第三話 ギルド
「と、いうわけで、ギルドを作ることになった」
「寝耳に水な話だな……」
宿に戻った俺がカイにそれを告げると、カイは呆れとも感心とも取れるため息を付いた。
カイは読んでいた書物を閉じると、椅子に座ったまま俺へ視線を向けた。
「まあ、しかし、9つの秘宝を探すという案には俺も賛成だ。面白そうじゃないか」
「カイは9つの秘宝の存在を知っていたのか?」
「俺も噂だけだな。伝説の刀を手に入れたときもちらりとそんな話を聞いたような気がする」
カイも噂を聞いたことがあるとなるとこの噂の信憑性は高いと思う。
少なくとも残りの秘宝を探す価値はある。
「カイ、他の秘宝がどこにあるのか聞いたことないか?」
「さあな。だが、この世界にある9つの国に9つの秘宝、これが偶然だとは俺は思わないな」
「つまり、9つの秘宝は一つずつ別々の国にあるとカイは考えているのか?」
「あくまで俺の予想だがな」
だが俺も確かにカイの言うことがただの予想にしては納得できた。
9つの世界と9つの秘宝。
偶然にしては少々出来過ぎているような気もする。
なんにしてももっと情報が欲しい。
そこで俺たちはさっそくイェロヴェリルのギルド支部へと向かった。
ギルド支部は宿から徒歩で十五分ほど歩いたところにある二階建ての建物で、正面に堂々と大きな看板が掛けられていた。
扉を開けて中に入ると、そこは俺が予想していたよりも多くの人が集まっていた。
俺たちと同じく旅人と思われる格好をしたいくつかの集団が一か所に固まって座って何やら話している。
彼らはそれぞれ所属しているギルドで作戦会議等を行っているところなのだろう。
奥にカウンターがあり、エルフの受付嬢が一人いた。
カイの話によればギルド支部の受付嬢は皆エルフらしい。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
彼女は俺たちに向かって丁寧に頭を下げると、笑顔でそう告げる。
「新しくギルドを作りたいので、ギルドの登録をお願いします」
「新規でギルドを立ち上げるのですね? ギルドの種類はどれでしょうか?」
受付嬢はカウンターの上に小さなパネルを出す。
そこにはいくつかギルドの種類が書かれていた。
ギルドの種類によってこれから斡旋してくれる依頼内容などに違いが出るのだ。
「冒険者ギルドです。ギルドマスターはユージでお願いします」
話し合いの結果、発案者の俺がギルドマスターになることは事前に決まっていた。
「ギルド名はどうなさいますか?」
「ギルド名か……」
思わぬところで問題が発生したな。
特に何も考えてなかった。
適当に「おっぱい愛好会」にでもするか。
俺が迷っていると、そこでフィーアが俺の背後からぴょこりと顔を覗かせた。
「それなら私が決めていいかな?」
そう言うとカウンターに置かれた紙に何やら記入する。そこには『スクヴェイダー』と書かれていた。
「スクヴェイダー?」
聞いたことのない単語だ。
「私の好きな動物が由来なんだよ。私たちにぴったりだと思う」
それがどういう意味か分からなかったが、特に名前にこだわりはないので俺たちのギルド名は『スクヴェイダー』になった。
受付嬢は必要事項を記入した紙を、合成樹脂を利用した透明な特殊素材でコーティングし、そして作られたカードを俺に差し出す。
「それでは許可証を発行致しました。この許可証がギルド『スクヴェイダー』に加入している証です。あなたのギルドへ新しく加入する人はギルド支部で同じくこの許可証を発行してもらう必要があります」
「ああ、それじゃあ登録を頼む」
最初にカイが登録を済ませると、カイに続いて他のみんなも許可証を作成して受け取る。
そして全員の登録を済ませた。
「さて、登録は済んだがこれからどうする?」
「さっそくクエストでも受けるか」
せっかく登録したんだし、9つの秘宝とは関係なしに経験値を稼ぐ意味でもクエストはなるべく受けておいた方が良いだろう。
「あの、何かオススメとかありますか?」
フィーアが尋ねると、受付嬢は微笑みを崩さずに頷く。
「はい、あなた方はかなりの高レベルですから高難易度のクエストでも問題ないでしょう。そうですね……ランク別に厳選した一覧がありますのでこの中から選んでいただけるとよろしいかと」
受付嬢はそう言うと、俺たちに別の紙を見せる。
そこにはいくつかのクエストが書かれていた。
「いっぱいあるんですね」
ユキが感嘆の声を漏らす。
これだけあると俺もどれにしようか迷うな。
「これなどどうでしょう?」
俺たちが悩んでいると、受付嬢がクエストの一つを指さす。
これが彼女のオススメらしい。
俺は別の紙に書かれた依頼内容を覗き込んで記載された文章を確認する。
クリア条件は街を騒がせるお尋ね者の退治。
ただし生死は問わない。
写真も添付されていたのでそれを見る。
写真には驚くほどの美人が写っていた。
名前はサクヤ。
歳は俺たちと同じくらいか。
ちょっと興味あるな。
「彼女はこの世界の秩序を乱そうとしている反乱者です。倒して頂けると賞金として500万ゴールドとレアアイテムをお渡しします」
受付嬢は笑顔でそう言うが、反対に俺は顔をしかめる。
彼女は俺たちを買被り過ぎてないだろうか。確かに賞金とレアアイテムは魅力的だ。
ただし、よく読むとクエストのランクはSSSと最も難しいランクであった。
本当に俺たちのレベルでクリアできるのか怪しいものだ。
しかも神出鬼没で具体的な出没先も不明と書いてあるじゃないか。
「いきなりSSSはハードルが高くないかな? 確かに彼女は美人だしユージ君の好みかもしれないけどね」
レンが苦笑して俺に言った。いや、美人とか関係ないから。
彼女を退治する仕事だから。
「レンさんの言うとおり、最初だしもっと簡単なクエストにした方が良いんじゃない?」
フィーアも心配そうに俺の顔を見る。
俺も二人に同感だ。
まだSSSランクのクエストを受けるのは早い。
少なくともクエストに慣れておく必要があるだろう。
「あの、申し訳ないですが、もっと低いランクから探します」
「そうですか。残念です」
俺が受付嬢に告げると、彼女は少ししょんぼりした表情を見せた。
そんな顔をされても無理なものは無理だ。
「ユージ、こっちのクエストなんてどうでしょう」
シーナが一覧の紙から別の依頼を指差す。
そこには森に生息する魔物の討伐が書かれていた。
ランクはA。
まあまあ高いが決して無理な依頼でもなさそうだ。
「これなら大丈夫そうだな。距離もここから遠くないし、これにしようか」
「では、魔物討伐の依頼、確かに受け付けました。条件をクリアしましたら最寄りのギルド支部までご連絡ください」
受付嬢は最後まで笑顔を絶やさずに俺たちを見送る。
俺たちはギルド支部を後にした。
「無事に登録できましたね」
ユキの言葉に俺は頷く。
「これでギルドの施設を利用できるようになったはずだ。施設ではアイテムが相場より安く買うこともできるし役立つ情報も得られるだろう」
「でも、まずは魔物討伐のクエストだね。何だかわくわくしてきたよ」
「ああ、準備を済ませたらさっそくクエストに行くぞ」
「ランクA……久しぶりに楽しめそうです」
戦闘好きな面々が魔物との戦いを待ち遠しそうに話し合う。
かくいう俺も楽しみだった。
ランクAとなると今の俺たちなら簡単過ぎず、かといって難しくもない難易度だ。
最近は低レベルのモンスターばかり狩っていたからそろそろ腕試しをしたい。
それに、フィーアやユキにとっても高レベルのモンスターとの戦闘を経験するのは悪くないはずだ。




