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第七話 森の魔女

 初クエストの翌日。

 俺たちは宿で遅い朝食を済ませると、次の町へと向かって出発した。

 一つの町に長く留まることは殆どない。

 目下俺たちの旅の目標は9つの国を回り終えることだ。

 そのためにはゆっくりしている時間はない。

 次の町でもクエストをこなしつつ9つの秘宝の噂を集める。

 そして数日したらすぐに次の町へと移動する。

 そして放浪を続けてそれから数か月、ようやく新しい国の入口に俺たちは到着した。


「ここが『アルフヘイム』か」

「綺麗なところですね……」


 ユキが感嘆の声を上げる。

 そこはニダヴェリールとは打って変わって、豊かな自然に囲まれた国だった。

 俺たちは入口となる森の中を歩く。

 そこは大きな樹木がそびえ、美しい花が咲き誇る。

 心地よい日差しが森の中に差し込んでいた。

 聞こえる小鳥の歌うような鳴き声。

 小川には透き通った水が流れ、覗き込めば魚の姿が見える。

 クエストで魔物退治に行ったイェロヴェリルの森のようにジメジメした雰囲気はなく、むしろそこは楽園のように思えた。

 森を抜けると、とある小さな村に俺たちは到着した。

 そこは人とエルフが共存して暮らしており、とてものんびりとした雰囲気の静かなところだった。


「なんだか懐かしいなー。ギムレーを思い出すよ」

「しかし宿があるか心配だな」


 とりあえず体を休める場所を探すために村を歩き回る。

 周囲には木造の小さな家が点々としており、フィーアの言うように俺たちの村、ギムレーに雰囲気が似ていた。

 村人たちは畑を耕したり、家畜にエサをやったりと仕事に精を出していた。

 時折すれ違う村人が俺たちへちらりと視線をやるが、特に気にした様子を見せず通り過ぎていった。


「どこかで聞いてみるか?」


 俺は前を横切った蝶を目で追いながらカイに尋ねる。

 蝶はそのまま近くの茂みの中へと消えてしまった。


「そうだな。宿以外にも色々と施設を把握しておきたい」


 俺たちはたまたま近くを通りかかった村人に、案内所のような場所か、またはこの辺りの地理に詳しい人がいないかを尋ねる。

 するとこの村を治める長老のことを紹介されたので、俺たちは言われたとおり長老の家へと向かった。

 村で一番大きいと思われる一軒家に長老は住んでいた。

 俺たちは長老宅へお邪魔すると、老人は在宅していた。

 俺たちが旅人であることと、泊まるところを探している旨を伝えると、中に上がるように勧められたのでお言葉に甘えることにした。


「それにしても、こんなところまで遥々と良く来てくださいました」


 テーブルに座った俺たちにお茶を出すと、長老は穏やかな笑みを浮かべた。

 声はしゃがれていて、口調はゆっくりとしているが、不思議と聞き取りやすい声だった。


「いえ、こちらこそ親切にしてくださりありがとうございます」

「困ったときはお互い様ですから」


 随分と腰の低い長老だと思った。

 俺たちみたいな部外者にここまで丁寧に接してくれると逆に申し訳ない気持ちになった。

 老人はお茶を一口飲むと俺たちに尋ねた。


「それで、宿をお探しでしたよね? 生憎、この村には宿はないのです。この家に泊まっていくか、ここから南へもう少し行くと小さな街がありますので、そこまで行っていただくか、そのどちらかですね。どうしますか?」

「南にある街というのはここからどれくらいの距離なんですか?」

「街まではそこまで遠くはありません。徒歩でも半日くらいでしょう」

「ユージくん、どうする?」


 フィーアが俺に尋ねる。


「うーん、今から街まで歩くのも結構大変だな……でも、さすがに泊めていただくのはご迷惑でしょう?」

「いえ、たまに旅の人をここに泊めているので大丈夫ですよ」


 長老は気にするなと手を振るが、さてどうするか。

 腕組みをして考えていると、くいくいと誰かが俺の服の裾を引っ張る感覚があった。

 ふと見ると、そこに幼女がいた。


「お兄ちゃんたち、勇者?」


 幼女は大きな瞳で不思議そうに俺の顔を見つめる。


「えーと、君は?」


 俺が困惑気味に首を傾げると、長老が慌てた様子で腰を浮かせる。


「私の孫のミストです。ほら、ミスト。ご挨拶をしなさい」

「こんにちは!」


 ミストは邪気のない笑顔でぺこりと俺たちに頭を下げる。

 何だか疲れた心が癒される気分だった。

 隣のフィーアなんて「ああもう、すっごく可愛いよぅ」と一人で身悶えていた。

 そんなフィーアも可愛いと思ったのは秘密だ。

 ミストはとてとてと長老の隣の席まで走っていき、そこにぴょんと座る。


「お兄ちゃんたち、勇者じゃないの?」


 そしてミストは小首を傾げながらまた同じ質問を繰り返した。

 仕方ないので俺はミストを諭すような口調で教えてあげた。


「残念だけど、俺たちは勇者じゃないんだよ」

「ああ、勇者はこの俺だからな」


 自称勇者のカイが至って真面目な顔で言う。


「おい」


 俺は横目でカイを睨むが、カイは無視を決め込んでいた。


「ほんとっ?」


 すると、それを聞いたミストはぱあっと嬉しそうに笑顔を見せる。

 その笑顔を見せられると今さら「実は自称なんですよ」なんて言えなかった。

 仕方ないのでここはカイの好きにさせておこう。

 俺は諦めた。


「ミストと言ったか。何か困りごとでもあるのか?」

「うん、魔女を倒してほしいの」


 ミストはカイの問いかけにこくりと頷く。


「魔女?」


 俺が首を傾げると、長老が困った表情を浮かべて頷いた。


「ただの言い伝えですよ。この村から北へ真っ直ぐ進んだ先にあるミュルクウィズの森に恐ろしい魔女が住んでいるという伝説があるのです。実際、あの森で時折死人が出ることもあり村人も怖がって誰も近づきません。おそらくただの偶然だと思っておりますが、しかし……」

「しかし、なんですか?」

「最近になって村人の何人かがこの村に魔女が現れたと言っておるのです。その中には私の息子もいました。息子が言うには魔女に食料を奪われて、中には攻撃された者もいたそうです。そして犯人は綺麗な女性だったとみな口を揃えて言っているのです」


 それは興味深い話だ。

 俺にもそれがただの言い伝えには思えなかった。

 これまでの経験からもこういう話には何か裏があることが多かった。

 森の奥に住む魔女か。

 面白いじゃないか。


「またユージ君の冒険者魂に火が付いたみたいだね」

「はい。ユージさん、嬉しそうです」


 レンとユキが顔を見合わせて微笑する。

 もう二人とも俺のこういう性格を把握しているみたいだ。

 呆れられているわけではないようなのでちょっと安心した。


「ユージ、森に行くのですね」

「ああ、俺もちょっと気になるからな」


 シーナの言葉に俺は頷く。


「本当っ? 魔女を退治してくれるの?」


 ミストは目を輝かせて無邪気な視線を俺たちに向ける。

 すると代わりにカイがうむと重々しく頷いて答えた。


「任せろ。困っている人間を放っておくわけにはいかないからな。お前の依頼、確かに引き受けた」


 カイはいつにも増してやる気を見せる。

 案外ミストに勇者扱いしてもらえて嬉しいのかもしれない。


「では今日はここに泊まっていってください。明日、森の入口までご案内します」


 そういうわけで俺たちは長老の言葉に甘えることにした。


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