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第十九話 王都奪還

 スカジは嬉しそうに笑みを浮かべると、右手を俺に向けてかざす。

 そこでスカジの手のひらに魔法陣が現れた。

 その魔法陣に淡い光が浮かび上がる。

 そして、魔法陣から再び光線が真っ直ぐ俺たちに向けて放たれた。

 俺は転がって回避すると、光線は俺の横を抜けていった。

 背後で爆発音が聞こえる。

 味方が何人かやられたようだ。


「ほら、避けないと黒焦げになりますわよ」


 そう言ってスカジは再び右手を俺に向けてかざす。

 同時に、スカジの周囲にも無数の魔法陣が出現する。

 その一つ一つから太い光の束が放たれる。

 俺たちは堪らず後退し、廊下の曲がり角に身を隠した。


「ちっ、下手に近づけられないな」


 俺はちらりと顔だけ出してスカジの様子を窺うが、すぐに顔を引っ込める。

 光線が壁の角の部分を削り取った。


 さて、どうするか?

 レベルを見てもスカジの実力は疑う余地はない。

 自ら戦場へ出てくるだけある。

 下手に突っ込んでも部隊が全滅するだけだ。


「私がやりましょうか?」


 隣にいたシーナが俺の顔を見上げる。

 確かにシーナの能力なら簡単にスカジまで近付くことができるだろう。


「……ああ、俺も援護する」


 スカジは一度シーナの能力を見ている。

 そしてその際も瞬時に対応する反応速度も見せていた。

 一人でやるのは危険だと判断した俺はシーナと一緒にスカジを叩くことにする。


「ユージ隊長、私たちはどうしましょうか?」


 そこでキースが俺に尋ねる。


「奴は危険だ。下手に人数を掛けるより、キースたちは周囲に残った雑魚を排除してくれ」

「……分かりました。ご武運を」


 キースは素直に頷くと、仲間たちを率いて後退した。

 二人だけで戦うことに納得はしていないが俺たちを信頼して任せるというような複雑そうな表情だった。

 戦術も何もないごり押しだがこれが最もリスクが低く、かつ勝算が高い方法なのだから仕方ない。

 残った俺は壁越しにスカジの攻撃を確認する。

 相変わらず近づけるような隙はない。


「……シーナ、行くぞ」

「はい」


 シーナは頷くと、次の瞬間にシーナはスカジの背後に移動する。

 そして大鎌を振り下ろすシーナ。

 スカジがそれに気付いて振り返る。

 その僅かな一瞬、攻撃が止んだ。

 同時に俺も能力を使って加速し、スカジの前まで移動し、剣を振り下ろす。

 両側からスカジに向けて刃が襲う。


「――遅いですわ」


 だが、スカジは両手を俺たちに向けると、そこに魔法陣が現れ、その魔法陣に俺たちの刃は防がれる。

 結界だ。

 剣を持つ両手に力を込めるが、俺たちの刃はスカジの結界を破ることができなかった。


「ちっ、なんて硬さだ」

「この程度でわたくしを倒そうだなんて舐められたものですわね」


 スカジは両手で俺たちの攻撃を防ぎ切ったまま、涼しい表情でそう言った。

 俺たちはスカジから一度距離を取る。

 やはり一筋縄ではいかない。

 剣を握る手にじわりと汗が滲む。

 二人がかりでもスカジはさほど気にした様子はない。

 俺とシーナはスカジを両側から挟む形で出方を窺っていると、そこでスカジがにやりと笑った。


「あら、もう終わりですの? それなら今度はこちらから参りますわよ?」


 そう言ったと同時に、スカジはたんっと軽く地面を蹴った。


「はやいっ……」


 スカジは地面を滑るような流れる動きでシーナの目の前まで接近して右手を伸ばす。

 そのままシーナの首を右手で掴んで持ち上げた。


「こう見えてわたくしは素手の戦いにも自信がありますの」


 その細腕からはとてもそうは見えないが、スカジのステータスは並みの兵士と比べて圧倒的に高い。

 筋力も敏捷もそれ相応に高いレベルにあるのだ。


「ぐっ……」


 首を絞められたシーナが苦しげに顔をしかめる。

 シーナの手から大鎌が地面に落ちた。


「シーナ!」


 俺はシーナを助けようと、スカジへと突っ込む。

 だが、そこで焦ったのが失敗だった。

 スカジは片手でシーナを掴んだまま、俺に左手を向けた。

 そこに魔法陣が現れ、魔法が俺に向かって放たれた。

 俺は能力で加速して避けようと試みるが、反応が遅れたせいで間に合わないと直観で悟る。


 直撃コースだ。

 スカジの魔法が俺の目の前まで迫る。

 俺は最悪の結果を覚悟した。


 ――そこで、目の前のスカジの姿が僅かにブレた。


 そして次の瞬間、俺の目の前に、たった今こちらに振り向こうとするスカジの姿があった。

 この現象を、俺は一度見たことがある。

 それは以前、まだ俺が村にいた頃、『ヤルンヴィド迷宮』でトロールと戦ったときのことだ。

 あの時も、トロールの拳が俺にギリギリまで迫るデジャヴを見た。

 おかげで俺はトロールの攻撃をかわすことができた。


 しかし、本当にデジャヴだったのだろうか。

 あの時も今回も、まるで本当に体験したように、俺の脳内にその映像が焼き付いている。

 この現象は一体何なのだろうか。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 俺は加速すると、スカジの魔法を紙一重でかわした。


「まさかっ、今のを避けたのですかっ?」


 スカジは俺が予想外の動きをしたためか、目を見開いて驚く。

 俺はそのまま動揺するスカジに剣を振り下ろす。

 スカジはシーナから手を離し、後ろへ下がって剣を避けた。


「くっ」


 刃が僅かに触れたのか、黒い薔薇の髪飾りが地面に落ち、スカジの長い髪のうちの数本が切れてはらりと宙に舞った。


「こほっ……ありがとうございます、ユージ」

「大丈夫か? 何なら少し休んでろ」

「いえ、大丈夫です」


 シーナは首を振ると、落とした鎌を手に持った。

 スカジは悔しげに唇を噛んで顔を歪める。


「ありえませんわ……このわたくしが一撃をもらうなんて……」


 今のを一撃とカウントしていいのか分からないが、スカジにとってそれは屈辱的なことだったらしい。


「あなたは一体何なのですかっ? どうしてわたくしの邪魔をするのですっ?」

「俺は多くの人の命を預かった大切な任務を託されている。それに、個人的にもアースガルズとは因縁があるんでな。悪いがここでお前を倒してヨトゥンヘイムを手に入れる」

「調子に乗らないでくださいまし! 倒されるのはあなたですわ!」


 声を荒げたスカジはそのまま右手を俺へと向けた。

 そしてその右手と、周囲に魔法陣が展開される。


「いくらあなたでもこれを避けられますか?」


 さすがにあの魔法陣から一斉に攻撃されたらひとたまりもない。

 避ける隙間がないどころか下手をするとスカジはこの建物ごと破壊する気ではないだろうか。


「……ユージ、私の手を握ってください」


 シーナが小声で俺に囁く。

 俺はシーナの手を握った。


 それとほぼ同時に、スカジの魔法が魔法陣から一斉に放たれる。

 俺たちに命中する直前、俺とシーナはその場から瞬間移動して魔法を避ける。

 そして再び同じ場所へ姿を見せると、背後で激しい轟音が聞こえた。

 見ると、宮殿の壁が吹き飛ばされ、真っ暗な外の景色が広がっていた。


「しぶといですわね。ですが、いつまで避け続けられるでしょう?」


 スカジが右手を俺たちへと向けたままにやりと微笑む。

 魔力には限りがあるので何度も今と同じことを続けることはできない。

 しかしここでスカジの攻撃の壁になるものはないし、攻撃される前にこちらから反撃しようにも安易にスカジに近付けない。

 八方塞がりかと思われたとき、俺たちの背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「――どうやら手を貸した方が良さそうだな」

「ユージ君、援軍に来たよ」


 俺は後ろを振り向く。

 そこにいたのはカイとレンだった。


「二人とも間に合ったんだな!」

「ああ……あとは奴を何とかするだけだ」


 カイがいつもの無愛想な表情で答える。

 俺たちと別行動をしていたカイとレンは俺たちとは反対側の門から宮殿へと突入していた。

 どうやらカイたちの方は制圧が終わったようだ。


「ふん、何人増えようと同じことですわ!」


 スカジが構えていた右手に魔法陣が現れ、そして光の束が放たれる。

 すると、そこでカイが俺たちの前に一歩出た。

 スカジの魔法が再び俺たちへと迫る。

 だが、魔法はカイの目の前で反射し、スカジに向かって跳ね返った。

 まるでカイの前に見えない壁でも存在しているようだった。


「くっ」


 スカジは跳ね返ってきた魔法を、空中に展開していた別の魔法陣から放った魔法で相殺して消滅させる。

 ダメージを与えることまではできなかった。

 だがスカジを焦らせるには十分だった。


「生憎、俺にその手の能力は通用しない」


 カイの持つ能力、『相手の魔法を反射する力』によってスカジの魔法を反射させたのだ。

 カイの能力は基本的に魔力を使って放たれるすべての能力を反射する。

 カイの能力はスカジにとっては天敵といえる能力だった。


「相変わらず頼もしいな」


 俺もカイに思わず感心する。


「くっ……それなら素手で仕留めるまでですわ!」


 僅かに表情を歪めたスカジは、俺たちに向かって走り出す。

 接近戦で勝負を付けるつもりらしい。

 先ほど見せたようにスカジの身体能力はかなり高い。

 だが、俺だってこの日のために訓練を続けてきたのだ。

 以前のように引いてばかりいるつもりはない。


 スカジはカイの振り抜いた刀を避けると、その背後にいた俺へと右手を伸ばす。

 そこで俺は接近したスカジの右手を平手で弾く。

 さらに伸ばしてきた左手を俺はかわしつつ、逆に剣を片手で振り抜いた。

 スカジは剣を軽やかな動きで跳躍して避けると、俺の背後に立つ。

 俺は振り向き様に剣を振るうが、そこで俺の手から剣が弾き飛ばされる。

 その隙に再びスカジが手を伸ばしてくるが、俺はその手を再度弾く。


 そうして近距離でスカジと攻防を何度か繰り返す。

 そこでレンが隙をついて横から割り込み、スカジにナイフを振り下ろした。

 スカジは堪らず後ろへ跳んで俺から距離を取る。

 レンはさらにナイフを投げて追撃をする。


「っ!」


 飛んできたナイフをスカジは素手で払い落とす。

 その反射神経はさすがだ。


「なっ?」


 だが、そこでスカジは目を見開いた。

 いつの間にかスカジの目の前にまでレンが接近していたからだ。

 レンはスカジに向けてナイフを突き出す。

 スカジは咄嗟に腕を前に出した。

 ナイフがスカジの腕に刺さる。


「ぐっ、この……」


 顔を歪めたスカジはそのまま後方に下がってレンから距離を取った。

 ナイフの刺さった右腕をだらりとさせ、スカジはレンを睨み付ける。

 血が腕を伝って床へと流れ落ちる。


「ユージ君の能力、真似させてもらったよ」


 レンのそれは俺の加速する能力とまったく同じものだった。

 レベルがある一定まで上昇すると、能力が強化されることがある。

 例えばカイの能力の反射もレベルの上昇によって能力の無効化から変化したものだ。

 そして、同様にレンもレベルの上昇によって能力が進化していた。

 レンの新たな能力は『能力のコピー』。

 今まではアイテムしかコピーできなかったが、今のレンは一度見た能力もコピーすることができるようになっていた。


「っ……なかなかやりますわね」


 忌々しげにそう言って、スカジは自分の腕に刺さったナイフを引き抜き地面に投げ捨てる。

 傷口からさらに血が出るがスカジは構わない様子だった。

 今の攻防でスカジの体力は大幅に減少した。

 だが、それでも戦闘に影響するほどではないだろう。

 それにナイフの刺さり具合も浅かったようだ。

 自分の筋力より相手の耐久力の方が高いと刃物でさえまともに通らなくなる。 傷もそのうち塞がるだろう。


「さすがに四対一は厳しかったか?」


 カイがスカジを挑発する。


「馬鹿にしないでください! この程度、たいしたことないですわ! ロキ様の野望のため、わたくしがここを死守しなければならないのですから!」


 そしてスカジの周囲をびっしりと埋め尽くすように、大量の魔法陣が展開される。

 スカジが右手を振り下ろす。

 魔法陣から魔法が放たれる。

 だが、やはり全てカイの前で反射された。


「無駄だ」

「このっ! 小賢しい!」


 スカジは天井に向けて魔法を放った。

 苦し紛れかと思ったが、すぐにスカジの狙いに気付く。

 頭上から瓦礫が俺たちへと降り注ぐ。


「これなら反射できないでしょう?」


 確かにこれではカイの能力で防ぐことはできない。

 だが、カイたちなら大丈夫だという確信が俺にはあった。

 だから俺は、自分のやるべきことに集中することができた。


 俺は加速すると、スローモーションになった世界で瓦礫の雨を避けていく。

 落ちてくる大きな瓦礫の塊を足場にして隙間をすり抜けるように前に進み、スカジの目の前に到達する。

 そのまま剣を振り抜き、スカジの肩から腰に掛けて斜めに切り裂いた。


「あああああぁぁぁっ!」


 鮮血が飛び散る。スカジは悲鳴を上げ、その場にうずくまった。

 ドレスが破れ、白い肌が露わになる。

 さすがのスカジでも今のは効いたらしく、苦しげな表情で傷口を押さえていた。

 致命傷ではない。

 しかしかなりのダメージを与えたことは間違いない。


「勝負あり、だな」


 スカジは俺を睨み付ける。


「どうしてですのっ? このわたくしが不覚を取るなんて……」

「納得いかない様子だな?」

「当然です! 実力ではわたくしの方が勝っていたはずですわ!」

「そうだな……あえて言うなら、仲間の差だな。俺たちは一人じゃない。みんなで力を合わせればどんな相手にも負ける気がしない。いくら実力が上の相手でもな」

「そんなの……そんなの認められるわけありませんわ!」


 スカジは俺に向かって真正面から掴みかかる。

 だが、ダメージの影響か動きにキレはなかった。

 俺はその手を避けると、スカジの背後に回ると腕を掴む。

 そして膝裏を軽く蹴ると、スカジはそのままあっさりと地面に両膝を付いた。


「降参しろ。勝負はついた」

「くっ……まだですわ! まだ終わっていませんわ!」


 俺を鋭く睨み付けるスカジはまだ戦意を失ってはいないようだ。

 しかし、誰の目から見ても戦闘続行は困難のように思えた。

 俺が掴んでいる手を振りほどくほどの力もスカジには残っていないのだ。


「……いや、終わったんだよ」


 俺はスカジを掴んでいた手を離すと、その首筋に手刀を振り下ろした。

 気を失ったスカジの体からがくりと力が抜ける。

 スカジはそのまま地面に倒れた。


「ユージ、やりましたね」


 俺の背後でシーナの声がする。

 振り向けば三人とも無事にそこにいた。

 レンが気を失ったスカジを見下ろしながら俺に尋ねる。


「彼女、どうする?」

「とりあえず拘束しておくか。処罰はフォルセティさんたちに任せよう」


 今のスカジはこの国の代表だ。

 もはや俺たちの独断でスカジの処遇を決めることはできない。


「ユージ隊長、ご無事でしたか」


 宮殿内のロキ軍を制圧し終えたキースたちも俺たちと合流する。

 それから作戦成功の知らせはすぐに全部隊に伝わった。

 兵士たちの間に歓声が広がる。

 こうして俺たちはついにヨトゥンヘイムを奪還したのだった。


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