第七話 ニョルズVSユミル
王宮内をさらに進むと、開けた場所に出た。
目の前に大きな階段がある。
この先に国王のスリュムがいるはずだ。
革命軍の仲間たちは王宮の内外で兵士たちと戦闘中であり、今この場にいる仲間の数は当初に比べてかなり減っていた。
俺たちを含めて20人程度だ。
対する兵士はこの場に100人ほど。
この奥にはまだ多くの兵士がいるだろう。
「やっぱりてめえの差し金か、ニョルズ」
そのとき、階段の先で声がした。
俺たちの前にその男が現れる。
それはユミルだった。
【ユミル】レベル280 剣スキルA
体力:14,300 魔力:7,900 筋力:10,580 耐久:8,800 敏捷:11,700
装備:将軍の剣『剣スキルB以上で使用可能』『筋力が500上昇』、高級な軍服『体力が100上昇』『耐久が200上昇』、高級な軍靴『耐久が200上昇』『敏捷が200上昇』、破壊の指輪『筋力が200上昇』
ユミルはその鋭い眼光でニョルズを見下ろす。
「……ユミル中将」
ニョルズも負けじとユミルと睨み返した。
「俺はあなたたちのやり方には付いていけない! この国は後戻りできないところまで腐っている! 一度国の仕組みを壊し、一から作り直すしか方法はないんだ!」
ニョルズは剣を構える。
今にもユミルへと斬りかかりそうだ。
「……言いたいことはそれだけか、ニョルズ?」
ユミルも剣を抜き、無表情でニョルズを見る。
そして俺たちを取り囲むようにいる国王軍の兵士たちも一斉に武器を構えた。
「皆殺しにしろ!」
ユミルの声を合図に兵士たちが動き出す。
同時に俺たちも応戦する。
その場は敵味方が入り乱れる乱戦となった。
「もらった!」
「っ!」
その中で兵士が俺に斬りかかる。
俺は迫り来るその兵士の剣を、自分の持つ剣で受け止め、すかさず兵士の肩から脇腹にかけて剣で斜めに斬り付ける。
兵士はあっけなく倒れた。
そして突っ込んできた別の兵士へ再び剣を振り抜く。
そこで、俺の側にいたカイが、兵士の一人を刀で切り殺してから言った。
「ユージ、こいつら今までの兵士より腕が立つぞ」
「ああ、動きが違う」
先程まで戦っていた兵士たちよりもここにいる兵士はレベルが高かった。
動きが洗練されており、他の兵士たちとの連携も取れている。
「ちょっとまずいかもね」
兵士の首をナイフで掻っ切ったレンが顔をしかめる。
俺たちギルドメンバーは無傷だが、国王軍の手によって次々と革命軍の仲間たちが倒れていく。
気付けば革命軍の仲間はここに来たときの半分まで減っていた。
「だがここまでくればもう後には引けねえ。やるしかねえだろ」
「私たちだけでも目的を達成しましょう」
アキラとシーナの言うとおり、俺たちはもう止められない。
仮に最後の一人になっても、国王を拘束するしかないのだ。
そうすれば目的は達成される。
そして、向こうではついにニョルズとユミルが直接、剣をぶつけ合っていた。
その動きは訓練された軍人らしく機敏で無駄がなく、その流れるような太刀筋は惚れ惚れしそうだ。
攻撃の一つ一つが確実に相手の急所を狙って放たれていた。
二人の実力はほぼ互角のように思えた。
だが、時間が経つと徐々にユミルの方が優勢になっていく。
それでもニョルズも一歩も引かずに全ての攻撃を受け止める。
「どうした? 動きが鈍ってきたぜ?」
「そういうわりには、俺に一度も攻撃を当てていませんよ?」
ユミルがニョルズに向けて剣を振り抜く。
ニョルズはそれを自分の剣で受け止める。
そのまま剣同士の押し合いになった。
「いい加減、諦めろ。お前じゃ俺には勝てねえよ」
「俺は諦めません。ユミル中将、あなたの命をもらいます」
「抜かせ。死ぬのはてめえだ」
カキンッと鈍い音とともに剣が弾かれ、その勢いで二人とも後ろへ数歩下がる。
だが素早く体勢を立て直し、二人はほぼ同時に地面を蹴って、再び相手へと突っ込む。
――そして二人の剣が交錯した。
「……ふっ」
「ぐっ……」
ニョルズの剣は、ユミルの頬を僅かにかすめるだけに終わった。
対するユミルの剣は、ニョルズの腹部を貫いていた。
「っ、ニョルズさん!」
俺たちはニョルズのもとへと駆け寄る。
革命軍の仲間たちはみんな動揺していた。
「この程度か、ニョルズ? お前はそんなものじゃないだろ? その程度の実力で国を裏切りやがったのか?」
剣を引き抜いたユミルが笑う。
駆けつけた革命軍の仲間たちがニョルズを守るようにユミルの前に立ちふさがるが、まるで相手にしていないようだった。
だが、とりあえずはニョルズをユミルから引き離すことができそうだ。
仲間たちがユミルの相手をしている間に、俺はニョルズの両脇へ手を回して体を引きずりながら戦場から遠ざけた。
カイたちが俺とニョルズを囲み、兵士から守るような陣形を取る。
おかげで俺はニョルズの手当に集中することができた。
「出血が酷いな……」
ニョルズの腹部と傷口を押さえる手が血で真っ赤に染まっていた。
これは致命傷かもしれない。
「……情けないな」
ニョルズがぽつりと呟く。
そう呟いた途端に、ニョルズは口から血を吐いた。
「話すと傷口が広がります。安静にしていてください」
「……君が指揮を取れ」
「え?」
「俺はもう駄目だ……君が俺の代わりに革命軍をまとめてくれ」
「っ、諦めないでください。生きる意志を持ってください。新しい国を作るんでしょうっ?」
「君になら、安心して任せられる……実力も人望も、君は持っている……それに……初めて会ったときから……指揮官としての器を君に感じていた……」
「買いかぶり過ぎですよ。俺はギルドのリーダーくらいが限界です」
その言葉がニョルズに聞こえていたのか分からない。
ニョルズは俺の手を弱々しく握った。
俺を見るその瞳の奥には強い意志を感じた。
「……頼む……この国を……救って……くれ……」
そこでニョルズはゆっくりと目を閉じた。
体から力が抜け、だらりと右手が地面に落ちる。
ニョルズの体は次第に粒子となり、それからまもなく、完全に消えた。
俺はからっぽになった両手をぎゅっと握る。
俺に出来ることはニョルズの意思を継いで、このクーデターを成功させることだ。
「ユージ、指示を出してください」
ニョルズとのやり取りを聞いていたシーナが俺にそう言った。
「――全軍、目の前の敵を排除し、直ちに国王のいる広間へ迎え!」
国王軍と戦闘中である残った僅かな仲間たちは俺の声に頷くと、ニョルズの死のショックを振り払うように雄叫びを上げる。
そして広間への道を開くため、国王軍の兵士たちに立ち向かっていく。
「させるかよ!」
だが、ユミルたち国王軍がその進行を阻止するために立ちふさがった。
激しい戦いの末、仲間たちは次々と倒れ、この場に残った革命軍は俺たちギルドのメンバーだけだった。
対する国王軍もかなりの数が減り、数えるほどしかいない。
だが、ユミルがいる限り国王軍の士気が下がることはない。
俺がユミルと対峙しようとしたそのとき、そこでカイとアキラが俺の前に立ち、国王軍に立ちふさがった。
「先に行け、ユージ」
「ここは俺たちに任せとけ」
二人でユミルたちを食い止めるつもりらしい。
「ユージ、行きましょう」
「倒れていったみんなのためにも、僕たちは絶対に成し遂げないといけない」
そこでシーナとレンも俺の背中を押してくれた。
「……分かった。この場は任せたぞ」
カイは無言で頷き、アキラはにやりと笑って右手の親指を立てた。
俺はレンとシーナと一緒に広間の方向へと駆けだす。
邪魔をしようと集まってくる兵士を切り裂き、道を開く。
そしてついに国王軍の壁を抜けた。
「ちっ、奴らを追いかけろ! 絶対に国王の下へ行かせるな」
「おっと、ここは通さねえぜ」
追ってこようとするユミルたちをカイとアキラが引き受ける。
その間に俺たちは国王のいる広間へと急いだ。




