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第二十五話 集結

 その魔物は空中で羽根を広げ、俺たちを睨みつけるように静止する。

 魔物の動きを見逃さないように、その挙動に注目していると、そこで魔物は大きな翼をばさりと一度羽ばたかせる。

 周囲の草木がざわりと揺れた。

 すると、俺たちに向かって、翼から放たれた無数の羽根が勢いよく飛んできた。


「くっ!」


 俺は咄嗟に加速すると、飛んできた羽根を剣で打ち落としていく。

 羽根はまるで金属のように硬く、その先はまるでナイフのように鋭く尖っている。

 まともに受ければ串刺しにされてしまうだろう。

 金属同士がぶつかり合う鈍い音が何度も森に響く。

 弾いた羽根が地面に刺さる。埒が明かない。


「皆さん、私の後ろに!」


 そこでアイが右手を伸ばして結界を張った。

 俺もすかさずアイの後ろへ下がる。

 今度はアイに向かって羽根が飛んでいく。

 しかし魔物から飛ばされた羽根は、全てアイの結界に防がれた。

 ようやく羽根の雨が止む。


「っ……」


だが、そこでアイは顔をしかめて地面にしゃがみ込んでしまった。


「アイ、無理するな」

「いえ……これくらい、大丈夫です……」


 そう言ったアイは肩で息をしていた。

 明らかに疲れているのが分かる。

 先ほどの戦闘での疲労も回復しないまま能力を使用したせいだ。

 俺は庇うようにアイの前に立つ。


「アイはもう能力を使うな。しばらく休んでろ」


 アイから返事は返ってこなかったが、これ以上はアイが納得していなくとも、無理にでも止めなければならない。

 でないとアイの命が危険だ。


「しかしどうするよ、ユージ? あいつ、相当強いぜ?」


 アキラは両手で拳をポキポキと鳴らしながら、俺の隣に並ぶ。

 正直、特にこれといった手は思い浮かんでいない。

 とにかく攻撃は全て防ぎ、地道にダメージを与えていくしかない。


 先程の魔物と違い、遠距離から攻撃できる手段があるのは厄介だ。

 しかもレベルが圧倒的に高い。

 先ほどの魔物のように一撃で倒すことは不可能だ。

 そのうえ相手は空を飛べるのだから状況は圧倒的に不利であることは誰の目から見ても明らかである。

 未だ上空で静止している魔物の出方を窺っていると、そこで、魔物に動きがあった。

 魔物は大きな口を開くと、鳴き声を発する。


「――――っ!」


 その不快な音に、俺たちは耳を塞ぐ。

 頭が割れそうなほど痛い。

 これではまともに立っていることもできない。


「――ちっ、その矢、使わせてもらうぜ」


 すると、アキラはフィーアから矢を一本もらうと、直接魔物に向かって投げつけた。

 矢は魔物の喉の辺りへ正確に飛んでいく。

 すると、魔物は翼を体の前に出す。

 矢は翼に当たるがその硬い羽根を貫くことは出来ずに地面に落ちた。

 しかし、とりあえずあの不快な鳴き声は止んだようだ。


「アキラ、助かった」

「あの魔物、相当厄介だな。さっさと倒さないと今のがまた来るぜ」

「ああ、分かってる」


 だが、空を飛べる魔物に対してどう戦おうか。

 アイの結界が使えないのが痛い。

 しかもあの魔物の耐久力は相当なものだ。

 正面から素直に挑めばあの翼で完璧に防がれてしまう。


「とにかく魔物を地面に落とさないと厳しいね。宝石を使う?」

「いや、この距離で投げても翼で防がれる可能性が高い。まだ取っておいてくれ」


 レンの言うとおり、まずは相手を俺たちと同じ土俵で戦うように仕向けなければならない。

 しかし、どうやって。攻撃する手段はいくつか考えられるが、どれも火力不足だ。

 俺が頭を悩ませていると、そのとき、突然魔物の背後に人影が現れた。

 空中で少女はそのまま手に持っている大鎌を振り下ろす。

 それは魔物の背中を切り裂き、魔物は叫び声を上げ、大きくのけ反った。

 背中を覆っていた羽根がひらひらと地面に舞い落ちる。

 攻撃は確かに効いているようだ。

 そして、攻撃をしたその人物は俺の隣に一瞬で移動した。


「遅くなりました、ユージ」


 それは、両手で大きな鎌を持ったシーナだった。


「み、皆さん、大丈夫ですかっ?」


 森の中からユキが走ってこちらにやってくる。

 そこで俺は納得する。

 レベルの差があるシーナが魔物にあれほど大きなダメージを与えることができたのは、ユキの能力でシーナの力を強化していたからだ。


「苦戦しているようだな。助太刀するぞ」


 そして、最後にカイが、ゆっくりと俺たちの前に姿を見せた。

 さすがは俺たちのカイ。

 狙っていたんじゃないかというくらい最高のタイミングだ。


「みんな、無事だったんだね!」


 フィーアがぱあっと笑顔になる。

 他のみんなも嬉しそうな表情やほっと安堵の表情を浮かべていた。

 そして、安堵したのは俺も同じだ。

 これでようやく全員揃ったのだ。


「ん? お前らの仲間か?」


 カイたちのことを知らないアキラが、首を傾げながら俺に尋ねる。

 俺は頷いた。


「ああ、これで奴に勝てるかもしれないぞ」


 魔物は依然として空を飛んでいるし、良い作戦を思いついたわけでもないが、全員の力を合わせればあの魔物を倒せるかもしれない。

 希望が出てきた。


「ユージ、あれが例の魔物だな?」

「ああ、かなり強いぞ」


 魔物は傷を癒すためか、上昇して俺たちと距離を取っていた。

 しばらく襲ってこないようなので都合が良い。


「面白い。SSSランクのクエストに相応しい相手だ」

「相変わらず頼もしい反応だな」


 俺は思わず苦笑を浮かべる。

 実際カイなら大抵何とかするので、俺もカイを信頼するだけだ。


「へえ、まだ強い奴がこんなにいたんだな」

「お前は?」

「俺はアキラだ。ユージには飯の恩があるから力を貸すぜ」

「飯? 知らない間に今度は男までたらし込んだか」


 カイは俺の顔を見ると、真面目な顔で心外なことを言う。

 俺は顔をしかめた。

 アキラはカイの言葉の意味が分からず首を傾げていた。

 そこで、くすりとレンが微笑む。


「ユージ君、なんだか調子が出てきたみたいだね」

「ん? そうか?」

「うん、私もそう思う。カイくんがいるからかな。ちょっと嫉妬しちゃうかも」


 フィーアも苦笑を浮かべてそう言った。

 というか嫉妬する要素がどこにあるのか。

 しかし、それを聞いたカイがなぜか真面目な顔で頷いた。


「ああ、なにせ俺とユージは戦友だからな。ユージが俺と再会して嬉しいのは分かる」

「いやそんなんじゃないから」


 カイとの慣れたやり取りに心地よさを感じていることは否定しないが、カイの言い方だと俺にそっちのがあるみたいで素直に肯定できない。


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