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第十四話 頼もしい仲間

 それから一週間、俺たちも一緒に訓練をするため軍の施設の中で生活することになった。

 施設のベッドはこれまでの高級な宿に比べれば快適とはいえないが贅沢を言うつもりはない。

 朝から晩までヨトゥンヘイム侵攻へ向けての作戦会議と訓練を繰り返す日々。

 一日の殆どを軍の敷地の中で過ごす。


 おかげで傭兵たちともそれなりに交流を深めることができた。

 戦う目的は人それぞれだが、彼らもまた打倒アースガルズの気持ちが強いのは一緒に生活していて実感した。

 そして共通の目的を持つ仲間がこれほど多いということはとても頼もしい。

 部隊長として大変な面も多いが、仲間には恵まれたと思う。


 お昼時、部隊長たちによる会議を終えた俺は一人で軍本部の廊下を歩いていると、反対側から歩いてくる長い金髪の女性と目があった。

 彼女も俺に気付いて立ち止まる。


「ユージ隊長、お疲れ様です」


 ハキハキとした声で彼女は言った。


「ああ、お疲れ様。ブリュンヒルデはこれから食事か?」


 俺は背筋を伸ばして立つその女性、ブリュンヒルデに尋ねた。

 彼女は俺の部隊に配属された傭兵の一人だ。

 部隊の中でもレベルが高く、その存在には俺も早い段階で注目していた。

 彼女から直接聞いた話によると、今まで傭兵として各地を転々としていたらしい。

 歳は俺たちと殆ど変らないのに戦闘経験豊富で、性格もしっかりしていて大人びている。

 彼女の存在は非情に頼もしかった。


「はい、ユージ隊長は部屋で休憩ですか?」

「ああ、そのつもりだったけどやっぱり俺も昼飯にするかな。一緒に行っていいか?」

「もちろん、私でよろしければ構わないですが……いいのですか?」

「ん? なにか心配でもあるのか?」


 珍しく歯切れの悪い返答に俺は首を傾げる。


「いえ……フィーア中尉たちが気分を害されるのではないかと思いまして」


 どうやらブリュンヒルデはフィーアたちのことを気にしているらしい。

 俺とフィーアたちの関係は大っぴらにはしていない。

 それでも雰囲気で感付く者もおそらくいるだろう。

 ブリュンヒルデの言いたいことも理解できた。

 だけどフィーアだって仲間との食事くらいで文句も言わないだろう。

 気にし過ぎだ。


「じゃあ決まりだな。食堂に行くぞ」


 俺は強引に話を進めると、食堂へと歩き出す。

 ブリュンヒルデも慌てて後から付いてきた。


 軍の食堂に着いた俺とブリュンヒルデは、さっそく列に並んで昼食を受け取る。

 それからトレイに乗った食事を持って、空いているテーブルを探す。

 ピークの時間から少しずれていたおかげか席はすぐに見つかった。

 俺たちは向かい合って座ると食事を取った。


 軍の食事が俺はあまり好きではない。

 量こそあるが味はイマイチだからだ。

 だが栄養バランスは考えてあるようなので不満を言うつもりはない。

 旅をしていたときはもっと酷い食生活をしていたこともある。

 旅路で食べ物がなくなったときなど道に生えていたキノコや薬草を取って食べたものだ。


 そう考えると、最近はクエストやモンスター退治で溜まった金に物を言わせて良い生活をし過ぎた。

 原点に戻るためにこの国にやってきたが、そういう意味では今の生活もなかなか良いかもしれない。

 俺がそんなことを考えていると、ブリュンヒルデが俺の顔を覗き込んだ。


「どうかしましたか? ずっと皿を見たまま固まっていましたが……」

「いや、なんでもない」

「やはりヨトゥンヘイムへの侵攻のことを考えていたのでは? 隊長は責任感が強いですから無理をしていないか心配です」


 心配そうな表情を浮かべるブリュンヒルデはやや前のめりになる。

 テーブルの上に乗っかったおっぱいに思わず目が行きそうになるが我慢する。

 俺は一つ咳払いをすると、出来るだけ真面目な顔を意識してから言った。


「俺は大丈夫だ。自分の限界は分かっているつもりだ。それに、優秀な仲間たちがいるからな」


 ブリュンヒルデもその一人だ。

 それを言葉にする代わりにブリュンヒルデに微笑む。

 ブリュンヒルデも俺の微笑の意図を理解したらしく、顔を赤らめて照れていた。


「こほん……ええ、確かに皆さん優秀ですね」


 そう言ってわざとらしくとぼけると、ブリュンヒルデは俺に言った。


「ところでユージ隊長は私たち傭兵にどのような印象をお持ちですか? やはり金で動く冷たいイメージが多いのでしょうか?」

「……ここに来る前はそうだったかもな。だけどみんな、報酬以外に明確な目的があってこの任務に参加している。それはここに来てすぐに分かった」

「ええ、この場にいる兵士の多くは決して報酬だけが目的で政府に雇われているわけではありません。私たちは誇りのために武器を手に取るのです」

「ブリュンヒルデも何か理由があってこの作戦に参加したんだよな? この国の出身とか?」

「いえ……私は元アースガルズの兵士でした」

「えっ? そうなのか?」


 それは初耳であった。

 なおさらどういう経緯でミズガルズ政府に雇われたのか気になる。

 驚く俺にブリュンヒルデは神妙な顔で頷く。


「といってもそれはロキが国王になるより前の話です。3年前、『フィンブルヴェト』と呼ばれる大きな戦争がアースガルズで起こりました。その戦いでロキが元国王のオーディン様を殺害し、現国王となったのです」


 その話は俺もギムレーにいたときに書物で目にしたことがある。

 そのときはたいして気にも留めていなかったが、まさかブリュンヒルデがその戦争の体験者だったとは。


「私はオーディン様を殺害し、アースガルズを奪ったロキ軍を許さない。それがアースガルズのためになるのならまだ割り切ることができたのでしょうが、とても今のアースガルズが理想の国家とは思えません。ですから私はミズガルズに力を貸そうと決めたのです」


 ブリュンヒルデはその凛々しい瞳で俺を見つめた。


「ユージ隊長、ロキの野望は私たちの手で止めましょう」

「ああ、ブリュンヒルデ、お前の力を貸してくれ」



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