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第十四話 団結、そして進撃

 そして次の日、早朝から俺たちはドラゴン退治をするために街の出入り口である門の前に集まっていた。

 俺たちの他にも討伐隊として集まった大勢の人たちがそこにいて、門の前は大変混雑していた。


「凄い数ですね」

「それだけ今の状況に危機感を覚えている者が多いんだろうな」


 目を丸くするフィーアにカイが淡々と答える。

 討伐隊には元から街で務めている兵士だけでなく民間の志願兵もいる。

 これだけの人がドラゴン退治に集まったということは今回の討伐の本気度と深刻さをみな理解しているのだろう。


「やあ、君たちが例の救世主かい?」


 俺たちは固まってその人だかりを眺めていると、そこにエルフの男性が声を掛けてきた。


「俺はギーシュ。今回の討伐隊のリーダーをさせてもらう。よろしく」

「はい、よろしくお願いします!」


 真っ先にアイがびしっと敬礼をしながら元気よく挨拶を返す。

 俺は苦笑しつつ、ギーシュさんに自分の名前を名乗った。


「それにしても随分集まりましたね。これだけ集まれば心強いです」

「ああ、だが素人が武器を持って勝てるほどドラゴン退治は甘くない。彼らには主に部隊の後方支援を担当してもらう。主戦力としては君たちが頼りだ」

「俺たちみたいな部外者に頼ってしまっても良いんですか?」

「それだけ事態は切迫してるってことさ。とにかく頼りにしているよ」


 ギーシュさんは俺の肩をポンポンと叩くと、俺たちから離れていった。

 俺はその行き先を目で追うと、そこでギーシュさんは門の前に行き、あらかじめそこに作られた舞台の上に立つ。

 そして全体に向けて大きな声を発した。


「諸君、今日はよく集まってくれた――」


 ギーシュさんの声に集まっていた人たちの声が止む。

 全員が壇上を見た。


「俺が今回の討伐隊のリーダーを務めるギーシュだ。諸君らがここ集まってくれたことを本当に感謝する」


 ギーシュさんは俺たちに言ったのと同じように自分の紹介をする。

 だが、俺たちと話したときのようなさわやかな微笑はそこにはなく、毅然とした態度とはっきりとした口調が印象的だった。

 体の芯に響いてくるようなそれは、俺たちに戦闘前の緊張感を伝播させる。

 この場にいた全員がギーシュさんの発する言葉を集中して聞いていた。


「俺はこの街が好きだ。自然と科学、人とエルフが互いに共存し、活気に溢れているこの街が俺は好きだ。だが、ドラゴンが現れてからの暮らしはどうだ? ドラゴンに怯え、街にいる時もドラゴンの襲撃に備える日々。そして先日、ついに恐れていた事態が起きてしまった。街は破壊され、多くの被害が出た。この中には家族や恋人を失った者もいるだろう。諸君、このままで良いのか? ドラゴンに好き勝手されて良いのか? ……いや、許せるはずがない! だったら戦うんだ! 武器を持て! 奴らを殲滅しろ! 俺たちがこの街の平和を取り戻すんだ!」


 右手を上げたギーシュさんに周囲にいた人々も呼応し、大声でそれに賛同する。

 そして次第にその声は広がっていき、ついには割れんばかりの大合唱となった。

 俺も思わず気持ちが高揚するのを感じる。

 ギーシュさんの言葉によって、皆の気持ちが一つになっていることを俺は実感していた。


――


 そして俺たちは隊列を組み、現在ドラゴンが住んでいるという荒れ果てた街へと向かった。

 見渡す限り草原が続く平坦な道のりを進む。

 俺たちは隊列の先頭付近を歩いていた。

 ドラゴンと遭遇すれば真っ先に戦わなければならないポジション。

 余所者の俺たちにここを任せるということは、ギーシュさんの言っていたとおり、俺たちは期待されていることが分かる。

 俺もできればそれに答えたい。


「それにしても、どれくらいのドラゴンがいるのかな?」

「街に現れたドラゴンもそれなりに数がいたと思うんだけどね。あれ以上の数がいると考えると、気が滅入るよ」


 レンはそうフィーアに言うと、やれやれと首を振る。


「うう、そこらへんから急に襲ってきたりしないですよね……」


 アイはキョロキョロと警戒しながら周囲を見渡していた。


「アイは心配性だな。ここなら仮に襲ってきてもすぐに分かる。奇襲の心配は殆ど無視して良いだろう」

「カイ君の言うとおりだよ。心配なのは大量のドラゴンが一斉に襲ってくることだけど、この人数で押し負けることはまずあり得ない。それに、もし対処できないほどのドラゴンが来たとしても――」

「私たちが全て倒します」


 レンの言葉に淡々とシーナが続ける。

 たいした自信だが、実際、俺たちが何とかできないようならこの部隊は全滅するだろう。

 できるかどうかではなくやるしかないのだ。

 俺がそんな決意をしていると、さり気なくユキが俺の隣に並び、俺の服の裾を指先で控えめに摘まんだ。


「どうした、ユキ?」

「……実は、私も少し怖いんです……ドラゴンたちは今まで見てきた魔物の中でも圧倒的にレベルが高いです。だからでしょうか、街で見たドラゴンを思い出すと体が震えるんです。ここから逃げてしまいたい、今でもちょっと思ってます……それでもここにいられるのは、ユージさんたちが一緒にいるからなんです」


 ぽつりぽつりと紡がれるユキの告白。

 俺はそれを黙って聞いていた。


「だからユージさん、私に勇気をください」


 ユキは下を向いたまま俺と視線を合わせずにそう言った。

 しかし、裾を掴んだ指は決して離さなかった。

 ユキの能力は補助に特化しているが、逆にいえば一人で戦うには少々頼りない。

 単独でドラゴンに襲われたら身を守るすべがないのだ。


「ユキ、大丈夫だ。何があっても俺がユキを守る」

「はい……ありがとうございます」


 俺がそう言うと、ユキも俺を見て小さく微笑んだ。

 俺がユキを守らねばならない。

 それだけじゃない。

 ここにいるみんなを守る。

 俺は心の中でそう誓った。


「……なんだか二人とも、距離が近いです」


 その声で俺ははっとする。

 すると気付けばシーナがジト目で俺たちを見つめていた。


「確かに前よりも随分仲良くなってない?」


 レンも心なしか冷ややかな表情で俺たちに言った。

 そんなつもりはなかったのだが、二人ともじっと目を細めて俺たちを睨む。

 俺はユキと付き合ったことをまだ誰にも話していなかった。

 ドラゴンの襲撃後みんなピリピリとしており、とても言い出せるような雰囲気ではなかったためだ。

 言わないといけないとは分かっているのだが未だにタイミングを掴めないでいた。


「まあ、ユージくんが誰にでも優しいのはいつものことだしね」


 すると、苦笑を浮かべたフィーアが何か諦めたような口調で言った。

 すると、レンたちも口々に「確かに」と呟く。

 変な納得をされてしまった。

 しかしフィーアのおかげでグダグダな流れになり、そのまま俺たちのことは有耶無耶になったので結果的には助かった。

 まだ心の準備ができていない。

 その間にユキは恥ずかしそうに俯いて俺から離れていた。

 俺もほっとしていると今度はフィーアが俺の側に寄ってきた。


「あとで報告、聞かせてね」


 耳元でフィーアが囁く。

 全てお見通しらしい。

 フィーアはそのまま笑顔で俺から離れていく。

 俺は呆気に取られてその後ろ姿を見つめた。

 しかし、そこで俺の思考は打ち切られる。

 ドラゴンの住処となっている街が目と鼻の先まで迫っていたからだ。

 兵士たちのピリピリと緊張した空気が俺たちにも伝わってくる。

 そして、俺たちの耳にドラゴンの咆哮が聞こえた。


「来るぞ!」


 背後で兵士の誰かが叫ぶ。

 街からドラゴンの群れが俺たちに向かって一斉に飛んでくる。

 俺たちは武器を構えて、ドラゴンを迎撃する準備を備えた。


「撃て! 撃て!」


 そして戦闘が開始された。

 主にエルフたちで構成された弓兵がドラゴンに向けて弓をどんどん放つ。

 しかしドラゴンは弓の雨をものともせずに進み続ける。

 そして、空中を自由に飛び回るドラゴンは隊列を組む俺たちを嘲笑うかのように、上空から部隊の陣形の中へと勢いよく下降を始めた。

 陣形が崩れ始める。

 兵士たちはドラゴンに翻弄されていた。

 だが、このままやられるわけにはいかない。

 俺はドラゴンの一匹に照準を合わせる。


【ドラゴン1】レベル102


 大勢いるドラゴンの中の一匹でこのレベルだ。

 軽く絶望感を覚える。

 ドラゴンは俺に向かってその鋭い爪を振り下ろした。

 ――だが、決して倒せないわけではない。


「ふっ!」


 俺は一つ息を吐くと、ドラゴンが振り下ろした爪の軌道を見切り、両手で握った剣を顔の前に出して受け止める。

 そして、力任せに弾くと、今度は剣を横に薙いでドラゴンを切り裂いた。


「ギャアォォォォ!」


 その一撃は致命傷とはならなかったが、ドラゴンが怯んだ。

 そこをすかさず追撃し、ドラゴンの腹部を貫く。

 そして躊躇いなく引き抜いた。

 血が噴き出す。まずは一匹倒した。


「みんな、大丈夫か!」

「ああ、問題ない。いつもどおりだ」


 俺が周囲を確認すると、カイが頷いた。

 すでに数匹のドラゴンが地面に倒れていた。


 確かにドラゴンは強い。

 だが、俺たち『スクウェイダー』の面々も負けていない。

 俺たちはここに来るまでそれだけの経験をしてきた。

 だからきっと何とかなる。


【ユージ】レベル167 剣スキルA

 体力:6,850 魔力:5,264 筋力:7,100 耐久:6,120 敏捷:7,300

 装備:騎士の剣『剣スキルC以上で使用可能』『筋力が100上昇』『敏捷が100上昇』『獲得経験値が2倍に上昇』、勝利の鎧『体力が500上昇』『魔力が100上昇』『筋力が200上昇』『耐久が1,000上昇』『敏捷が300上昇』『高速自然回復能力付加』『状態異常無効』、運動靴『敏捷が200上昇』冒険者のお守り『全ステータスが50%上昇』、指揮官の指輪『仲間のステータスが2%上昇』


【カイ】レベル153 刀スキルA

 体力:4,720 魔力:3,468 筋力:4,900 耐久:4,840 敏捷:6,400

 装備:伝説のヴェルンド『刀スキルA以上で使用可能』『筋力が1,000上昇』『敏捷が1,000上昇』『即死効果』、高級ブランドスーツ『体力が500上昇』『耐久が1,00上昇』『敏捷が200上昇』『高速自然回復能力付加』、韋駄天ブーツ『敏捷が1,000上昇』、金の首飾り『魔力が100上昇』『獲得金額上昇』、祝福の指輪『受けたダメージを半減する』


【シーナ】レベル98 鎌スキルA

 体力:4,100 魔力:2,910 筋力:3,200 耐久:2,465 敏捷:5,790

 装備:鋼の大鎌『鎌スキルB以上で使用可能』『筋力が500上昇』『敏捷が300上昇』『与えたダメージ分所有者回復』、白いワンピース『体力が50上昇』『耐久が50上昇』『魔力が100上昇』、死神のブーツ『体力が100上昇』『敏捷が500上昇』、加速の指輪『敏捷が200上昇』


【レン】レベル72 短刀スキルB

 体力:3,140 魔力:2,970 筋力:2,740 耐久:1,900 敏捷:2,300

 装備:アサシンダガー『短刀スキルB以上で使用可能』『筋力が300上昇』『敏捷が500上昇』『マヒ効果』、シルクのローブ『体力が300上昇』、『魔力が500上昇』、『耐久が300上昇』、レザーブーツ『敏捷が100上昇』、破壊の指輪『筋力が200上昇』


【アイ】レベル59 素手

 体力:950 魔力:860 筋力:520 耐久:1,020 敏捷:710

 装備:精霊の羽衣『魔力が100上昇』、『耐久が300上昇』、清楚なサンダル『敏捷が100上昇』、魔女の腕輪『受けたダメージ分味方一人を回復』


【フィーア】レベル51 弓スキルC

 体力:780 魔力:620 筋力:560 耐久:965 敏捷:760

 装備:エルフの弓『筋力が100上昇』『耐久が50上昇』、天使の鎧『体力が100上昇』『耐久が300上昇』『敏捷が100上昇』、天使の履物『魔力が100上昇』『敏捷が500上昇』、天使のお守り『耐久が100上昇』『状態異常無効』


【ユキ】レベル37 素手

 体力:630 魔力:690 筋力:430 耐久:580 敏捷:640

 装備:シルクのローブ『体力が300上昇』、『魔力が500上昇』、『耐久が300上昇』、皮のブーツ『耐久が50上昇』『敏捷が50上昇』、女神の首飾り『パーティ全員の獲得経験値が30%上昇』、女神の指輪『パーティ全員の被ダメージ自動回復』


 遠くでドラゴンの鳴き声が聞こえた。

 見るとシーナがドラゴンの首を大鎌で切断したところだった。


「……ドラゴンもたいしたことないですね」


 シーナは涼しい表情で次のドラゴンへと鎌を振る。

 ドラゴンの攻撃は全て余裕でかわし、相手に全く付け入る隙を与えなかった。

 この分だとシーナは一人でも大丈夫そうだ。

 襲ってくるドラゴンを倒しつつ、他の場所へ視線を移すと、今度は情けない悲鳴が聞こえてきた。


「ひゃっ? や、やめてください~」


 その声の主はアイだった。

 どうやらドラゴンに襲われているらしい。

 アイはドラゴンに向けて両手を出して結界を張っている。

 結界によってドラゴンの爪を防いでいた。

 ドラゴンは何度もアイへと攻撃を加えようとするが、その半透明の壁によって弾かれた。


【ドラゴン2】レベル98


 だが、ドラゴンの猛攻に徐々に結界に亀裂が入り始める。

 僅かだがレベルの差が出始めていた。


「隙だらけだ」


 俺はアイを襲っていたドラゴンを横から剣で斬り付ける。

 一撃でそれを倒すと、それから俺はドラゴンが飛び回る空に向かって指をさした。


「アイ、空中に箱型の結界を連続で張ってくれ」

「え? は、はい!」


 俺の考えをアイも理解したらしく、すぐに空中に四面体の結界を発生させる。

 アイが空間にいくつも発生させた結界の上を、階段を上るように駆け上がり、ついに上空にいたドラゴンまで到達する。

 俺が剣を振り下ろすと、翼を斬られたドラゴンは地面に墜落し息絶えた。


「す、凄いです! ユージさん凄いです!」


 アイが目を輝かせて喜ぶが、今はそれに答えている余裕はない。

 それにしても、アイも咄嗟によく俺の考えを理解してくれた。

 たまに抜けているがアイは決して頭が悪いわけではない。


「まったく、どれだけ湧いてくるんだこいつら?」

「でもユージ君からしたら、良い経験値稼ぎになったんじゃない?」


 俺が着地した場所の近くにいたレンが苦笑する。

 レンもちょうどドラゴンの一体を倒したところだったらしい。

 無数のナイフがドラゴンの体を串刺しにしていた。


「まあ、な。別に経験値稼ぎのために戦ってるわけじゃないぞ?」

「はは、冗談だよ。とにかく、この場はなんとかなったかな?」


 レンは周囲を見渡してほっと息を付く。

 見たところ戦況は終盤に差し掛かっていた。

 何匹かのドラゴンが空から落ちてくる。

 どれも体を矢で貫かれていた。

 エルフたちの弓だ。

 同様にフィーアも兵士に加勢して弓を放っていた。

 見ると先ほどはあまり効果のなかった弓が効いているように思える。


「皆さん、あと少しです! 持ちこたえましょう!」


 それもそのはずで、ユキが自分の能力を使ってエルフの兵士たちの力を強化していた。

 ユキの能力は味方の人数が多ければ多いほど絶大な効果を発揮する。

 その強化量はユキの魔力に依存するが、一人の能力を大幅にアップさせたり大勢を少しずつアップさせたりできるうえ、筋力の他に耐久や敏捷の上昇、さらには体力強化を利用した治癒とその能力の応用性は高い。

 何よりユキの成長が俺は嬉しかった。


「おーい、君たち!」


 すると、後方にいたギーシュさんがいつの間にか俺たち前衛のところまでやってきた。

 もっとも、今の乱戦によってもはや陣形など意味をなさなくなっていたのだが。

 ギーシュさんも見たところ怪我はどこもしていないようだった。


「ここは俺たちが後始末を付ける。君たちは街の中に入って奴らの親玉を倒してくれ」

「でも大丈夫ですか?」


 いくら数が減ったとはいえ、まだドラゴンは残っている。


「君たちにばかり良い恰好はさせられないよ。たまには大人らしくかっこいいところを見せてやるさ」


 ギーシュさんはにやりと笑うと、手に持っていた弓を俺に見せた。

 俺は頷く。


「分かりました。どうかご無事で」

「お互いにな」


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