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第二十七話 交錯

 俺たちはアースガルズ軍を薙ぎ倒しながら一直線に敵陣中央を突破していく。

 先にカイたちが道を開いてくれていたおかげで敵の混乱に乗じることができた。

 途中でカイの部隊とも連携しながら強引に突き進む。

 そしてついに俺たちは敵陣を抜けた。


 その瞬間、俺は背筋にぞわりと悪寒を感じた。

 今までと比較にならない圧倒的なプレッシャー。

 ビリビリと殺気が肌に感じられるようだった。

 その先にいる人物を俺は警戒しながら睨み付ける。


「――やっぱりお前が直接来ると思ったよ、ユージ」


 目の前に黄金の槍を持った男が悠然と立っていた。

 周囲には彼の他には護衛も誰もいない。


「ロキ……」


 ブリュンヒルデが憎々しげに男を睨み付けた。

 かつてアースガルズにいた彼女にとっても彼は因縁の相手であった。


「正直驚いたな。スカジを倒すとは思わなかった」


 ロキは素直に称賛を口にした。


「俺も驚いた。俺が言うのも変だけど、国王ロキがまだこんな若い男だったなんて」


 見た目はまだ二十代半ばから後半くらいだろう。

 この男が大国を率いる冷酷で残忍な王と言われてもにわかには信じがたい。

 だが、その圧倒的な存在感とカリスマ性は国王に相応しいと納得もできた。


「陛下、ご命令を」


 今にも戦闘を開始したい気持ちを抑えきれずにブリュンヒルデは俺に問う。

 俺は頷くと親衛隊に言った。


「――侵略者を確保しろ。生死は問わない」


 それを合図にブリュンヒルデたち親衛隊がロキに向かっていく。

 そこで、ロキは片手で軽く槍を一薙ぎした。

 すると周囲に激しい風が起こる。

 兵士たちはその暴風に押され、ロキに接近することもままならず後ろに吹き飛ばされてしまった。


「雑魚に興味はない。ユージ、お前が相手になれ」


 ロキは平然とした表情で俺に告げると、手招きする。

 舐められたものだ。


「元々そのつもりだ」


 俺は剣を構えると、地面を蹴って駆ける。

 そのままロキへと斬りかかる。

 俺の剣とロキの槍が交差した。

 俺の剣を受け止めたロキは涼しい表情を浮かべている。

 剣を持つ手に力を入れるがびくりともしない。

 押し合いでは勝てる気がしなかった。


 俺はそこで能力を使用して加速するとロキの背後に回り、その首へと剣を振り抜く。

 しかしロキは振り向くことなく槍を背後に回して剣を受け止めた。

 そこでロキは俺を称賛するように口笛を吹く。

 その余裕が腹立たしい。


「やるね。気配を追うのでやっとだ」


 さらりと常人離れしたことを言うと、ロキは槍で俺の剣を弾き、振り向き様に槍を振り抜く。

 槍の柄を腹に受けた俺は弾き飛ばされて地面に膝を付く。


「ユージ様っ! 大丈夫ですか!」


 ヘルヴォルが駆け寄ってくるのを俺は手で制する。

 ダメージは殆どない。

 だが、今の攻防でロキの実力ははっきりした。

 ロキは強い。

 スカジ戦の比ではないほど圧倒的で絶望的な差を感じた。


「通常なら肋骨数本折れていてもおかしくないんだけどね」


 ロキは僅かに苦笑いをすると、俺に向けて槍を構えた。

 俺たちの攻防を見つめるブリュンヒルデが険しい表情で呟く。


「あれがオーディン様から奪った秘宝、伝説の槍グングニル……」

「なるほど。あの槍がロキの力をさらに強化しているってわけか」


 するとそれを聞いたロキが肩を竦めた。


「侵害だな。秘宝を持ってるのはお互い様だ。何なら俺は秘宝を使わないで相手をしようか?」

「っ、その必要はない!」


 俺は再びロキへと突っ込む。

 そして何度も剣を振り抜くが、ロキにすべて槍で受け止められた。

 逆にロキの槍が俺を突こうとする。

 そこで俺は距離を取らざるを得なかった。

 ロキはまるで遊んでいるようだ。

 俺は奴に勝てるのだろうか。


「俺に小細工は通用しない。戦闘で重要なのは個々の実力だ。練りに練った作戦も圧倒的なレベル差の前ではすべて無意味になる」


 それはこの世界での真理だった。

 近しいレベル同士が集まった戦争であれば戦略や戦術が勝敗を分けることになる。

 だが、圧倒的なレベルの相手の前にはどんな作戦も通用しなくなる。

 攻撃が当たらない。

 当たってもダメージを与えられない。

 そんな理不尽を経験することになる。

 その存在自体が一個大隊より勝る戦力であるのだ。


 だが、諦めるわけにはいかない。

 いくら差があっても無敵の存在などあり得ない。

 どちらかが力尽きるまで何度でも立ち向かうだけだ。

 俺はもう一度ロキへと向かって駆け出した。


――


 カイとヴァーリの戦闘は長らく膠着状態が続いていた。

 一進一退の攻防。


「ふっ!」


 カイが刀を振り抜く。

 ヴァーリは上半身を反らして避けると、そのまま体を捻って回し蹴りを放つ。

 カイは咄嗟に日本刀を体の前に出すが、刀ごとカイを吹き飛ばした。

 まるで肉体が鋼鉄でできているような硬さだ。

 カイは空中で回転すると、地面に着地する。


「ふん、やるな」

「……今ので無傷か」


 互いに相手の実力を認め、称賛の声を漏らす。

 二人とも本質は同じだった。

 強い相手と戦うことに喜びを覚える。

 心震えるような熱い戦闘に感情が高ぶり、つい無用な会話まで口にしてしまう。


「疑問だな。貴様の実力なら皇帝の座も狙えたのではないか?」

「生憎、俺はそういうものに興味はない。ああいう面倒な役はユージの方が適任だしな」

「皇帝のことを随分と買っているようだな」

「まあな。そういうお前はどうしてロキに従っている? 目的はなんだ?」

「目的か……これも皮肉な話だな」


 そこでヴァーリの表情が僅かに険しくなる。


「無駄口はここまでだ。いつまでも貴様に付き合っているわけにもいかない」

「そうか、残念だ」


 それはヴァーリの話を最後まで聞けなかったことなのか。

 それとも戦闘が終わりを迎えることなのか。

 カイは一度日本刀を腰の鞘へと戻すと、体を低くし、抜刀の構えを取る。


「――それじゃあ決着を付けるとしよう」


 カイに応えるようにヴァーリは無言で頷く。

 最初に動いたのはヴァーリだった。

 ヴァーリがカイへと接近し、拳を振り抜く。

 同時に、カイは腰の刀を抜く。

 瞬きする暇もないほどの一瞬、そこで二人の位置が入れ替わった。

 僅かな静寂。


「……見事だ」


 カイの刀は、ヴァーリの腰から肩口にかけて、大きく切り裂いた。

 ヴァーリはそのまま地面に倒れる。

 カイは刀を鞘へと戻した。


「紙一重だったな」


 カイはヴァーリを見下ろす。

 カイの頬が拳の風圧で僅かに切れ、血が滲んでいた。

 その結末は、周囲で戦闘をしていた兵士たちにも大きな影響を与えた。

 カイの勝利に沸くヨトゥンヘイム軍。

 ヴァーリの敗北に動揺するアースガルズ軍。

 それらの反応をカイはどうでもよさそうに一瞥する。


「さて、ユージたちはどうなったか」


 カイは倒れたヴァーリに背を向けると、敵陣の奥へと向かって進み始めた。


――


「能力が通じない? レンさん、どういうこと?」


 フィーアが尋ねる。

 レンは顔をしかめて答えた。


「あいつは他人の能力をその目で見るだけで無効化できるんだ。だから僕やユキさんの能力は使えないし、当然フィーアさんも気を付けた方が良いよ」

「そ、そんな能力がありえるのっ?」


 フィーアは目を丸くしてナルヴィの方を見る。


「彼女の言うとおりです。私の視界にいる限り、あなた方の力は使えません」


 その力を誇示するかのように、ナルヴィの金色の目が僅かに光を放っていた。


「……フィーアさん、どうやら本当みたいです」


 青ざめた表情をしたユキが小声で言った。

 試しに強化の能力を使おうとしたが、発動することができなかったのだ。

 するとナルヴィが挑発するように言った。


「どうします? 大人しく降伏しますか?」

「まさか。それなら能力以外で戦うだけだよ」


 フィーアは弓を構えると、流れるような動作でナルヴィに向けて矢を放つ。

 ナルヴィは素早くそれをかわすと、三人の方へ接近する。

 そのまま手に持っていた仕込み杖を一番近くにいたレンに突き出した。

 レンが両手に持ったナイフを体の前でクロスさせてそれを受け止める。


「レンさん!」


 ユキがナルヴィに向けて、文字の書かれたお札を投げつけた。

 レンは素早く後ろに跳んで離れる。

 そこでお札から激しい火柱がナルヴィに向かって放たれた。

 攻撃系アイテム『業火の呪符』。

 あくまでナルヴィの無効化の対象は能力だけであってアイテムにまでは効かないようだ。

 炎がナルヴィの目の前まで迫る。


「おっと、危ないですね」


 遅れて、ナルヴィも後ろ側に跳んでそれを避ける。

 そして、地面を蹴って方向転換すると、今度はユキへと杖を伸ばした。

 ユキは体を捻って、それを紙一重で避ける。

 今の経験を積んだユキなら接近戦でもそれなりの対処ができた。

 そこにフィーアの矢が放たれ、ナルヴィは堪らずユキから距離を取る。


「なかなか良い連携ですね。少し肝を冷やしました」


 しかしそう言ったナルヴィは涼しい表情を浮かべていた。


「私たちも能力ばかりに頼っているわけじゃないからね。さっさと降参した方が良いんじゃない?」

「怖い怖い。あなた方がこちらの陣営でないのが残念なくらいです」

「アースガルズみたいな悪魔の国の手先に誰がなると思ってるの」

「これは手厳しい」


 ナルヴィは大げさに肩を竦める。


「当然でしょ。村に軍隊を送って村人を皆殺しにするなんてまともな人のできることじゃないよ。しょっちゅう戦争もしてるみたいだし、どうせアースガルズさえ良ければ何をしても良いと思ってるんでしょ」


 しかしフィーアの言葉にナルヴィは複雑そうな微笑を浮かべた。


「確かにロキ殿はまともではないかもしれませんね。けれど、別にロキ殿も好きで侵略をしているわけじゃありませんよ?」

「それじゃあどうして?」

「ロキ殿の目的は至ってシンプルですよ。彼は世界の支配者になるつもりなんです」


 大真面目にナルヴィは告げる。


「世界の支配者?」


 フィーアだけでなくユキとレンも呆気に取られた表情をしていた。

 単純な故に理解できない、あまりに馬鹿げた理由だった。


「僕らを馬鹿にしてるだったら怒るよ?」

「私は真面目に言ってるんですよ。ロキ殿は世界に復讐するつもりなんです。自分を怪物として生んだ世界にね」


 レンが睨み付けると、ナルヴィは言った。


「ああ見えて彼も結構大変な人生を歩んでいましてね。彼にとって力を示すことこそ、自分の存在意義なんですよ」


 ナルヴィの表情は少し悲しそうだった。

 話の内容自体は抽象的で理解できないが、その表情がユキは気になった。


「……あなたはどうしてロキに従っているんですか?」

「私が彼の友人だからです」


 ナルヴィは真面目な顔でそう言い切った。


「ロキ殿の力とカリスマ性に惹かれて付いてくる者は大勢います。あるいは打算や恐怖心で従っている者もいるでしょう。しかし、彼の境遇や行動原理を真に理解して付いてくる者は決して多くありません。当然彼は語りもしませんからね。だから私は、彼の数少ない理解者として彼の野望を最後まで見届けるつもりなんです」


 それはユキにとって意外な内容だった。

 当然のことだが彼らにも戦う理由がある。

 どこか底の見えないナルウィの人間的な部分に、根が優しすぎるユキは不本意にも共感を覚えてしまった。


「……だからこんな戦争をしてるって? それで殺された多くの人たちはどうなるの?」


 しかしレンがそれをあっさりと切り捨てる。


「もちろんあなた方に理解されるとは思っていません。ですから、ここで邪魔なあなた方を排除させていただきます」


 ナルヴィは仕込み杖を構える。

 それが戦闘再開の合図となった。

 ナイフを手にしたレンが地面を駆ける。

 ナルヴィもそれを迎え撃つ。

 そして、二人の刃が交錯する――


――


「ギャオオオオオッ!」


 ガルムが咆哮する。

 空気がビリビリと振動し、地面が揺れているようだった。

 そしてガルムは素早い動きでシーナに向かう。

 ガルムの牙がシーナに迫る。

 しかし、シーナは瞬間移動で避けると、そのままガルムの背中に大鎌を振り下ろす。

 シーナの大鎌がガルムの巨体を切り裂いた。

 続けて何度も大鎌を振るう。

 ガルムの体から鮮血が飛び散る。


「ギャオオオオオッ!」


 しかしガルムは倒れない。

 それどころかまだ余力があるように見えた。


「ちっ、想像以上にタフだな」


 その様子にアキラが呟く。

 厚い体毛と硬い皮膚に覆われたその体は打撃が通りにくくアキラには相性の悪い相手でもあった。


「ですがまったく効いていないわけではありませんよっ」


 気合いを入れるように体の前でぐっと両手の拳を握ってアイが言うと、シーナがこくりと頷く。


「手数を増やしていくしかなさそうですね」


 シーナの言うとおり、こちらは一撃必殺の技は持っていない。攻撃を繰り返すことで少しずつダメージを与えていくのが現状では最も確実な方法であった。


「ガアァァァァァァッ!」


 そこでガルムはアイに向かって駆け出す。

 あっという間にアイに肉薄すると、鋭い爪を振り下ろす。

 アイは結界でそれを防ぐ。

 しかし爪を弾かれたガルムは、結界を何度もその爪で叩き続けた。


「っ……」


 アイは苦しげに顔をしかめる。

 結界を維持するために魔力と集中力と今もすり減らし続けているためだ。

 そこで、シーナがガルムの首元を切り裂く。

 ガルムは怯んで一瞬動きが止まった。


「よくやった、シーナ!」


 その隙にアキラがガルムの懐に潜り込むと、その太い後ろ足を両手で抱くように掴む。

 腕に力を入れ、ガルムの足を持ち上げると、その巨体が浮き上がった。


「おっ、らぁ!」


 そのまま力任せにガルムを投げ飛ばす。

 ガルムは勢いよく体から落ちると数メートル地面を滑って止まった。

 アキラはさらに追撃するためにガルムに接近する。

 だが、そこでガルムは体を起こしつつ、大きな口をアキラへ向かって開いた。


「おっと」


 アキラは途中で急ブレーキをかけて止まると、一度距離を取った。


「ガルルルルルッ」


 ガルムは立ち上がると、アキラたちをじっと見つめながら低く唸り声を上げる。


「はは、まだ余裕みたいだな」


 アキラが楽しげに笑う。

 ガルムはその巨体に似合わず素早い動きで翻弄しつつ、その鋭い爪と牙で獲物を狙う。

 破壊力とスピードを兼ね備えたガルムを相手にするのはかなりの集中力を必要とする。

 少しでも気を抜けばガルムの餌食となるだろう。

 しかし能天気といえるアキラはそれをまったく苦にしていないようだった。


「笑ってる場合じゃないです! このままだと私たちの方が先に魔力切れになりますよ!」


 ガルムの体力を減らす代わりにアキラたちは魔力を消耗していた。

 そのアイの心配をアキラは一笑する。


「構わん。これは俺たちと奴の力比べだ。先にどっちが倒れるか試してやろうじゃねえか」

「そんな滅茶苦茶なっ」


 アイは悲鳴のような情けない声を出す。


「シーナさんっ、アキラさんを止めてください!」

「大丈夫です。勝つのは私たちですから」


 シーナは止めるどころかアキラに加勢するつもりだった。


「もうっ、どうしてこうなるんですかっ」


 アイは半泣きで頭を抱える。

 自分一人では抑えられそうにない。


「……仕方ありません! こうなったらなるようになれです!」


 悶々と悩んだ後、吹っ切れたようにアイも叫ぶ。

 止められないなら少しでも二人の力になるしかない。

 アイも覚悟を決めた。



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