第十五話 ドラゴンの親玉
そしてギーシュさんと別れると、俺たちは街の中へと突入する。
街の中もドラゴンで埋め尽くされていた。
そこは廃墟となっており、ところどころに崩れた建物が見える。
放置された馬車や地面に散乱する屋台の残骸など、かつてここに人が住んでいた痕跡が残っていた。
ここにいた人たちはどうなったんだろう。
この街の平和な暮らしは全てドラゴンに壊されてしまった。
それは決して許せるものじゃない。
俺は全速力で走った勢いのまま、一番近くにいたドラゴンへと突っ込む。
そして剣でその胴体を真っ二つに切り裂いた。
そこで、別のドラゴンが俺に襲い掛かる。
迫りくるドラゴンの鋭い爪。
だが、俺はドラゴンの腕を片手で握って受け止める。
レベルの差があれば、いくらドラゴンだろうと力比べで負けることはない。
ドラゴンの腕を掴んだまま、もう片方の手に持っていた剣で握っていたドラゴンの腕を切断する。
さらに反対の腕、胴体と連続で切り裂いた。
二体のドラゴンを倒した間にも、ドラゴンがわらわらと湧いてくる。
そこにユキが走って俺の下までやってきた。
「ユージさんっ」
「ああ、ユキ頼む!」
俺の言葉にユキは頷くと、俺の肩に触れた。
その瞬間、力が湧きあがってくるのを感じた。
ユキの能力によって俺の筋力と敏捷が大幅に上昇したのだ。
「よしっ、行くぜ!」
俺は地面を蹴ると、ドラゴンの群れへと突っ込む。
そして連続で剣を振るう。
体が軽い。
自分の能力を使っていないのにドラゴンの動きがスローモーションに見えた。
そして、俺は一瞬でドラゴンの集団を細切れにし、全滅させた。
ふと周囲の様子を見ると、同じくカイも次から次へとドラゴンを刀で切って倒していた。
滑らかな太刀筋がドラゴンの体をあっさりと真っ二つにする。
さすがはカイだ。
俺とカイで大体三分の二のドラゴンを倒したと思う。
その後もドラゴンを倒しながら、俺たちは街の奥へと進んでいく。
しかし、その途中で俺たちは足を止めた。
「……ユージ、気付いているか?」
「ああ、嫌な予感がする」
それは単なる感に過ぎない。
だが、俺だけではなくカイも同じ予感を抱いていたらしい。
これまでの経験から来る予測。
この先から明らかに今までとは別種の不穏な空気を感じた。
それは俺たちが『ヤルンヴィド迷宮』の地下でゴーレムたちと遭遇したときと似ていた。
そして、その予感は的中する。
突然、目の前にあったコンクリートで造られた家屋が爆発した。
外へ向かって散らばった瓦礫が俺たちの方まで飛んでくる。
そして、立ち止まる俺たちの前に一匹のドラゴンが姿を現した。
【リントヴルム】レベル180
今までの奴らとは別格といえるほどレベルが高い。
体も他のドラゴンより一回り大きかった。
「あれがドラゴンのボスか」
ご丁寧に名前まであるらしい。
俺たちは警戒を強める。
今までのドラゴンも強かったが、いくらレベルが高くても120を超えた個体はいなかった。
それが一気に50レベルも上の奴が出てきたのだから衝撃は大きかった。
討伐隊の中で一番レベルが高い俺と奴とで10以上も差が離れている。
10レベルの差は大きい。
2、3レベルは誤差の範囲。
5レベルでも努力次第で単独でもなんとかなる。
もちろん今までの討伐隊とドラゴンの戦闘で分かるように、レベル差があっても戦い方次第では決してダメージを与えられないわけではないし、手数を加えれば倒すことも出来る。
10レベルなら戦い方次第で何とかなるレベル差でもあるといえる。
しかし問題は、こちらが攻撃を食らわないのが前提だということだ。
特に100レベル近く差の離れたレンから下は一撃が致命傷となりえる。
それどころか俺でさえあのドラゴンの攻撃をまともに受ければ死ぬ可能性がある。
「……どうする、ユージ。一旦引くか?」
「いや……ここであいつを倒す」
「ふん、お前ならそういうだろうと思った」
そう言ってにやりと笑うカイは、すでに戦う気満々で刀を構えていた。
ここまで来て撤退はありえない。
仮にここで逃げてもあのドラゴンが街までやってくる可能性がある。
そうなれば全く意味がない。
それに、このくらいの逆境は何度も経験してきた。
その経験則が、俺たちに何とかなると告げていた。
そこで、ドラゴンが大きく口を開ける。
嫌な予感がした。
「危ない!」
その予感は的中し、ドラゴンの口から炎が吐き出された。
「み、皆さんっ、私の後ろにっ!」
アイが咄嗟に結界を張った。
炎は結界に阻まれる。
だが、やはりレベル差があるせいで徐々に炎の威力に押されていた。
「アイさん、持ちこたえてください」
そこでユキがアイに触れ、その能力でアイの結界を強化してくれた。
結界が一回り大きくなり、強度も増す。
そして耐えていると、しばらくしてドラゴンの炎が止んだ。
「大丈夫かっ?」
「は、はい、死ぬかと思いましたけど、なんとか無事です」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫、です……」
二人とも口ではそう言うが、疲労が表情に出ていた。
特にユキの消耗が激しい。
それもそのはずで、ここまでの連戦でその能力を何度も使ってきた。
今までにない戦闘の連続に、魔力だけでなく体力も限界に近いのだろう。
「二人とも無理はするな。後は俺とカイで何とかする。フィーアたちは二人を安全な場所まで連れて行ってくれ」
体力はユキの指輪の効果があるので少し休めば回復するだろう。
問題は魔力だ。
ユキとアイ、それとシーナ、レンの四人は戦闘中に能力を使っているため魔力を消費している。
疲労は少なからずあるだろう。
それにレベルの問題もある。
あのドラゴン相手に戦闘中どれだけフォローできるか分からない。
できればフィーアも戦闘に参加させたくなかった。
つまり、俺とカイの二人で戦わなければならないのだ。
「ユージ、私はまだ戦えます」
俺の考えが読まれていたらしく、シーナが不服そうに俺を見つめる。
「まあまあ、シーナさんの気持ちも分かるけど、今の僕たちじゃユージ君たちの足を引っ張るのが目に見てるからね。ここは大人しく二人に任せようよ」
「二人とも、無理したら駄目だからね」
「……死んだら怒ります」
みんな不満はありながらも俺の意図を酌んでくれたらしい。
だから、俺はそれに答える義務がある。
「ああ、絶対に無茶はしない」
「ただいつもどおり、モンスターを狩るだけだ」
その間に、ドラゴンは再び俺たちに向けて炎を放とうとしていた。
俺とカイはドラゴンに向かって駆けると、途中で左右に分かれてドラゴンの注意を自分たちへと向けさせる。
フィーアたちがこの場から離脱したのを確認すると、俺はドラゴンへと剣を振り抜く。
だが、ドラゴンの皮膚に阻まれて、僅かに切り傷を与えただけに終わった。
カイも同じくドラゴンに斬りかかるが、やはり一撃ではろくにダメージを与えられず、再びドラゴンから距離を取った。
「くそっ、固いな」
「ユージ、一撃で仕留めようとはせずに細かく連続でダメージを与えていくぞ」
「ああ、分かってる」
俺たちは再び左右からドラゴンへと斬りかかる。
頭、首、腕、翼、腹、背中、脚、尾。
様々な箇所を連続で切り裂く。
それぞれダメージは小さくとも全く効いていないわけではない。
少しずつドラゴンの体が傷ついていく。
「こうしてユージと共闘というのも久しぶりだな」
「確かに。大抵は一人で何とかなったからな」
俺とカイはあまり共闘したことがなかった。
それこそヤルンヴィド迷宮での戦闘以来かもしれない。
あれから随分と時間が経ったような気がする。
こんなときだというのに懐かしい気持ちになった。
すると、カイも俺と同じことを考えていたらしい。
「もう一度ヤルンヴィド迷宮に潜るのも良いかもな。今ならあのモンスターも倒せるだろう」
「そうだな……いつかみんなで、あの村に戻ってみるか」
それにレンとの約束も果たさなければならない。
そういう意味でもアースガルドへ向かう前に一度俺たちの故郷に戻るのは悪くない提案だ。
――その前にこのドラゴンの親玉を何とかしないといけないけどな。
俺はカイと一度、アイコンタクトを取ると、地面を蹴り、ドラゴンへ向かって駆けだした。
さらに能力を使い加速する。
スローモーションになった世界。
そこで俺は跳躍し、ドラゴンの頭部に着地する。
そして、剣を逆手に持つと、ドラゴンの片目に剣を突き刺した。
「ギャォォォォォォ!」
咆哮し、暴れるドラゴン。
俺は振り落とされる前に、自分から着地してドラゴンから距離を取った。
そこで入れ替わりにカイがドラゴンへと突っ込む。
しかし、ドラゴンは片目でカイの姿を認識すると、カイの方へ首を向け、大きく口を開けた。
そして次の瞬間、炎を吐き出した。
「むっ」
灼熱の炎が真っ直ぐカイへと迫る。
だが、炎はカイの目の前で反射し、そのままドラゴンを炎が包んだ。
炎上するドラゴン。
苦しげに鳴き声を上げていた。
これがカイの能力、能力の反射だ。
ドラゴンの炎や以前使ったアイテムによる雷撃のような、能力の類は全て跳ね返す。
打撃や刃物のような物理的な攻撃でしかカイは倒せない。
カイはそのまま突撃した勢いを殺さずに炎の中を突っ込むと、ドラゴンのもう一つの目に刀を突き刺した。
さらに暴れるドラゴンから離れる前に、片方の翼も素早く切断した。
事前に何度も翼の同じ個所を斬り付けることで表面の皮膚を削り、切断しやすくしていた部分だ。
「ユージ!」
カイと入れ替わり、今度は俺が真っ直ぐ突っ込むと、ドラゴンの大きく開いた口に向かって思い切り剣を振り抜いた。
俺の剣がドラゴンの口から胴体にかけて、ばっさりと真っ二つに切り裂く。
切り裂かれたドラゴンは最後に大きな断末魔を上げて地面に倒れた。
「……終わったか」
「ああ」
倒れたドラゴンは今まで倒したモンスターと同じように粒子となって消えた。 持っていた剣を背中に戻し、ドラゴンの死骸の代わりにその場に残った金とアイテムを回収する。
そこで離れて様子を窺っていたフィーアたちも駆け足でやってきた。
「二人とも大丈夫だったっ?」
「さすがだね。君たち二人に勝てる相手なんているのかい?」
「お二人ともかっこよかったです! 感動しました!」
「ま、まだ心臓がドキドキしてます……」
「ユージ、無事でよかったです」
「って、おい、シーナっ? いきなり抱き付くな」
「まったく、勝利の余韻も何もないな」
戦闘を終え、みんなで勝利と無事を喜ぶ。
とにかく誰も失うことなくドラゴンを討伐することができてよかった。
後は街の外にいるギーシュさんたちが気がかりだ。
まだドラゴンと戦っているのなら加勢しなければ。
そんなことを考えていると、ちょうどそのとき俺たちを呼ぶ声がした。
「おーい、君たち、無事か?」
討伐隊の兵士たちを引き連れたギーシュさんだ。
どうやら向こうも終わったらしい。
「はい、ドラゴンのボスも倒しました」
「ああ、そうみたいだな。こっちもなんとかドラゴンを全滅させることができた」
それを聞いて俺も安堵する。
良かった。
負傷した兵士もいるようだが、俺たちの大勝利と言っていい結果だった。
「ありがとう、君たちのおかげで街も元通り平和になるだろう」
「いえ、俺たちだけじゃなくて討伐隊みんなで勝ち取った平和ですよ」
「はは、謙遜しなくても良いよ。とりあえず街に戻って町長に報告しよう。君たちの活躍もちゃんと伝える。きっと褒美をもらえるはずだ」
褒美か。
別にお礼を期待していたわけではないが少し興味はあるな。
それからギーシュさんたちと一緒に生き残りのドラゴンが残っていないか滅びた街の中を一通り確認した後、俺たちは街へと戻った。




