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第四話 迷宮の守護者

 それからさらに一週間、俺たち三人は地下に潜り続けた。

 今度は経験値を稼ぎつつ、腰を据えてじっくりと先を目指すことにしたのだ。

 時には泊まり込み、時間を惜しんで探索と戦闘を繰り返す。

 フィーアを説得するのに多少骨が折れたが、最後は頭を下げて頼み込んで強引に納得してもらった。

 それにしても、フィーアが「それなら私も一緒についていく」と言い出したときはどうしようかと思った。


 それはともかく、この一週間でモンスターと戦闘をして経験値と金を稼ぎ、アイテムも十分に蓄えがある。

 それにダンジョン内部の地図も精度の高いものになってきた。

 俺たちの中でも、もうそろそろ最深部まで辿り着けるだろうという予感がしていた。


「ラスト一体!」


 その声とともにスライムを真っ二つに切り裂くと、俺は剣を背中へと戻す。


「お疲れさまです、ユージ。どうぞ」

「ああ、サンキュー」


 シーナが差し出した水筒を受け取ると、それをごくりと飲む。

 中の水はよく冷えていた。

 この階層に湧き水があることを発見した俺たちは、それを水筒に入れて持ち運んでいたのだ。

 この湧き水のおかげで探索の効率もかなり上がった。


「やっぱ相手が強いとレベルが上がるのも早いな」

「ああ、一週間でこのペースなら上出来だ」


 カイが満足そうに頷く。

 カイもレベルは上がったが、元のレベルが低かった俺とシーナの方が上がり幅は大きいためカイとのレベル差が縮まってきた。


【ユージ】レベル62 剣スキルC

 体力:980 魔力:674 筋力:1,050 耐久:822 敏捷:980

 装備:騎士の剣『剣スキルC以上で使用可能』『筋力が100上昇』『敏捷が100上昇』『獲得経験値が2倍に上昇』、村人の服『耐久が50上昇』、皮の靴『敏捷が50上昇』


【カイ】レベル78 刀スキルA

 体力:3,906 魔力:2,780 筋力:3,714 耐久:2,950 敏捷:4,820

 装備:伝説の刀ヴェルンド『刀スキルA以上で使用可能』『筋力が1,000上昇』『敏捷が1,000上昇』『即死効果』、ブランドスーツ『体力が300上昇』『耐久が500上昇』『高速自然回復能力付加』、韋駄天ブーツ『敏捷が1,000上昇』、金の首飾り『魔力が100上昇』『獲得金額上昇』、祝福の指輪『受けたダメージを半減する』


【シーナ】レベル47 鎌スキルD

 体力:830 魔力:712 筋力:690 耐久:610 敏捷:1,205

 装備:銀の鎌『鎌スキルE以上で使用可能』『筋力が100上昇』『敏捷が100上昇』、白いワンピース『体力が50上昇』『耐久が50上昇』『魔力が100上昇』、皮の靴『敏捷が50上昇』、加速の指輪『敏捷が200上昇』


 特に『騎士の剣』の効果で経験値が二倍入る俺の成長スピードは自分でも驚くほどだった。

 それほどここのモンスターのレベルが高いということでもあるし、それを楽々倒せるようになった俺たちも成長しているという実感がある。


「よし、少し休憩するか。終わったら一気に攻略するぞ」


 しかし、カイの心の広さには感心させられる。

 俺たちのペースに付き合ってレベル上げをして、そのうえ素直に成長を喜んでくれるんだから良い奴だ。


「二人とも昼食にシチューを作っておきました。これで体力を回復させてください」


 シーナには大変助けられている。

 俺たちの食事は全てシーナが作ってくれていた。

 ダンジョンに泊まり込むと決めたときにシーナは鍋やら包丁を持ち込んでいた。

 それで作られた料理はどれも絶品だった。

 俺やカイだけだと、肉を焼くだけとかその辺に生えている食べられそうな草を煮るだけといった適当な食事で済ませてしまうのが目に見えている。

 それでも栄養補給にはなるのだが、栄養が偏ってしまうし、味にも飽きてしまう。だからシーナには大変感謝していた。


「さて、腹も満たしたことだしそろそろ行くか」


 休憩を終えると、俺たちは再び探索を開始する。

 作成した地図を頼りに、まだ通っていない道を探り出す。

 そして奥へと進む途中で、俺たちは新しい通路を発見した。

 そこは一本道だった。

 俺たちはその通路を歩いて行く。それからどれだけ歩いただろう。


「見ろ、光だ!」


 その通路の先で、俺たちの目に明かりが飛び込んできた。

 だが、罠の可能性もある。

 俺たちは焦る気持ちを抑え、慎重に周囲を警戒しながら進んでいく。


 長い一本道を抜けると、俺たちは広い空間に出た。

 そして、その先に通路はなく、そこで行き止まりだった。

 ついにこの階層の一番奥まで来たのだ。


 そこは明らかに雰囲気が違っていた。

 松明の明かりに照らされたその部屋は洞窟の中ということを忘れるほど綺麗に造られていた。

 そこは四角い部屋だった。

 壁も四角い石が規則的に積み上げられたようになっており、デザインされて設計されたとしか思えない。

 部屋を照らす松明は誰が火を付けたのだろうか。


 俺は息を呑む。

 一瞬で喜びの感情が吹っ飛び、体から嫌な汗が噴き出す。

 そして、俺は部屋の中にいた『奴ら』を睨みつける。

 その部屋にはトロール三体とゴーレムが侵入者を待ち構えるように立っていた。

 ヤバい。

 俺とカイは無言で顔を見合わせると、もう一度正面の敵を見る。

 四体同時というのもきついが、問題はそこじゃない。

 俺は奴らのステータスを見て言葉を失う。


【ゴーレム】レベル100

【トロール】レベル85

【トロール2】レベル80

【トロール3】レベル80


 ……正直これは絶望的だろ。

 この階に出てくるモンスターとはまさしくレベルが違い過ぎる。

 一つ二つレベルが違うくらいなら戦い方次第でどうとでもなるが、あまりにレベルが違い過ぎると、まともな戦闘ではなく一方的なリンチになってしまうことはこれまでの戦闘で痛感している。

 まともにダメージを与えることができるのかどうかも怪しい。

 正直、逃げ出したい気分だった。

 しかし、それができない理由があった。


「……あそこに階段があります」

「ああ、見なかったことには……できないよな」


 土と石の巨大なモンスター、『ゴーレム』のいる後ろ、ダンジョンの奥にまた地下へ続く階段があった。

 奴らは俺たちの姿を見ても襲ってくることはなく、じっと様子を窺っていた。あそこから動く気はないらしい。

 例えるなら奴は階段を守る守護者ガーディアンといったところか。

 悪い冗談だ。このダンジョンを造った奴はとことん性格が悪いらしい。


「どうする? 逃げるか?」

「愚問だな。そんなつもりがないのはお前の顔を見れば一目瞭然だぞ」


 カイがにやりと笑みを浮かべる。

 きっと今の俺もカイと同じような顔をしているのだろう。


「……二人とも、フォローします」


 シーナも異論はないようだ。あっさりと三人の意見がまとまった。


「この分だと、この先にはとんでもないお宝が眠っているかもしれないぞ。それをこの目で確認してやろうじゃないか」

「ああ、カイの言うとおりだ。それに、こいつを倒せば経験値もたっぷり手に入るだろうしな」


 こいつらと戦ってみたい。

 そして、この先に何があるのか知りたい。

 俺の中の冒険者の血が騒いでいた。

 背負っていた剣を抜いて構える。


「ユージ、シーナ、ヤバくなったら引くんだぞ。絶対に無茶はするな」

「ああ、命大事に、だ」


 分かっている。

 死んでしまったら元も子もない。

 それは十分に分かっているが、俺がどこまでできるのか試したい。

 こんな状況だというのに、俺は気分が高揚していた。


「一体ずつ倒していこう。カイ、邪魔なモンスターを牽制しておいてくれ。シーナはフォローを頼む」

「了解」

「分かりました」


 俺は指示を出すと、思い切り地面を蹴り、トロールの一体へと飛び込んでいく。

 その巨体の懐へと潜り込み、剣を振り抜く。


「グギャァァァァァ!」


 俺の剣はトロールの腹を切り裂いた。その傷口から血が噴き出す。


「ガアァァァァ!」


 だが、トロールはまだ動きを止めない。

 それどころか傷口が再生し始めている。

 トロールの再生能力だ。

 確実にダメージは与えているが、体力がなくなるまで何度も再生し続ける。

 高レベルだと厄介な相手だということを俺は改めて認識した。


「こっちは一撃でも受ければ致命傷だっていうのに不公平な話だ」


 トロールの特徴は傷の再生とその腕力だ。

 まともに力比べとなると勝ち目がない。

 代わりに知能は低いので、そこに付け込むのがセオリーであるが……


「ユージ、私が囮になります。その隙に一撃を」

「分かった」


 俺が頷くと、シーナはトロールの前に立ちはだかる。

 トロールはシーナを見下ろす。

 身長差は二倍以上あるだろう。

 シーナの細腕では防御は不可能。

 トロールの攻撃は避けるしかない。

 そして刹那、トロールはシーナへその大きな拳を振り下ろした。


 その瞬間、シーナの体が消える。


 トロールの拳が地面を砕いた。そしてシーナは、いつの間にかトロールの目の前まで迫っていた。

 瞬間移動。

 俺たちはステータスに載らない特殊な能力を持っている。

 それは一人ひとりが別々の力を、最初から所持しており、魔力を使用することで自由に使うことができた。

 また、レベルの上昇によって能力の精度が上がる場合もある。

 俺やカイがそのタイプだ。

 そしてシーナの能力は任意の場所へ一瞬で移動する能力。

 シンプルかつ強力な力だ。

 シーナは大鎌をトロールへ振り下ろす。


「ギャァァァァ!」


 片目をざっくりと斬られたトロールは叫び声を上げて暴れる。

 その間に俺は空中へ飛び上がって剣を振り上げる。

 トロールへと真っ直ぐ狙いを定めていた。

 俺は剣をトロールの脳天へと振り下ろす――


「っ!」


 だが、横から他のトロールが腕を振り抜いてきた。

 反応が遅れた俺は、空中で咄嗟に剣を拳の前に出す。

 目の前に拳が迫る。


 避けきれない。

 剣で受け切れるか?

 いや、あの威力はヤバいかも。


 俺は吹っ飛ばされるのを覚悟した。


「……え?」


 だが、俺の剣にトロールの拳が直撃する寸前、トロールの拳が一瞬ブレる。

 そのとき俺はありえない体験をした。


 トロールは確かに俺へ腕を振り抜いて、直撃寸前だったはずだ。

 だが、実際はまだトロールは腕を振り抜こうと動作に入ったばかりであった。

 デジャヴだ。

 俺は今、まるでそれを体験したかのように感じたが、実際はまだ体験していない。

 正確にはこれから体験するはずの出来事だった。

 しかし、横から迫る腕に俺は自然と体が反応していた。


「くっ」


 俺はその瞬間、自分の能力を使った。

 目の前の世界がスローモーションになる。

 空中で体を捻り、トロールの腕に剣を刺し、それを支えにしてトロールの腕へと飛び移る。

 そのままトロールの腕を斬りつけると、跳躍して地面に着地した。

 そして世界が元に戻る。

 加速能力。

 それが俺の能力だ。

 トロールの腕が空を切った。

 その腕から血が噴き出していた。

 トロールは自分が斬られたことも認識できていないようだった。


「ユージ、大丈夫ですか?」

「ああ、危なかったけどな」


 シーナが着地した俺の横にやってくる。

 このトロールは見た目の巨体に反して動きも素早い。

 能力を温存していては勝てないだろう。

 ……能力を使っても勝てるか怪しいけどな。


「ちっ、やはりレベルに差があり過ぎる」


 ゴーレムの相手をしていたカイも舌打ちをして俺たちの隣へ着地した。


「カイでもやっぱり無理か?」

「それは俺を買いかぶり過ぎだ……せめてこの刀を上手く使えることができれば奴らに一矢報いることもできるかもしれんが、今の俺はまだこの刀を使いこなせていない」

「そうなのか?」

「ああ、『伝説の刀ヴェルンド』の力がこの程度のわけがない。その力を最大まで発揮できないのは俺の力不足が原因だ」


 カイがそこまで言うなんて、その刀にはどれだけの力を秘めているというんだろう。

 そして、あのカイでさえまだ刀の力を使いこなせていないという事実に俺は驚いていた。

 今の状況にしてもそうだ。

 俺はカイがここまでモンスター相手に苦戦するのを始めて見た。

 これだけ高レベルのモンスターを見たのも初めてなので仕方ないとはいえ、俺にするとそれは衝撃的だった。

 そして気付いた。

 俺はそれだけカイを無意識に頼りにしていたのだ。


「あれ? カイにしては弱気だな?」

「ふん、見くびるな。俺は単に事実を言っただけだ。いずれはこの刀を使いこなしてやる」

「はは、それでこそカイだ」


 だが、今はカイにだけ頼るわけにはいかない。

 俺たち三人が力を合わせなければ勝てない相手だ。

 いや、力を合わせてもトロール一体を倒すのが限界かもしれない。

 それでも今は構わないと思う。

 トロール一体だけでも倒すことができれば俺はもっと強くなれる気がする。

 いずれは一人で軽く倒せるようになりたいが、まずは少しずつ前進していこう。


「お前ら、俺に命を預けてくれ。一体分の経験値くらいは奪ってやる」

「無茶はするなと言ったはずだが……やはり言っても無駄だったようだな」

「私はユージに従うだけです」


 カイは苦笑しながらため息を付き、シーナはこくりと頷く。

 そして二人とも武器を握り直した。

 俺は口元が綻ぶ。

 ここには戦闘馬鹿しかいないようだ。

 二人が仲間で良かった。


 さて、大見得を切ったからにはやるしかなくなった。

 誰かに頼っていては成長できない。

 頼られるほど強い人間に俺はなる。

 だからこれはその第一歩だ。


「行くぜ!」


 剣を握り、地面を蹴り、俺はトロールへと向かって全速力で走り出した。



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