第十話 花舞う街でユキと二人
あの後、魔女騒ぎを解決した俺たちは、長老に教えてもらった街へと足を運んだ。
アイもそのまま俺たちに付いてくることにしたらしい。
あのまま村にいても居心地が悪いだろうし、なによりお金がないらしく、俺たちも見捨てていくのは忍びなかった。
木で作られた簡易な門を潜ると、俺たちは街に一歩足を踏み入れる。
そこは先ほどの村よりも人が多く活気もあったが、イェロヴェリルのような華やかな商業都市と違い、自然と街が融和していた。
街の至る所に樹木が生えており、建物の壁には無数のツルが絡み付いている。
山を切り開いて作った街なのだろうか。
坂道や階段がとても多い。
その光景はどこかノスタルジックで味わいがあった。
「わあっ、凄く急な階段ですね! 首が疲れそうです」
アイは子どものような無邪気さで、キョロキョロとせわしなく周囲を見渡す。
「あ、あのお店、クレープを売ってますよ。おいしそー」
それにしてもあまりの落ち着きのなさに俺は苦笑する。
「アイ、あんまり騒ぐと周りの人に迷惑だろ」
「ふふ、アイさんは元気ですね」
俺の隣を歩いていたユキも微笑を浮かべながら優しい瞳でアイの行動を見守る。
まるで保護者だ。
ちなみにアイは俺たちと同い年である。
俺たちというのはここにいる全員だ。
全員同じ年齢であるとは凄い偶然もあったものである。
「元気というか能天気だな」
カイは呆れるように首を振って言った。
するとそれを聞いたレンがくすりと微笑する。
「まあまあ。明るいのは良いことじゃないかな。アイを見てると僕もなんだか元気が出る気がするよ」
そんなこんなで俺たちは街の中を見物しながら歩いていた。
するとそこで、なにやら前方が騒がしいことに気付いた。
あそこは俺たちが入ったところとは別の門がある場所だ。
そこからすぐの通りに多くの人々が集まっている。
気になった俺たちは群衆の近くまで行ってその騒ぎの元を確かめる。
群衆の隙間から眺めると、どうやらどこかの戦場から兵士が帰還したところらしかった。
隊列を組んでぞろぞろと歩いていく。
その列の中間ほどにいるリヤカーの中には負傷した兵士が数名いた。
よほど大規模な戦闘だったのだろう。
外のモンスターを狩るために政府の軍隊やギルドが遠征するのは珍しいことではない。
俺たちがクエストで魔物を狩るのも同じようなものだ。
「どこかでモンスターの大量発生でもあったのかな?」
「ちょっと聞いてみるか」
カイが近くにいた見物人のエルフに声を掛ける。
するとエルフの男性は俺たちに言った。
「ああ、この街からそう遠くないところにドラゴンの住処があるんだが、そのドラゴン退治に町長が討伐隊を編成して派遣したんだ。だけど、やはり失敗したらしい……」
「そのドラゴンはそんなに強いんですか?」
「奴らは集団で群れを作って暮らしているんだ。この先に昔、街があったんだが、ドラゴンに全滅させられた。それからは奴らがそこに住むようになって、この街にも被害が及ぶようになった。今は何とかみんなの力で追っ払っているけど、奴らがその気になって集団で襲ってきたら大変なことになる」
エルフの男性は顔をしかめる。
「だから先に打って出たってわけか」
「ああ、報酬目当ての傭兵も多数参加していたんだが駄目だった。これじゃあ次の派遣は当分先だろうな。はぁ、奴らを倒すことができる英雄はいないんだろうか……」
エルフの男性が去った後、俺たちは今の話について検討することにした。
そこで英雄という単語にさっそく一人反応した奴がいた。
「面白い。俺たちでドラゴン退治をしようじゃないか」
「カイ、最近ちょっと戦闘続きじゃないか? 何もそこまで頑張らなくても、少しは休んだらどうだ?」
俺は案の定やる気満々のカイに一応釘を刺しておく。
しかしカイは首を振った。
「目の前で困っている者たちがいるというのに見捨てるわけにはいかないな」
そう返されるのも分かっていた。その隣ではシーナも戦いたそうな目で俺を見ている。
「ユージ、どうしますか?」
「……仕方ないな。やっぱりこうなるか」
俺もドラゴン退治には興味がある。
強いモンスターと戦ってみたい。
それが街の人たちのためになるならなおさらだ。
つまり結局のところ最初から答えは決まっていた。
「ドラゴンですかー。ちょっと怖いですけど私も頑張ります!」
「え、アイも付いてくるのか?」
「当然です! 今さら仲間外れにしないでください!」
アイはむっと不満げに頬を膨らませる。
アイもそれなりに強いのは分かっているのだが、普段の印象からどうしても不安に思ってしてしまう。
「フィーアとユキも大丈夫か? 無理しなくても良いぞ?」
「大丈夫。駄目と言われても付いて行くよ」
「私も一緒に行きます」
二人とも迷うことなく頷く。
「はは、これで全員の意見が一致したね。ユージ君はちょっと過保護過ぎるかな」
「仕方ないだろ。けど、みんな無茶だけはするなよ」
結局全員でドラゴン退治に参加することになった。
これもまた不本意ではあるが予想通りの結果といえる。
だが、今回のドラゴン退治について俺は懸念していることがある。
先程の兵士たちのレベルを見たところ、彼らも決して弱くはなかった。
その兵士たちでも歯が立たなかったのだからこちらも一筋縄ではいかないだろう。
カイたちもそれは分かっているはずなのでそれ以上止めるつもりはないが、念のため注意だけはしておいた。
あとはなるようになれだ。
俺は一人、心の中で気合を入れた。
――
ドラゴン退治をすることに決めた俺たちだが、いきなり巣に乗り込むことはしなかった。
急いでも仕方ないし体力を回復させて万全の状態で挑みたいという俺の希望が通り、一日だけ休息を取ることになったのだ。
俺は気分転換に街を散策する。
それにしても不思議な街だ。
自然物と人工物が絶妙に絡み合い共存している。
その景観は見ていて美しいとさえ思う。
一人で景色を眺めながら、ゆっくりとなだらかな坂道を歩いていると、そこで前方に見知った女の子がいた。
向こうも俺に気が付いて立ち止まる。
「あれ、ユージさん?」
俺が側まで近づくと、ユキが驚いた顔で言った。
「あれ、ユキも散歩か?」
「はい。この街は静かでとても落ち着きますから」
ユキはふわりと優しく微笑む。
確かにここは空気も景色も綺麗だ。
田舎の村に住んでいた俺でさえそう思う。
思うにアルフヘイム全体がそういった風土の国なのだろう。
「あの、ユージさんも散歩中、なんですよね?」
「ああ、そうだけど」
「そ、それなら一緒に街を回りませんかっ?」
「え?」
「駄目ですか?」
ユキは不安げな顔で俺を見つめる。
瞳が潤み、なぜか顔が赤い。
俺は動揺を隠しつつ、なるべくクールな口調を心掛けて言った。
「ぜ、全然駄目じゃないけど……」
しかし失敗した。
可愛すぎるユキが悪いのだ。
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
「いや、お礼を言うようなことじゃないだろ。ユキとならいつでも一緒に散歩して良いし、むしろ俺の方こそユキと散歩できて嬉しいし」
「あ、ありがとうございます……」
ユキは恥ずかしそうに俯く。
言った俺も恥ずかしくなってユキから視線を逸らした。
こういうのは俺の柄じゃないな。
「ほら、さっさと行こうぜ」
半ばやけくそになって歩き出す。
ユキも俺の隣に並んで一緒に歩き出した。




