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第一話 新たな国へ

 俺たちはスキールニルに戻ると、アルヴィースさんの家へと向かった。

 前と同じく工房で作業していたアルヴィースさんにさっそく俺は『硬質の羽根』を手に入れたことを話す。


「これが『硬質の羽根』です」


 それをアルヴィースさんへと差し出す。


「おおっ、本当に持ってきてくれたのか!」


 羽根を見た途端に、アルヴィースさんは子どものような笑顔を見せた。

 それを受け取ると、まじまじと色んな方向から羽根を眺める。

 真剣そのものだった。

 そして、アルヴィースさんは羽根から俺たちへと視線を移す。


「これでグレイプニルが作れる。ありがとよ。お前さんたちにお礼をしないとな」


 アルヴィースさんはそう言うと、一度工房の奥へと引っ込む。

 そして再び姿を見せると、その手に何かを持っていた。

 俺はそれを受け取る。

 それはクエストクリアの証となるカードと、そして大きな鎌だった。

 その立派な大鎌に俺は目を奪われる。


「これは俺の師匠、ダーインが作った最高傑作の代物、その名は『伝説の鎌ダーインスレイヴ』だ。こいつをお前らにやるよ」


 それは紛れもない9つの秘宝の一つであった。

 幸運にも俺たちの本来の目的も達成できたということだ。


「ありがとうございます。でも、良いんですか?」

「気にするな。お前さんたちのおかげで俺はようやく師匠に並べるんだからな」


 アルヴィースさんはへっと笑うと、鼻の下を指でかいた。


「俺は今までこの鎌を目標にして、師匠と同じくらい優れた作品を作ることを目指してきた。そして、グレイプニルを作れば俺の目標は達成される。グレイプニルにはそれだけの価値がある。だから、もうこの鎌は必要ない。お前さんたちが使ってやってくれ」


 アルヴィースさんの瞳から、俺は強い意志を感じた。

 アルヴィースさんの言葉に嘘はない。

 それなら俺は心置きなくこれを受け取ろることができる。


「……分かりました。ありがたく使わせて頂きます」

「おう、なくすなよ」


 そこでアルヴィースさんは唐突にカイを見た。


「小僧、その刀……もしかして『伝説の刀ヴェルンド』じゃないか?」

「ああ、そうだが?」

「やっぱりか。あの爺さん、元気にしてたか?」

「……たぶん元気だ」


 カイはいつもどおり表情を変えずに素っ気なく答える。

 だが、その声には珍しく優しさを感じた。


「俺とヴェルンド爺さんとは昔からの知り合いでな。あの爺さんも師匠と同じく天才だ。今生きている職人の中では最も腕のある職人かもしれない。良いものをもらったな」


 カイは黙ってアルヴィースさんに頭を下げる。

 アルヴィースさんも何も言わずに嬉しそうに頷いていた。

 俺はヴェルンドという人物に会っていないので分からないが、ヴェルンドを知る二人には今のやり取りだけで十分だったのだろう。

 それから俺たちはアルヴィースさんの家を後にし、その足でギルド支部へと向かった。

 ギルド支部で受付嬢にクリアの証を渡し、代わりに報酬をもらう。


「それにしても凄いですね! SSSランクのクエストをクリアした人たちを始めて見ました!」

「はは、ありがとうございます」


 その際エルフの受付嬢から尊敬の眼差しを向けられたが、照れくさいので俺は苦笑してそれを受け流した。

 美人から褒められるのは嬉しいけどなかなか慣れない。


「それじゃあ俺たちはこれで失礼します」

「はい、今後ともギルド支部をよろしくお願いします」


 受付嬢の笑みに会釈を返し、俺たちはギルド支部を後にした。


「よっしゃ、次はどこに行くんだ?」


 外に出るなり、そこでアキラが意気揚々と声を出し、期待した顔で俺を見る。


「アキラ、一緒に付いて来る気か?」

「ああ、俺もお前らのギルドに加えさせてくれ」

「飯の恩はもう十分に果たしただろ?」

「そう固いこというなよ。お前らといたら退屈しなさそうだからな。俺も9つの秘宝とやらを集めるのを手伝うぜ」


 アキラは断固として俺たちに付いて来るつもりらしい。


「そう言ってるけど、どうする?」

「私は良いよ。仲間外れにしたらアキラくんが可哀想だし」

「賑やかなのは良いことだと思いますっ」

「俺はユージの判断に任せる」


 一応みんなにも意見を求めると、フィーアたちもアキラの加入を嫌がってはいないようだ。

 俺も反対する理由は特になかった。

 アキラの強さは十分に戦力になるし、少々アホではあるが悪い人間ではなさそうなのも分かった。

 一緒に旅をするうえで問題が起こる可能性はなさそうだ。


「分かった。これからよろしくな、アキラ」

「さすがはユージ、話せば分かる男だ!」


 アキラは嬉しそうにバンバンと俺の背中を叩く。

 痛いからやめろ。


 そういうわけで、アキラが正式に俺たちの仲間になった。


――


 迷いの森で出会った謎の男女のことも気になったが、俺たちは9つの秘宝を求めて次の国を目指すことにした。

 先日、スヴァルトアームヴヘイムで9つの秘宝を手に入れた俺たちは、新たな国、『ヨトゥンヘイム』にある都市、『スリュムヘイム』へと到着した。

 ここは立派な観光都市であり、宿泊施設や娯楽施設も充実している。

 その雰囲気は商業大国であるニダヴェリールに近かった。


 門番に通行料を払って街に入るなり、大きな案内看板が目に入る。

 さらに進むと、その整然として、かつ味わいのある街並みに俺は驚かされた。

 ヨトゥンヘイムが観光都市と呼ばれる所以は、岩で造られた大きな遺跡が多数存在しているからだ。

 遺跡を見るために多くの人がここを訪れている。

 その観光客を狙った商人たちが街に集まり、さらに人が集まる。

 そうしてこの街が出来上がった。


 どこを見ても人がおり、一見活気のあるように思える。

 だが、街の人の表情はどこか浮かないように見えた。

 表面上は笑顔が溢れているが、雰囲気がどこか重苦しい。

 彼らの笑顔があくまで商売のための愛想笑いに思えて仕方がなかった。

 気のせいかもしれないし、今は気にすることもないだろう。

 俺たちはとりあえず宿を探すことにした。


「ユージさん、ユージさん、あとで遺跡を見に行っても良いですか?」


 アイがそわそわしながら、上目使いで俺に尋ねる。

 まるで遊びに行くのを待ちきれない子どものようだ。

 せっかくヨトゥンヘイムを訪れたことだし、息抜きに観光するのも良いかもしれないな。


「ああ、一緒に行くか?」

「はいっ、ぜひお願いしますっ」

「私も行きます」


 そこに間髪入れずにシーナが参加を表明する。

 その反応の速さに俺は苦笑を浮かべた。


「それじゃあみんなで回ろうか。フィーアたちも来るだろ?」

「うん、もちろんだよ」


 フィーア、ユキ、レンの三人も俺たちと一緒に回ることになった。

 ここまでは予想どおりだ。


「カイたちはどうする?」

「俺はパスだ。そういう観光に興味はないんでな」

「なんだ、カイは参加しないのか? ノリが悪いな」


 アキラがつまらなそうに言った。


「ということは、アキラは参加で良いんだな?」

「ああ、古代の遺跡は男のロマンだからな」


 俺が確認すると、腕組みをしたアキラが大袈裟に頷く。

 すると、そこでカイがぴくりと眉を動かす。

 そしてアキラを睨んだ。


「アキラ、空気を読め。お前が一緒に行っても邪魔になるだろ」

「なに、どうしてだ?」

「決まっているだろ。ユージのハーレムに男は不要だ」


 カイはアキラに呆れるようなため息を付いた後、分かっていると言わんばかりの表情で俺の方を見て頷く。


「いや、別にそんなつもりはないんだけど……」

「そうだよ、みんなで回った方が楽しい、カイくんたちも一緒に行こうよ」


 若干顔を赤くしたフィーアがカイを誘うが、カイは首を振った。


「いや、気遣いは必要ない。ユージの気持ちを酌んでやるのも戦友の務めだ」

「……確かに野暮だったかもしれないな。よし、ユージ、俺たちの分も楽しんで来い!」

「いやいや、アキラまで何を納得してるんだよ!」

「俺だって恩人兼ダチの情事を邪魔するような無粋な真似はしたくねえからな」


 アキラは満面の笑みでそう言うと満足げに頷く。


「そのとおりだアキラ。だが、ユージの一番の友は俺だ。そこは譲らないぞ」

「待て、確かに俺はユージとの付き合いは浅いが、俺だって気持ちでは負けていないぜ」


 そこで二人は睨み合う。

 お互いに表情は余裕を見せているが、目が笑っていない。

 お前らアホだろ。


「ユージさん、大人気ですね……」

「前から思ってたけど、ユージって女たらしというよりも人たらしだよね」


 ユキとレンが苦笑を浮かべる。


「ユージさんを巡って争うカイさんとアキラさん……なんでしょう、少しドキドキします」


 そして頬を染めたアイがぽつりと呟いた。

 それはちょっと危ない思考が混じってないか。


「もう、二人とも喧嘩は駄目だってば。ほら、遺跡もみんなで回るから二人ともちゃんと準備しておいてね」


 結局、フィーアによってなだめられ、カイとアキラも渋々俺たちの遺跡巡りに付き合うことになった。


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