第十八話 奇襲
その日は月の綺麗な夜だった。
月の光に照らされたスリュムヘイムの大きな宮殿は、その存在感を誇示していた。
大きな城壁が宮殿の周りを囲んでいる。
その壁の上にある見張り台には二人の兵士がいた。
その他にも、宮殿の周囲には松明を持って見回りを行っている兵士もいる。
「暇ですねぇ」
「最近は新王国に反抗する奴もすっかりいなくなったからなぁ」
「平和なのはいいですけど暇過ぎるのも考えものですね……はぁ、早く部屋に戻って一杯やりたいですよ」
そう愚痴をこぼした兵士は大きな欠伸をする。
見回りの兵士は二人一組となって定期的に宮殿の周囲を巡回していた。
「しかし油断はするなよ。どこに不審者が潜んでいるか分からんからな」
「はい、分かってますよ」
二人は辺りを見渡しながら壁伝いに歩いていく。
宮殿の周囲には薄暗い街灯がぽつりぽつりと立っていた。
隣国のスヴァルトアームヴヘイムで最近発明され、前国王が輸入させた製品だ。
その光が届かない暗闇を兵士は松明の火で照らしながら進んでいく。
そこで、兵士の一人は背後に誰かの気配を感じた。
振り返ろうと歩く足を緩める。
「うっ……」
だが振り向くより先に、キースが兵士の口を塞ぐ。
そのままナイフで兵士の首を掻っ切った。
兵士は一瞬で絶命する。
そしてすぐにキースは兵士の亡骸から離れた。
ばたりと倒れる兵士。
「だ、誰だっ?」
そこで仲間の異変に気付いた兵士が振り返り周囲を見渡す。
だが、そこで背後からブリュンヒルデがキースと同じようにナイフで兵士の首を切り裂いた。
「えっ……」
兵士は呆気に取られた表情を浮かべ、自分の身に何が起こったのかも分からぬまま絶命した。
――
粒子となって消えていく兵士を見下ろすキースとブリュンヒルデ。
その無駄のない手際には感心させられる。
暗闇からその様子を見ていた俺は二人の側へと姿を見せた。
「ユージ隊長、終わりました」
「ああ、ご苦労」
キースの報告に頷くと、そこで目の前に大きな鎌を持ったシーナが現れた。
「……こっちも終わりました」
見張り台にいた兵士は瞬間移動をしたシーナの手によって倒されていた。
「ありがとう、シーナ。それじゃあ中に突入するぞ」
「はい、準備はできています」
それまで潜んでいた部隊の兵士たちが続々と門の側に集まってくる。
「皆さん……お気を付けて」
シーナと一緒に合流したアイが不安げな表情で俺を見つめる。
アイは宮殿の外に留まり、入口周囲の兵士を倒しつつ敵の援軍が来た場合には時間を稼ぐ役割を担当する。
一方、俺とシーナの部隊は宮殿の中に突入する。
アイが心配するとおり兵士の数が多いことが予想される俺たちの方が危険度は高いといえるだろう。
「アイも気を付けろよ。無理をする必要はないからな」
「はい、ユージさんも絶対に無事に戻ってきてくださいね」
「ああ、約束だ」
俺は剣を握り、宮殿の大きな門を見上げる。
さて、そろそろ行くか。
別の場所でもカイたちが同様に他の見張りを倒して突入の準備をしているところだろう。
「よしっ、みんな行くぞ」
声を抑えて俺が言うと、シーナやブリュンヒルデが頷き返す。
そして俺たちは宮殿へと侵入を開始したのだった。
――
突入して間もなく、ロキ軍の兵士たちも異常に気が付いたようで宮殿内は大騒ぎになっていた。
宮殿の至る所で足音や怒号、そして何かが壊れる大きな音が聞こえる。
そんな中、俺たちは見覚えのある廊下の中を走り抜ける。
宮殿内の設計は完全に把握していた。
「二回も同じ宮殿に突入することになるとは思わなかったな」
「そうですね」
隣を走るシーナが頷く。
前回と違うのは、今回は俺たちだけでなく大勢の仲間がいることだ。
まだ動揺しているロキ軍の兵士を部隊の仲間たちが切り捨てていく。
奇襲を受けたロキ軍の兵士たちは十分な統率が取れておらず、状況は俺たちの方が圧倒的に優勢だった。
「オラァ!」
ちょうど廊下の向こうで、先に突入したらしいアキラが兵士を殴り飛ばしていた。
まるで水を得た魚のように大暴れしている。
アキラの部隊によってその場にいたロキ軍は壊滅状態であった。
アキラはやってきた俺たちに気付いて、にやりと笑みを浮かべる。
「よう、ユージ。ここは俺たちで足止めしておくぜ」
「悪いな、アキラ。手が足りなくなったら言ってくれ」
「気遣いはいらねえよ。お前らはさっさと先に行け」
「分かった。ここは頼んだぞ」
ここはアキラに任せ、俺たちはスカジのいると思われる玉座の間を目指す。
階段を上がり、広く長い廊下を駆け抜け、途中にある曲がり角を曲がる。
そこで、目の前が一瞬輝いたかと思うと、太い光線が一直線に俺たちに向かって飛んできた。
俺は反射的に横に避けると、それは廊下の奥の壁に到達し、大きな爆発が起こった。
爆風で敵味方関係なく兵士たちが吹き飛ばされる。
俺はその光の束が飛んできた方向を見た。
「――やはりあなたたちでしたか。何となくそんな気がしていましたわ」
そこに、空中に魔法陣を展開した、現在のヨトゥンヘイムの女王スカジがいた。
「わざわざ女王自ら出陣か」
「わたくしが一番強いのですからわたくしが迎え撃つのが一番効率が良いでしょう? それに、あなたたちをこの手で葬れる機会を得られたのですから、これほど喜ばしいことはありませんわ」
「大層な自信だな」
俺たちは武器を構え、スカジの前に立ちはだかる。
だが、スカジはそれを全く気にしていないようだった。
「わたくしの宮殿を荒らしたことは許せませんが、今は再開を喜ぶとしましょう――さあ、かかってきなさい。わたくしが遊んであげますわ」




