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第二十二話 協定

 ……これはどういう状況だろう。


 とある宿の一室での出来事。

 『スヴァルトアームヴヘイム』に着く前の話だ。

 そこには俺の他に、フィーア、ユキ、シーナ、レンの四人がいた。

 ここは本来一人部屋なので四人も集まると若干圧迫感を覚える。

 しかも部屋に漂うピリピリとした空気が余計にそう感じさせるのだろう。

 その中央にある丸いテーブルを囲む俺たち。

 俺はそれぞれの顔を見渡した。

 真剣な表情の4人を対して、俺は若干気圧される。


「――それでは、『第一回ユージくんの恋人の会』を始めたいと思います」


 そして、フィーアが無駄に元気のいい声で、意味不明なことを言い始めた。


「待てよ、これはどういう集まりなんだ? 何をするか俺は何も聞かされてないんだが?」


 俺が困惑して尋ねると、フィーアは真面目な顔で言った。


「私たちはみんなユージくんと晴れて恋人になったわけだけど、これから一緒に過ごしていくうえで決まり事がないと困ることもあると思うんだよね。一度しっかりと話し合う必要があると思うの」

「僕も同感かな。争いが起きないことに越したことはないからね」


 体の前で腕を組んだレンが満足げに頷く。


「抜け駆けは厳禁です」


 そう牽制するように呟くシーナ。


「わ、私も話し合いは必要だと思います」


 ユキも恥ずかしいのか若干顔を赤くしながらも、フィーアたちの意見には賛成らしい。

 俺は仕方なくフィーアたちの話を聞くことにした。


「でも決まり事ってなんだ? 食事の当番とかか?」

「それも必要かもしれないけど、それよりもまず決めないといけない大事なことがあると思うの」


 フィーアは何の迷いもなくそう言ったが、俺にはそれが分からず首を傾げる。


「大事なことって?」

「それは夜伽についてです」


 俺の疑問に、フィーアの言葉を引き継いだシーナが答える。

 いきなりとんでもない話題を出されて俺は面食らった。

 よ、夜伽って……


「問題は機会の平等性です。いくらユージが我々を平等に扱うといっても一度に相手をしていては体力的に辛いでしょう。とはいえ、なんのルールもなくその場の勢いで好き勝手するのであれば不公平になりかねません」

「それはその場の勢いで問題ないような気もするけど……ほら、体調とかムードとかもあるだろ?」

「いや、問題が発生する前に取り決めを決めておくのは良い方法だと僕も思うよ」

「私も良いと思います」


 ユキまで真剣になって頷いていた。

 止める人間がいないので俺も諦めてもう好きにさせることにした。

 それにフィーアたちの言うことも一理ある気がしてきた。

 確かにルールを決めておくのは無用なトラブルを防ぐためには必要かもしれない。

 それに、俺も事前に心の準備が出来た方が何かとありがたい。


「それじゃあ具体的な方針を決めようか。意見のある人!」


 右手を上げながらフィーアが周囲を見渡すと、さっそくレンが提案をする。


「ローテーション制でどうかな? それなら全員平等に機会が行くでしょ」

「賛成です」

「意義ありません」

「良いんじゃないかな」


 あっさりと決まった。

 まあ、それが一番打倒だろうと俺も思う。


「それじゃあレンさんの案を採用するね。ユージくんもそれで良いかな?」

「ああ、俺も別に良いけど……」


 それでみんな満足するなら俺から言えることは何もない。

 そもそもこの場に俺は必要なのだろうか。

 だが俺の返事にフィーアは満足しなかったようだ。


「それにしては浮かない表情をしてない? もしかして体力的に辛いとか?」

「確かに毎日だと大変かもしれませんもんね。休憩の日も作ってはどうでしょう?」


 ユキが控えめに提案をする。

 俺の心配をしてくれるのは嬉しいけど、俺が浮かない顔をしているんだとしたら残念ながらそんなことが理由じゃないんだ。

 いくら大切なこととはいえ、女の子たちと一緒に真面目にエッチの話をしているこの状況に付いて行けてないだけだ。

 あ、でも俺も休憩の日はほしいかも。


「ああ、そうしてくれ」


 結局流されるままに決まってしまった。

 この後も、「順番は誰からにするか」とか「破った場合の罰則はどうするか」などのルールを検討して決めていた。

 みんな真剣過ぎて俺は立ち入れない。

 ちなみに担当じゃない日に俺から求めてした場合もローテが一回飛ばされるという徹底ぶりだった。

 しかし、俺は疑問に思うことがあった。

 議論が落ち着いたところを狙って俺は尋ねる。


「でもそこまで平等に拘るなんて意外だな。みんなはそれで良いのか?」


 思えば俺たちが付き合い始める前も、抜け駆けはしたくないという趣旨の発言をフィーアたちは口にしていたことがある。


「良いのかって?」

「独占欲というか……俺が言うのも変だけど、普通はもっと他の人の分も自分の時間に使ってほしいと思うものじゃないのか?」


 俺自身が平等を望んだというのに、それでも聞かずにはいられなかった。

 本当に不満はないのか。

 俺は不安だったのだ。

 俺の理想が彼女たちを縛っているんじゃないか。


 俺が自分の気持ちを彼女たちに伝えたときもそうだった。

 みんな無条件で俺を受け入れてくれた。

 俺は顔をしかめられるどころか拒絶されるかもしれないとさえ考えていたのにもかかわらずだ。

 俺はそれでも納得させるまで諦めない覚悟も、満足させ幸せにする覚悟もあったが、それゆえになんとも拍子抜けな結果だった。


 だから俺はそれが本心なのか確かめたかった。

 無理をしているのなら言ってほしい。

 俺に文句の一つくらい言っても良いのだ。

 しかし、みんなから返ってきた答えはそれでも同じだった。


「だって喧嘩になったら嫌だもん。私もみんなのことが好きだし、みんなで幸せになれたらそれが一番でしょ」

「ユージ君の大切だと思っている人の中に自分がいる。その事実があれば僕は幸せだから。逆にいえば、ユージ君の大切な人が何人いても、僕もその中の一人でいるならそれで十分なんだ」

「それにユージさんがそういう人なのは、私たちも分かっているつもりですから」

「私は平等にあまり興味もないのですが……ユージが全員を平等に愛すると決めたのならその意思を尊重して手助けしたいと思います」


 全員がそれぞれの思いがあって平等であることを選択した。

 俺に言わせるとみんなどれだけ優しいんだろう。

 逆に俺がそれを受け入れてしまっていいのか分からなくなる。


「自分が一番になりたいとは思わないのか?」

「ユージが私を愛してくれるのなら、それは些細な問題です。誰が正妻かどうかと争うつもりはありません」


 首を振って、シーナはそう言った。


「ユージくんなら全員を幸せにしてくれるに決まってるもんね」


 フィーアが当たり前のように言うと、他の三人もうんうんと頷く。

 その誰もの表情が、俺がそうすると信じて疑っていない。

 そこで俺は自分の勘違いに気付いた。

 彼女たちはただ無条件にハーレムを肯定しているんじゃない。

 俺がみんなを平等に扱い、そのうえで幸せにすると信じているのだ。


 結局、俺の覚悟の問題であることには変わりなかった。

 全ては彼女たちの幸せのために努力すること。

 そして真のハーレムを達成する。

 それが彼女たちの期待に応える唯一の方法なのだ。

 俺は再度決意する。

 フィーア、ユキ、シーナ、レン。

 俺は彼女たちの恋人として相応しい男にならなければならない。


「ありがとう。俺はみんな大好きだ。愛している」



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