の意識を否応なしに現実へと引き戻す。


「やはりナルヴィは死んだか……あの馬鹿野郎が」


 そこでロキが小さく呟いた。

 冷静なロキにしては珍しく感情を表に出す。

 それだけナルヴィという人物を大切に思っていたのだろう。

 だが、俺にとってはレンの敵でしかない。

 俺はロキに剣の先を向けると告げる。


「ロキ、お前は俺にここで絶対に倒されないといけない」

「ああ、俺もいい加減に決着を付けたいと思っていた」


 そこでロキも槍を構えた。

 じっと相手の動きを見て隙を窺う。

 次にどちらかが動いた時が決着の時だという確信があった。

 だが、そこで、俺たちは異変に気付く。

 何かが突然目の前に現れた。


「陛下!」


 誰もが茫然とする中、最初に動いたのはキースだった。

 俺を庇うようにその身を投げ出す。


「ぐぁっ!」


 背中を大きく斬られたキースは地面に倒れた。

 キースの体が粒子となり消える。


「キース!」


 その一瞬の出来事に、俺たち全員が驚愕の表情で突然の乱入者を見つめる。


「……」


 乱入者は何も言わずに俺たちを見つめていた。

 まるで感情の籠っていない瞳。

 全身黒い衣服で身にまとい、口元も黒いマフラーに覆われていた。

 その風貌は凄腕の暗殺者を思わせる。

 目の前にいるはずなのに気配が希薄でその姿を見失いそうになる。

 しかもさらに不気味なのは、先程から乱入者のステータスを見ようとしても、以前現れた男女の乱入者と同じくステータスを見ることができないのだ。

 その男は手に持ったナイフを無言で構える。


「誰だお前はっ?」


 俺の問いに乱入者は何も言わない。

 そこで乱入者は、いきなり俺たちに向かってきた。


「くっ」


 俺は向かってくる乱入者に剣を振り抜く。

 しかし乱入者は俺たちの攻撃を軽々と避け、しかも僅かな隙を付いて正確無比な攻撃を加えてくる。

 部隊の兵士たちが次々とやられていく。


「ユージ様!」

「陛下!」


 ヘルヴォルやブリュンヒルデたちが俺を庇うように前に立って、乱入者に立ちはだかる。


「気を付けろ。こいつは今までの奴とは違うぞ」

「ああ、ロキとは違った意味でヤバい殺気をピリピリ感じるぜ」


 カイやアキラもいつも以上に警戒した様子で乱入者を睨み付ける。

 俺もユキたちを背後に庇いつつ、その乱入者の動向に注視する。

 すると次に乱入者はロキに向かって襲い掛かった。


「ふん」


 ロキは槍で振り遅されるナイフを弾くと、そのまま槍を横に薙ぎ払う。

 乱入者はそれをかわすと、俺たちとロキのちょうど中間に位置するような場所に立った。

 どうやら奴はロキの仲間ではないらしい。


 侵入者はキョロキョロと眼球を動かして、まるで何かを探すかのように俺たちの姿を順番に見定めていく。

 この侵入者は何が目的なのだろうか。

 俺たちはロキと侵入者の両方を警戒する必要があった。

 そこで、さらに状況に変化が起きる。

 ドスドスと地鳴りのような音が次第に近付いてくる。


「ガアァァァァ!」


 咆哮とともに、大きな獣が姿を現す。

 見ると傷だらけで、片目は潰れていた。


「ちっ、まだ死んでなかったのか」


 そう言ったアキラが眉間にしわを寄せた。

 その獣はそのままロキの隣に移動すると、主を守るように俺たちを片方の目で睨み付ける。

 するとシーナが俺に言った。


「すみません、ユージ。仕留めそこないました」

「あいつもロキの仲間なのか?」

「はい、あれは魔獣ガルム。今はアースガルズ軍に従っているようです」


 ロキに従うガルムの様子はとても従順に見える。

 ロキはあんな奴も手懐けていたのか。


「帰還したのはお前だけか。まあ、それでも上出来だろう」


 長い毛皮に覆われたガルムの体を撫でると、ロキは呟く。

 状況はどうやら三つ巴の様相を呈してきた。

 ヨトゥンヘイム軍、アースガルズ軍、そして謎の乱入者。

 数では圧倒的に俺たちが勝るが、ロキの実力は言うに及ばず、何より乱入者の方は得体がしれない。

 このまま戦闘を続けれは取り返しの付かないことになりそうな予感があった。


「……ユージくん、ここは一回退いた方が良いかもしれない」


 俺の服の袖をぎゅっと掴んだフィーアが小声で囁く。


「大丈夫か、フィーア? 顔色が悪いぞ?」

「うん、大丈夫……」


 そう答える声もとても弱弱しい。

 珍しくフィーアは怯えていた。

 それほどあの乱入者が得体の知れない存在だということだろうか。

 どちらにしろフィーアの意見には賛成だった。

 ロキをここで叩けないのは痛いが、乱入者の強さが未知数な今、下手に手数をかけるわけにもいかない。

 ロキにしてもガルムという仲間が増えた以上、今より倒すのは困難になった。


「俺も撤退すべきだと思う。問題は……」


 しかし、問題はロキたちはともかく乱入者が俺たちを逃がしてくれそうにないということだ。

 撤退するにしても多少犠牲が出るかもしれない。


「あの正体不明の男を何とかしないといけない。少しでも足止めができればな……」


 しかしあの乱入者相手にどれだけ足止めができるだろう。

 しかもロキとガルムもいる。

 そこで乱入者は俺たちの方に向かって駆け出した。

 ヘルヴォルたちの攻撃をかわしながらこちらに近付いてくる。

 狙いは俺ではなくフィーアのようだ。


 乱入者がフィーアにナイフを突き出す。

 俺はフィーアの前に立つと、剣でナイフを受け止めた。

 その一撃は鋭くて重い。

 体格では差はないはずなのに押し負けそうになる。

 そこにカイが横から刀を振り下ろす。

 乱入者はギリギリで後ろに跳んで避けた。

 刀は空を切る。


 そこで今度はガルムが俺たちに突っ込んできた。

 俺はフィーアを抱きかかえると、ガルムの突進を横に跳んで避ける。

 するとそこで乱入者が跳躍して、ガルムの背中にナイフを突き立てようと右手を振り下ろした。

 しかしロキが槍でナイフを受け止める。

 それとほぼ同時に、背後に瞬間移動したシーナが乱入者に大鎌を振り下ろす。

 そこで乱入者は体を捻ると、ロキとシーナに向かって同時に蹴りを放った。


「――っ」


 ロキは槍の柄で受け止めるが、シーナはまともに食らって後ろに飛ばされる。

 乱入者は空中で体勢を立て直して着地すると、回転しながらロキから距離を取った。


「シーナ、無事かっ?」

「はい、問題ありません……」


 シーナは咄嗟に腕で防御したらしく、だらりとした左手を右手で押さえていた。

 あの様子だと骨が折れているかもしれない。


「……なんて奴だ」


 俺はその規格外の身体能力に驚愕する。

 これだけの実力者を相手に一人で戦って無傷でいるどころか押してさえいる。

 乱入者は狙いを俺たちに絞ったらしく、こちらを見てナイフを構えた。

 対する俺も剣を構える。

 こうなったら相打ち覚悟で乱入者を止めるしかない。


 そう決意したとき――そこで銃声が轟いた。


 乱入者は飛んできた銃弾を驚くべきことにナイフで切り裂く。

 いくらなんでもデタラメ過ぎだ。

 しかしそれで終わらずに連続で聞こえる銃声。

 乱入者は後ろに回転しながら銃弾を避ける。

 それでも避けきれずに、乱入者の足に銃弾が命中した。


 乱入者はバランスを崩し、その場に倒れて動きを止める。

 さらに何度か乱入者に銃弾が撃ち込まれた。

 その一瞬の出来事にその場が静まり返る。

 俺は銃声のした咆哮を見ると、そこには見覚えのある女の子が立っていた。


「まったく、見てられないわね」


 その新たな乱入者に、俺たちは驚きを隠せなかった。

 それは以前、スヴァルトアームヴヘイムにある迷いの森で出会ったサクヤと呼ばれる少女であった。



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