彼女の回想
大きなブレーキの音。
私はようやく目を開ける。
トラックはユージのすぐ目の前で止まっていた。
ギリギリで自動制御装置が働いたことで、ブレーキが間に合ったらしい。
彼はトラックから目を逸らさずに、そこに平然と立っていた。
「悠二!」
私は急いで立ち上がると、彼に詰め寄る。
「大丈夫だったか?」
振り返った彼は、けろりとした表情で平然と言った。
「馬鹿っ、どうして私を助けたのっ?」
私は彼の胸元を両手で何度も叩いた。
彼を非難する声が震える。
涙を抑えられなかった。
本当に、無事で良かった。
すると、彼は困った表情で後頭部をかき、それから苦笑した。
「自然に体が動いたんだから仕方ないだろ。とりあえず生きてて良かったよ」
まるで自分のことを顧みない行動。
それを反省していない表情。
私は無性に腹が立った。
気付くと声を荒げてしまっていた。
「あなたが死んだら意味ないでしょ!」
「でもお前が死ぬよりはマシだ」
「そんなことないわ! あなたに死なれたら私が困るの!」
助けてもらった相手にこんなことを言うなんて私はなんて嫌な女だ。
それでも、彼を怒らずにはいられなかった。
私は彼のことが好きだから。
すると、彼は根負けしたようにふっと息を付いた。
「お互いに相手の心配ばかりしてたみたいだな……悪かった。あんまり無茶なことはしないように気を付ける」
「本当に?」
私は疑いの眼差しを彼へじっと向ける。
「……また同じようなことがあったら、多分また躊躇わずにお前を助けると思う」
「そういうと思ったわ」
私は苦笑した。
このくらいで彼が変わるとは思えなかったし、私が彼の立場でも同じことをすると思う。
だから今は私の気持ちを少しでも知ってもらえればそれでいい。
それからトラックの運転手が私たちに謝りに来るなり土下座をして一悶着あったが、二人とも無事だったので結局穏便に終わらせた。
これで一軒落着だ。
そう思ったとき、そこで私は足に痛みを覚える。
見ると膝から血が出ていた。
どうやら倒れたときに膝を擦りむいたらしい。
今まで痛みを感じなかったのは、何だかんだずっと気を張っていたからだろう。
私の流血に気付いて、彼は眉を八の字にして相当困った表情をしていた。
「……今度はもっとうまく助けるよ」
「その今度がもうこないことを祈るわ」
私はハンカチで流れる血を拭くと、傷口を押さえる。
それほど深い傷ではなさそうだ。
するとそこで、彼は私に背中を見せると、その場に屈み込んだ。
察するに、私を背負ってくれるつもりらしい。
「ほら、咲夜」
「……どういうつもり?」
「足、痛むんだろ?」
「結構よ。そういうことをされる歳じゃないわ」
「歳なんて関係ないだろ。ほら、早く」
「……仕方ないわね」
少し恥ずかしいが、私は素直にそれに従うことにする。
彼の背中は大きくて、とても頼もしかった。




