第九話 意外な真相
とりあえずアイも含めた7人で俺たちは森のさらに奥へと進むことになった。
その道中に詳しく話を聞くと、アイがこの村に来たのはほんの三日前の話らしい。
それならここに住んでいて魔女の存在をしらないのも納得だ。
途中でアイが木の根っこに引っかかって転倒するなどハプニングはありながらも、俺たちは森の最深部と思われる場所に辿り着いた。
「……誰もいないですね。留守でしょうか?」
ユキの言うとおりそこには誰の姿もなかった。
大きな祠のような建物はあるのだが、そこに魔女がいる気配はない。
思わず拍子抜けしてしまう。
「そんなことがあるのか?」
俺は祠の中を覗き込む。
最近まで誰かが住んでいたような形跡はあるのだが今はもぬけの殻だった。
いや、魔女だって生きていれば食事もするし、気分転換も必要だろう。
今はたまたま外出しているだけかもしれない。
そういうわけで一応少し待ってみたが、魔女は姿を見せなかった。
一応祠の周辺も探してみるが周囲は静まり返っており生き物の気配もない。
結局いくら探しても魔女は見つからなかった。
「仕方ない。村に戻って報告するか」
釈然としないまま俺たちは村へと引き返し、顛末を報告するために長老宅へと向かう。
ついでにアイも俺たちと一緒に付いてきた。
全く警戒心がないみたいだが、知らない人に付いて行っちゃ駄目だと教わらなかったのだろうか。
「おお、皆さんご無事で何よりです」
「おかえりー」
長老宅に戻ると、出迎えてくれた長老が俺たちを労う。
ミストや長老の息子たちも一緒に出迎えてくれた。
「へー、なんだか偉い人の家って感じですねー」
さっきからキョロキョロと落ち着きのないアイが玄関に飾ってある壺をぽけーと観察しながら呑気にそんな感想を告げた。
間違ってはいないがその感想はどうかと思う。
そこで長老の息子がアイの存在に気付くと、その途端にアイを指差して叫んだ。
「ど、ど、どうしてここに彼女がっ?」
「へ?」
アイはぽかんとした顔をしていた。
「あの、この子がどうかしましたか?」
「それはこっちの台詞です! どうしてここに魔女がいるんですか!」
その言葉の意味を俺はすぐに理解することができなかった。
彼はアイを指差して魔女だと言った。
つまりアイが魔女だと言っているのか?
確かに綺麗な女性という条件にも合致しているように思えるが、そんなバカな。
「え? どういうことですか?」
「アイちゃんが魔女?」
ユキたちも困惑してお互いに顔を見合わせる。
「え? へ? 魔女?」
しかし当のアイ本人も困惑した表情を浮かべて、周囲をキョロキョロと見渡す。
かなり挙動不審だ。
この様子からはとてもアイが魔女だなんて信じられなかった。
それは他のみんなも同じらしく、フィーアが俺たちの疑問を代表して尋ねる。
「あのー、何かの間違いじゃ……」
「いや、間違いないです! 彼女が村の畑にあった食料を勝手に盗んで食べているところを私は目撃しました! その後、一緒に追いかけた者は不思議な力で弾き飛ばされたんです!」
彼が嘘を言っているようにはとても思えなかった。
確信があるらしく人違いの可能性も薄いように思える。
信じたくはないがやはりアイが魔女なのか?
「アイ、それは本当なのか?」
どういうことかとアイを見る。
一斉に視線が集まったことでアイは一瞬狼狽えると、見る見るうちに青い顔になった。
そして今にも泣きそうな表情を浮かべた。
「ご、ごご、ごめんなさい! お腹がペコペコで勝手に取って食べちゃいました! 少しくらいなら大丈夫かと思って、本当にごめんなさい!」
アイは俺たちに何度も頭を下げる。
本当にアイが魔女だったのか。
だが、どうも納得がいかない。
「攻撃したのも本当なんだな?」
「そんなつもりはなかったんです! 追いかけられたから驚いてつい能力を使っちゃったんです!」
「アイの能力って?」
「け、結界を張る能力です……」
アイはしゅんと弱々しい声で自分の能力について説明を始めた。
アイの能力は結界を張る能力で、壁はアイの見える範囲なら自在に出現させられるらしい。
試しに結界を出させてみると、アイの出した右手の前に半透明の壁が出現した。
追いかけた村人はこれにぶつかって弾き飛ばされたらしい。
あの時も攻撃したわけじゃなくて逃げるために時間稼ぎの障害物として結界を張ったのだが、弾き飛ばされた村人には見えない力で攻撃を受けたと勘違いしたようだ。
完全にアイが悪いのだが、どうも俺からは責めづらい真相だった。
「ごめんなさい! ごめんなさい! まさかそんな大事になってるなんて思ってなかったんです! もうしません! 反省してます!」
アイはもう一度深く頭を下げた。
見たところ本当に反省しているようだ。
村人を攻撃したのも明確な悪意があったわけではないみたいだし、正直俺は許してもいいのではないかと思った。
あとは実際に被害にあった村のみんなが納得してくれるかどうかだな。
「どうします? これだけ反省しているんだし許してあげますか?」
「……でもこの子が魔女ならまた悪さをするかもしれないですよね?」
「私は魔女なんかじゃありません!」
アイは半泣きで否定する。
俺もアイの言葉が嘘だとは思えなかった。
アイが魔女だとは思えない。
そこで俺はアイの言葉を思い出す。
「確かアイがこの村に来たのは三日前なんだよな?」
「え? は、はい」
アイはこくこくと頷く。
「魔女の噂はその前からあったんだし、アイの言うことは本当なのかもしれません」
そうなると本当の魔女はどこへ消えたのか。
それが分かれば村人も納得するだろう。
気になるのはあの祠だ。
あの近くにしばらくいたアイなら何か知っているのではないか。
「アイ、本当に魔女について何も知らないのか?」
俺が尋ねると、涙を拭ったアイは少し考える仕草をした後、「あっ」と声を上げる。
「そういえば……」
「なにか思い当たることがあるのか?」
「初めてあの森に入ったとき、私迷っちゃったんですけど、森の中でいきなりローブを着て杖を持った女の人に襲われました」
「え?」
意外な告白に俺は驚く。
アイは続ける。
「私、驚いちゃって、咄嗟に能力を使ってその人を結界の中に閉じ込めたんです」
結界は防御だけじゃなくてそういう使い方もできるのか。
結構便利だな。
「そしたらその人はちょうど魔法で攻撃するところだったらしくて、結界の中で杖を振り下ろして炎を出したんです。だけど炎は結界の中で反射して、女の人にまで燃え移って、私がパニックになっている間に蒸発してしまいました……」
俺たちは顔を見合わせる。それってつまり……
「つまり……本物の魔女はアイが倒していたってことなのか」
蓋を開けてみればそんな単純な結末だったのだ。
アイは森で迷い、魔女に遭遇した。
それがおそらく森の最深部、つまり祠のあった場所の可能性が高い。
そこでアイは偶然も重なり魔女を倒してしまったのだ。
アイのレベルが高いのは魔女を倒したことで経験値が入ったことも理由の一つだろう。
その事実に全く気付いていないところがアイらしい。
「え? あの人が魔女だったんですか?」
「ああ。アイ、お手柄だぞ」
「おねーちゃんが魔女を倒してくれたの?」
ミストがキラキラした瞳でアイを見つめていた。
「ああ、一応そういうことになるな」
俺はミストの頭を撫でると、茫然とする長老たちに言った。
「どうやらアイは魔女じゃないようです。俺たちも森の中で魔女が住んでいたと思われる祠を見つけましたが、そこは空っぽでした。今の話を信じて良いと思います」
「……ふむ、魔女を倒したとすれば、彼女を責めるどころか感謝しなければならないでしょうね」
長老たちも魔女を倒したことに免じてアイを罪に問うことは許してくれた。
「ありがとうございます!」
アイはまた深く頭を下げた。
人騒がせな子だ。
結局、俺たちが来る前から問題は解決していたのだ。
その事実に俺はフィーアに愚痴をこぼすと、フィーアは苦笑を浮かべた。
「なんだか締まらない結末だな……」
「はは、こんな結果もたまには良いんじゃないかな?」




