第九話 帰還
王宮のとある部屋に俺たちは身を隠していた。
どうやら二人が追ってくる様子もない。
上手く撒くことができたらしい。
これも加勢にきてくれたフィーアたちのおかげだ。
「皆さん、大丈夫でしたか?」
アイが心配そうにキョロキョロと落ち着きなく俺たちの様子を窺う。
「ああ、おかげさまでな。フィーアも助かった」
「素手で防がれるなんて思わなかったけどね」
「宮殿の外にアースガルズの軍隊が集まっています。早くここから離れましょう」
フィーアに続いて、ユキが言った。
俺は部屋の窓からその様子を窺う。
黒い軍服を着た兵士たちが王宮の外にずらりと並んでいた。
ロキ軍はどうやら本格的にこの国をアースガルズの支配下に置くつもりらしい。
「急にあの軍隊が街に押し寄せてきたの。外にいた革命軍のみんなも様子を見るために一度宮殿から離れたよ」
フィーアの報告を聞いて、俺はすぐに決断した。
「俺たちも取り囲まれる前に脱出しよう」
王宮からだけでなく、体勢を立て直すためにも一度この街から離れる必要があるだろう。
悔しいが今の俺たちが奴らを倒すためにはレベルも戦力も足りない。
俺たちはもっと強くならなければならない。
宮殿から抜け出すと、俺たちはそのままスリュムヘイムから離れた。
それからまもなくして、世界中にニュースが流れた。
それは、ロキ軍がヨトゥンヘイムを統治し、アースガルズの支配下へ入ったことが決まったというものだった。
――
それから数か月が経過した。
ロキ軍との戦闘後も旅を続けた俺たちは、俺たちの故郷であるミズガルズへと戻ってきた。
当初は世界を一周するまで戻る気はなかったのだが、アースガルズとの全面戦争の前に、一度戻っておこうと思い立った。
村に入った途端、懐かしい景色に俺は感慨深い気持ちを覚える。
ここは俺の知っているミズガルズのままだった。
この空気を味わえただけでも、俺はここに来た意味があったと確信する。
初心に帰り、あのときの決意を思い出す意味でもこの帰郷は俺にとっては有意義なものであった。
俺たちの村は今でも当時のまま、ロキ軍襲撃の爪痕が各地に残っていた。
俺の家も無残に破壊された残っている。
それでも、村人たちの活気は当時に戻りつつあった。
俺たちが村にいた時と同じように、子どもが無邪気に走り回り、畑で作業をする人たちの姿も見える。
村の至る所にある囲いの中で家畜が放し飼いになっていた。
「のどかな村ですね」
村に初めてやってきたアイが感想を漏らす。
田舎で何もないところだが、この穏やかな雰囲気は相変わらずだった。
「ほんと、昔のままだね」
フィーアが親しみの籠った声で呟く。
その表情はとても穏やかだ。
「ああ、何も変わっていない」
「……懐かしいですね」
俺の隣でユキも微笑を浮かべて感慨深げな声を漏らした。
そこでふと、俺はレンの様子が気になった。
レンは自分がきっかけでこの村がアースガルズに襲われたことをずっと気に病んでいたようだ。
ここに来る前にもぽつりと俺にそのことを漏らしていた。
ちらりとレンへ視線をやると、レンは村の光景をじっと黙って見つめていた。
「レン、みんな元気そうで良かったな」
「うん……ここまで元に戻すことができたんだね」
レンは目を細め、ぽつりと呟いた。
「レンの村にも一度行ってみるか?」
「ううん、全てを終えるまで、僕は戻らないと決めたから」
そう言ってレンは首を振った。
しばらく村を歩き回った後、そこで俺はかねてから考えていた計画をみんなに伝えた。
「これから『ヤンヴィルド迷宮』に行こうと思う」
俺たちがここを訪れたもう一つの理由。
それは村にいた当時は何度も通っていた『ヤンヴィルド迷宮』に潜ることであった。
「ヤンヴィルド迷宮?」
そのことを知らないアキラが首を傾げる。
「この村から少し歩いた先にあるダンジョンだ。その全容を解明し、最深部まで辿り着くことが俺の目標でもあったんだ」
「ユージくん、昔はしょっちゅう通ってたもんね」
今の俺たちなら最深部まで辿り着けるのではないだろうか。
随分と遅くなったが、ずっと挑戦し続けていた俺たちの目標を、ここで達成しておこうと思う。
「ようやくこの時が来たのですね」
「アースガルズと戦う前の前哨戦としては申し分ないな」
当時の熱意を思い出したのか、シーナとカイが俄然やる気を見せていた。
思えば最初は俺たち3人の、殆ど趣味による集まりだった。
その集まりが今では8人になり、ギルドまで作った。
当時には考えてもいなかったことだ。
「よし、そうと決まればヤンヴィルド迷宮へ行くぞ」
こうして俺たちはさっそくヤンヴィルド迷宮へと向かった。




