それはちょっとした非日常
それはよく晴れた日のこと。
私は気になる異性と一緒に、学校から続くアスファルトの上を歩いていた。
ふわりと穏やかな風が制服のスカートを揺らし、真っ赤な夕焼けが私の顔を赤く染める。
示し合わせていたわけではない。
帰宅しようとしていたらたまたま下駄箱で鉢合わせたのだ。
だけど私からすれば幸運だった。
二人で肩を並べ、他愛無い会話をしながら歩を進める。
「もう秋だっていうのにまだ暑いな」
「ええ、温暖化の影響かしら」
私は口数の多い方ではない。
相手を退屈させないかと心配だった。
彼はとても優しい人なのでそんなことは思っていないだろうけど、それでも気になってしまう。
それだけ彼のことを私は意識していた。
「……今日は一人なのね」
「え?」
「いつも女の子と一緒にいるイメージだったから。和奏やアイは一緒じゃないの?」
「……お前は俺を誤解してないか?」
そして、口を開けばつい嫌味を口にしてしまう。
私の悪い癖だ。
分かっているのに彼の前だと素直になれない。
「そうかしら? 恋華辺りもたぶん同じことを言うと思うわよ。現代の光源氏さん?」
「……同じクラスなんだし別に一緒にいてもおかしくないだろ」
彼は拗ねるような口調でそう言って私から視線を逸らした。
そういう優しいところを見せるから、ついつい意地悪してしまいたくなるのだ。
それからしばらくは、私が彼をからかって困らせるという、傍から見たらろくでもないやり取りを続けた。
退屈させるのと困らせるのはどっちがマシなのだろう。
交差点に差し掛かる。
青信号であることを確かめ、私たちは横断歩道を渡る。
だが、そこで大きなクラクションが聞こえた。
「え?」
その方向を見た瞬間、私は目を疑った。
こちらに向かって大きなトラックが全速力で突っ込んでくる。
スローモーションになる風景。
段々と、確実にこちらに迫ってくるトラック。
私はただ茫然とその光景を眺めていた。
体が金縛りにあったかのように動かない。
そこで、私は真横から強い衝撃を受けた。
数歩よろけた後、地面に倒れる。
そこでようやく、彼が私を思い切り突き飛ばしたのだと分かる。
代わりに彼がトラックの前に躍り出る。
「いやあああああっ!」
私が叫んでも事態は何も変わらない。
彼の目の前に迫りくるトラック。
私は思わず目を瞑った。
そして大きなブレーキの音が聞こえた。