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第十一話 それぞれの想いと決意

 俺とユキは肩を並べて、街の中を散策する。

 特に行き先があるわけではなく、ぶらぶらと気ままに歩いていた。


 その途中、街の中を流れる大きな川があった。

 その川を挟むように作られた堤防には美しい花を咲かせた木々が立ち並ぶ。

 その並木道を歩く俺たち。

 さわさわと柔らかな風が吹き、花びらがひらひらと木から落下する。

 その一枚がユキの頭に乗っかったので、俺は指で摘まんで取ってやる。


 それから俺たちは川に掛かった橋の上から水面を見下ろす。

 水は穏やかに流れており、川の底が見えるくらい透き通っていた。

 じっと見ているとばしゃりと水面に魚が跳ねた。


「ここは水も綺麗なんだな」

「そうですね」

「……」

「……」


 会話が続かない。

 ユキのことを意識すると、頭が真っ白になった。

 二人きりになることはこれまでも何度かあったが、たまにこんな形容しがたい雰囲気になることがある。

 不思議な気分だ。

 こういうときは何度か会話を交わしてもすぐに終わってしまう。

 だが、その沈黙は決して嫌なものではない。

 むしろ心地よいとさえ思う。

 そうして橋の上でしばらく立ち止まって川の流れを見ていると、ユキがちらりと俺の方を見た。


「ユージさん、私と最初に会ったときのことを覚えていますか?」

「ああ、俺が山賊に襲われていた馬車を助けたのがきっかけだったな」

「私はユージさんに救われました。ユージさんには本当に感謝しています」

「別にたいしたことはしてないよ。ただ、ユキが無事で良かった」


 俺がそう言うと、ユキは首を振った。


「ユージさんは私を山賊から助けてくれただけではありません。私に生きる意味をくれました。ユージさんと一緒にいたい。そして人の優しさを信じたい。それが私のやりたいこと、生きる意味になったんです。だから、ユージさんに会えて良かった」


 その優しい笑顔に、俺は照れくさくなりユキから視線を逸らす。

 俺はそれを誤魔化すようにユキに尋ねた。


「……どうだった? 世の中そんなに悪い人間ばかりでもないだろ?」

「はい、皆さんとてもいい人たちばかりでした。私には勿体ないくらいです」

「……そうか、それは良かった」


 そしてどちらともなく、俺たちはまた歩き出す。

 ちらちらとユキの視線が下の方を向く。

 何度か手と手が触れそうになり、そしてまた離れる。

 それを何度か繰り返す。

 俺だけでなく、ユキも意識しているのが伝わってきた。


「……手、繋いでも良いか?」

「……はい」


 ユキの温もりが俺に伝わる。

 心臓が高鳴る。

 胸が苦しい。

 それはきっと、俺がユキのことを異性として好きだからなのだろう。

 そしてユキも。

 それはこれまでの言葉の節々で伝わってきた。

 俺はこれまで、ユキのその好意を気のせいではないかと目を逸らしていた。


「……私、こんなに幸せで良いんでしょうか?」


 ぽつりとユキは呟く。


「たまに、私は夢を見ているんじゃないかと思うんです。ある日突然目が覚めて、今までのことは全て私が見ていた夢だったと分かる。そして現実の私はやっぱり一人ぼっちだった……そんな風にどうしようもなく怖くなることがあるんです」

「それは考えすぎだ。俺はここにいる。この手も、ちゃんと体温を感じるだろ?」

「……はい」


 俺は握っていたユキの手を少し強く握る。

 すると、ユキも握り返してきた。


 どれくらい歩いただろうか。

 俺たちは土とレンガで作られた建物が密集する住宅地と思われる場所に出た。

 家と家の間にできた脇道が迷路のようになっている。

 ここの住人たちはあまり外を出歩かないのか、段々とすれ違う人々の数が減ってきていた。

 そして何となく、俺たちは意識してそういう場所を目指していたような気がする。

 誰にも邪魔されない、俺たちだけの世界。

 そういう場所を俺たちは求めていたのかもしれない。


「静かですね。まるでここには私たちの他に誰もいないみたい……」

「ああ、静かだな」


 まるで俺たち以外の時間が止まっているようだ。

 できることなら、本当に時間が止まってほしいと思った。

 この時間がずっと続けばいいのに。


「……あの、ユージさん……ちょっと良いですか?」

「なんだ?」

「ユージさんに、伝えておきたいことがあるんです」


 そこで俺たちは立ち止まる。

 ユキと視線が交わる。

 ユキのいつになく真剣な眼差しにつられ、俺も表情が引き締まった。

 そして、ぎゅっと両手の拳を握りしめてユキはようやく口を開いた。


「私は――ユージさんのことが好きです」


 ユキは唇を震わせながら、それでも俺から決して視線を外さずに続ける。


「初めて出会ったときからずっとこの気持ちは変わりません。ユージさんのことが好きで好きでどうしようもないんです。こんな私ですが、あなたの恋人にさせていただけませんか?」


 ユキは俺の答えをじっと待つ。

 その瞳は潤んでおり、顔は真っ赤に上気していた。

 その言葉に驚きはなかった。

 覚悟していたとはいえこれほど冷静な自分に驚いたくらいだ。

 ユキは俺に好きだと言った。

 誤魔化しようのない真っ直ぐな好意の告白。

 これまでみんなが意識的に避けていた言葉を、ユキははっきりと口にした。


 思い浮かぶ色々な人の顔。

 レンの告白。

 シーナの誘惑。

 フィーアとのキス。

 俺はこれまで相手の明確な好意を知りながら、その気持ちに答えを出さずにいた。

 逃げていたのだ。

 だけど、それでは駄目なのだ。

 ユキも勇気を出して告白してくれたのに俺が逃げてどうする。

 いつかは前に進まないといけない。

 それが今なのだ。


「俺も、ユキのことが好きだ」


 だから俺も自分の正直な気持ちを口にする。

 もう逃げない。

 俺は俺のやり方で、ユキの気持ちに答えようと決めたのだ。


「だけど、俺は一人を選ぶことはできない。ユキはとても大切な女の子だ。でも、ユキの他にも大切な人がいる。俺はその子たちの好意にも答えたい。俺はそんな駄目でどうしようもない男だ。そんな俺を、ユキは一人の男としてこれからも好きでいてくれるか?」


 これまでずっと悩んで、そして結局俺が行き着いた答えはこれだった。

 誰か一人だけを選ぶことなんてできない。

 俺はフィーアたちのこともユキと同じくらい愛している。

 だから、その全ての気持ちを受け入れて、それに全て応える。


「はい、私はユージさんが好きなんです。この気持ちはどんなことがあっても変わりません」


 ユキは泣きそうな表情を浮かべながら、それでも口元を綻ばせて笑った。

 安堵と喜びと慈愛と、様々な感情が混じった表情。

 そこに拒絶はなかった。

 俺は冷静だと思ったが、どうやらそれは勘違いだったらしい。

 ユキへの思いが次々と溢れてくる。

 ユキが愛しい。

 気付けば俺はユキを抱きしめていた。

 そして口づけを交わす。


「ユキ、好きだ」

「ユージさん……私も好きです」


 一度だけでなく何度も何度も口づけをする。

 ユキの口の中へ舌を入れた。

 そしてユキの舌へ自分の舌を絡ませる。

 ユキも最初は受け身だったが徐々に激しく自分から舌を動かす。

 唾液が交わりどちらのものかもう分からない。

 俺たちは夢中になってその行為を続けた。

 しばらく口づけを交わし続けた後、離れて見つめ合った俺たちは自然と微笑む。

 とても幸福で満たされていた。


 こうして俺に正式な恋人ができた。

 もう後戻りはできない。

 俺はどんなことがあってもユキやみんなを幸せにする。

 しなければならない。

 そのためならどんな努力もするだろう。

 俺は心の中でそれを固く誓った。



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