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第十六話 シーナと過ごす夜

「皆さん、よくぞドラゴンを倒してくださいました。ありがとうございます」


 町長の家に行った俺たちに、深いお礼と共に町長が発した第一声がそれだった。

 一緒に来た俺たちより先に部屋へ入って町長と会っていたギーシュさんから報告を聞いているらしい。

 ギーシュさんは俺たちと一緒に町長の家を訪れた後、すぐに別のところにも今回の成果を報告するために出て行った。


 ギーシュさんはとても忙しそうだった。

 すでに噂は広がっているが、これからギーシュさんを中心とした討伐隊のメンバーが改めて街でドラゴン討伐の報告を大々的に行う予定だ。

 それには俺たちも参加することになっていた。


「おかげで街にも平和が訪れることでしょう。あなた方はこの街の英雄です」

「英雄だなんて大袈裟ですよ。ギーシュさんたち討伐隊みんなの力があったからこそ、あの数のドラゴンを相手に勝つことができたんです」

「ええ、今回討伐隊に参加してくださった皆さんには感謝してもしきれません。この街が完全に元通りになるまで時間はかかるでしょう。ですが、現在この街には希望が溢れています。そして、ドラゴンを恐れずに討伐隊に参加してくださった強い意志を持った方々がここには大勢います。ですから、きっと復興できると私は信じています」

「はい、きっと復興できますよ」


 町長の言うように、この街には戦いを恐れない強い意志を持った人たちが大勢いる。

 彼らがいればあの美しい街並みを取り戻すこともきっとできることだろう。


「ユージさん、今回の結果が討伐隊全員の働きによるものであっても、一番の要因はやはりあなた方がいたからこそだと思っています。あなた方がいなければ、これだけ大規模な戦闘で戦死者はおろか負傷者さえ殆ど出さずに勝利することは不可能だった。これは奇跡的と言っていいと思います。そこで、私からあなた方にお礼をさせてください」

「いえ、俺たちは俺たちのやりたいように行動したまでです。感謝の気持ちだけで十分ですよ」


 お礼なんてもらわなくても、俺たちはドラゴンを倒したことで得た経験値とお金、それとレアアイテムがある。

 これ以上町長からお礼をされるのは本意とはいえない。


「いえ、それでは私が納得できません。ぜひ受け取ってください」


 町長がそう言っている間に、いつの間に用意していたのか、入口に控えていた年配の兵士が長細い箱を俺たちの前に持ってくる。

 兵士がその箱を開けると、そこには立派な弓が入っていた。


「これは我が家に代々伝わる秘宝、伝説の弓ミスティルテインです」


 その弓の名前に俺は驚いた。

 まさかここに9つの秘宝のうちの一つがあるとは。


「ユージさん、街を救ってくださったお礼にぜひ受け取ってください」


 それは願ってもない申し出だった。

 9つの秘宝を手に入れることも俺たちが旅をするうえでの目的の一つだ。

 逆にこんなにあっさりともらっても良いのだろうか。


「本当に良いんですか? 大切な物なんでしょう?」

「この家にずっと置いておくよりも腕の立つ方に使って頂いた方が弓の作り手も喜ぶと思います。もちろん売っても構いませんし、どのように使用するかは所有者であるあなた方の自由です」


 町長は本気で俺たちに秘宝をくれるつもりらしい。

 そこまで言われては断る理由がない。


「分かりました。ありがたく頂戴します」


 俺は弓を受け取った。

 弓であればフィーアに使ってもらうのが良いかもしれないな。

 まだ使いこなすことは難しいだろうが、このまま順調にレベルを上げてスキルも上がればいずれは役立つときが来るだろう。

 それにしても宿を探すために訪れたつもりが、まさかこんな結果になるとは思ってもみなかった。

 旅というのはこれだから面白い。


――


 ドラゴン退治を終えたその日、俺たちは街一番の大きな宿に泊まった。

 街の中心部で行われたドラゴン討伐の報告は大喝采のまま幕を閉じた。

 俺たちがドラゴンのボスを倒したことをギーシュさんの口から街の人々に伝えられ、俺たちは英雄として祭り上げられたのだった。

 宿でもそれは同じで、宿泊費はただになったうえに盛大にもてなされた。

 少し照れくさいがその気持ちはありがたい。

 俺たちはそのもてなしを十分に味わった。


 宴会が終わり、俺たちはそれぞれ自分の部屋に戻った。

 ドラゴンの討伐という重要イベントこそ終わったが、俺たちの冒険は終わりじゃない。

 しっかり体を休めて今日の疲れを取り、明日からまた旅立たなければならないのだ。

 そろそろみんなが寝静まった頃、俺ももう寝ようと思ったところに、部屋の扉を叩く音が聞こえた。


「ユージ、起きていますか?」

「ああ、起きてるぞ」


 そう俺が返事をするより前に扉が開き、シーナがひょっこりと顔を覗かせた。

 こんな時間に何の用だろう?

 ベッドに腰掛けたまま、俺はシーナに尋ねる。


「どうした? 眠れないのか?」

「はい。ユージと少し話をしたい気分になりました」


 そのままシーナはごく自然に俺の隣に座った。

 俺の肩と、そこに寄り掛かったシーナの頭が密着する。

 こういう状況は前にもあったような気がする。

 というかよく考えるとこういう状況は何度もあった。

 俺たちはしばらく無言のまま肩を寄せ合っていると、ふとシーナが口を開いた。


「ユージはユキと付き合っているのですか?」

「……ああ、気付いていたのか?」

「ええ、見ていれば雰囲気で分かります」


 それを聞いても特に驚きはなかった。

 フィーアも気付いていたみたいだしな。


「シーナの言うとおり、俺はユキと付き合っている」


 いずれ話そうと思っていたことだ。

 隠すつもりはないので俺は正直に答えた。

 シーナにも俺の気持ちを正直に伝えておかなければならない。


「そうですか。ユージはユキが好きだったんですね」


 シーナの口調はいつもと変わらない。

 だが、シーナの気持ちを俺はこれまでの行動から察している。

 そして今のシーナには誤解がある。


「シーナ、俺はユキもシーナもどっちも大切だと思っている。それにフィーアやレンも同じくらい大切な人だ。俺には誰が一番なんて決められない。みんな好きなんだ。だから、俺はできることなら全員とずっと一緒にいたいと思っている」

「ハーレム、というやつですか?」

「……そうだな、俺はハーレムを作るつもりだ。決して褒められたことじゃないけど、俺はそれを実現するためならなんだってするつもりだ」


 この世界では重婚は認められている。

 しかし、だからといってそれが推奨されているかどうかと言われると話は別だ。

 制度として認められているだけで倫理的にはやはり良い顔はされない。


「では、ユージは私のことも好きだと思っていいんでしょうか?」


 シーナが俺の顔を見つめる。

 俺もシーナを見つめて頷いた。


「ああ、俺はシーナが好きだ」

「……では、私とも恋人になってください」


 シーナはあくまでいつもと同じく無表情で淡々としていた。

 だが、その瞳に込められた強い気持ちはしっかりと伝わってくる。


「もちろんオーケーだ。俺はシーナのことが好きだからな」

「……ユージ、ありがとうございます。嬉しいです」


 シーナが俺に抱き付く。

 俺もシーナの体に腕を回した。

 柔らかな感触と心地よい温もりをしばらく堪能する。

 するとシーナが顔を上げた。

 そして背中に回していた腕を俺の首元へとやると、そっと顔を近づける。

 俺もそれに倣って目を閉じたシーナへと顔を寄せる。

 そしてシーナとキスをした。

 シーナはなかなか俺を離してくれなかった。

 ようやく唇を離すと、シーナはとろんとした表情で俺に尋ねた。


「ユージ、ユキとすでにキスはしたのですか?」

「……ああ」

「ファーストキスは先を越されていましたか……」

「正直に言うと、初めてはフィーアとした」

「そうですか。ではエッチの方もすでに済ませてしまったのですか?」

「い、いや、それはまだだけど……」


 あまりにストレートに聞かれたので俺の方が恥ずかしくなって言葉を濁した。 しかしシーナの方は大真面目だったらしい。


「ユージ、私は以前にユージの一番をもらうと宣言しました」

「え? ああ、そんなことを言っていたな……」

「今日、それを果たします」


 シーナはそう言うと、両膝立ちになり、たどたどしい手つきで、俺のズボンのベルトに手を……って、ベルトっ?


「ちょ、シーナっ?」

「キスはフィーアに、恋人はユキに最初を取られてしまいましたが、ユージの童貞は私がもらいます」


 シーナは手を緩めることなく、俺のベルトを外そうと俺の下半身に顔を近づける。


「待て待てっ、いきなり何をするつもりだ?」

「エッチですが?」


 それがどうしましたかと言わんばかりにシーナは平然と答える。

 いや、その意思はちゃんと伝わっているんだが、とにかく急過ぎる。

 童貞を捨てるには心の準備が必要なんだ。


「ユージ、私のおっぱい、今日こそは揉んでくれますよね?」


 俺をじっと見上げたシーナは、可愛らしく小首を傾げてそう言った。

 もう少し視線を下げると、胸元からちらりと下着と谷間が見える。

 それを見たとき、俺は吹っ切れた。

 もうなるようになれだ。

 俺はシーナを抱き上げてベッドの上へと寝かせると、その形の整った二つの乳房へと手を伸ばす。


 ――その日、俺は童貞を卒業した。



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