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第二話 9つの秘宝

 準備を終えると、フィーアとの約束どおり街へと繰り出す。

 とりあえず出かけてみたものの、俺たちは何を買うかあらかじめ決めているわけではなく、気に入ったらそれを買うという無計画なものだった。

 しかし色々な場所を歩いて回るだけでも街の探索になるのでそれも悪くない。

 それに――


「見て見てユキちゃん! この服可愛いよ!」

「ほんとですね! あ、こっちの服も可愛いですよ!」

「……この宝石、魔力を込めると炎や雷を発生させるんですね。戦闘で役立ちそうです」

「ミズガルズではなかなか手に入らないアイテムも結構あるね。僕も何か買おうかな」


 それに、可愛い女の子たちと一緒に行動するだけでも十分に価値のあることだ。

 ここまでずっと一緒に旅をしてきてもその気持ちは変わらない。

 上機嫌なフィーアたちを見ていると俺まで心が満たされた。


 宿から少し歩くと、広い通りへ出た。

 俺とフィーアの他に、ユキとレン、シーナの五人でその道の端を歩く。

 左右を見渡せば様々な看板を掲げた店が立ち並び、道の真ん中は馬車が行き交う。

 歩みを進めれば周囲で人々の話し声が時折聞こえる。


「ユージさんは何か欲しいものがありましたか?」


 そこでユキが俺に尋ねる。

 俺は意識をそちらへと移した。


「そうだな……ちょっと装飾品は見ておきたいな」


 これからさらに険しい旅になることが予想される。

 高レベルの敵も増えてくるだろう。

 今のうちに良い装備を揃えておきたいところだ。

 装備は主に、『武器』、『衣装』、『履物』、『装飾品』の4つからなっている。

 装飾品はどうやら付けられる数に限界が決まっているようで、それ以上付けると後から付けたアイテムの効果を得られなくなる仕様になっていた。

 ちなみに今の俺は二つまで付けることができる。


「それじゃあ先にユージの希望から見て行こうか。そのあと僕らの方にも付き合ってよ」

「良いけど何を買うんだ?」

「前から新しい服がほしいと思ってたんだ」


 レンは自分の着ている毛皮の衣服の端を摘まんで言った。

 若干肌の露出が多い衣装なので俺はまじまじと見ることはせずにすぐ視線を逸らす。

 こんなところでも俺は小心者だった。


「あ、私もほしい!」


 隣でフィーアが手を上げる。


「ユージ君の好みを教えてよ。なんなら試着も手伝ってくれる?」

「いや、遠慮させ――喜んでご一緒させてもらおう!」

「オッケーしちゃうんだっ?」


 俺が真面目な顔でレンに言うと、フィーアが驚いた声を出した。


「いや、反射的に否定しかけたけどせっかく機会があるなら見たいだろ。男として」

「もうっ、私は嫌だよ。恥ずかしいもん」

「はは、冗談だよ。ユージ君だって本気で言っているわけじゃないでしょ?」


 俺は結構本気だったんだが、それを言うと俺の信用が地に落ちる可能性がかなり高いので黙っていることにした。

 ここでも俺は小心者だった。

 この話題を続けると藪蛇になりかねないので俺は話題を変えることにした。


「そういえば、服も大切だけどフィーアとユキは武器を買った方が良いんじゃないか?」

「うーん、そうだよね……私も少しでもみんなの役に立ちたいし」


 フィーアが背中に背負った自分の武器である弓を撫でる。

 今まであまり戦闘経験のないフィーアとユキは武器もミズガルズの店で安価で手に入れた平凡なものを使用している。

 しかしこれはあまり喜ばしいことではない。

 装備の中でも武器は戦闘をするうえで特に重要な要素であるからだ。

 武器によって強度も使いやすさも変わってくるのでとにかく武器には拘った方が良い。

 人によって剣が良いのか短剣が良いのか、はたまた弓が良いのか、それは資質と好みの問題である。

 しかし、とにかく質には拘るべきだ。

 数値としてもそれは証明されている。

 良い武器は自然と付加能力も良いものが多いのだ。

 武器一つでステータスが大幅に上昇するのだから良く考えて武器を選ばなければならない。


「装備といえば、カイ君の装備なんて高そうだよね。特にあの刀なんて凄く珍しいものに見えるけど」


 何気なく言ったレンの言葉に俺は頷く。

 俺も最初に会ったときにはカイの装備には驚かされた。

 ビフレストにある店でも売っているのを見たことがないものばかりだった。


「ああ、前にカイが言ってた話によると、確か手に入れたのはこのニダヴェリールのなんとかって村だったはずだ。たまに村に現れて悪さをしていたモンスターを倒したら老人のドワーフからお礼に渡されたらしいぞ。大分前に聞いた話だからそれ以上の経緯は忘れたけどな」


 この世界には人間の他にモンスターが存在しているが、その中には知性のある種族もいて、人間に混じって生活する者もいた。

 ドワーフやエルフなどがそうである。

 そしてカイはドワーフの一人から刀をもらったと言っていた。

 本人がいうには伝説の刀ヴェルンドを手に入れたのは偶然だったらしい。

 もちろん前提としてカイがある程度のレベルであることも必要だったはずだが、普通に生活しているだけでは手に入らないレアアイテムだともカイは言っていた。

 そもそも伝説の刀という仰々しい名前からしていかにもレアアイテムっぽい。

 オーラがヤバい。


「確か手に入れたのはニザフョッルという村だったはずです。私もカイから聞いたことがあります」


 シーナが淡々と答える。

 そういえばそんな名前の村だったような気がする。

 たぶん俺も聞いたことがあるぞ。


「伝説の刀かー。他にも伝説の剣とか弓とかあるのかな?」

「そういえば噂で聞いたことがあるよ。この世界には9つの秘宝と呼ばれるレアアイテムがあって、なんでもそれを全て集めると不思議なことが起こるらしいね」


 フィーアの呟きにレンが答える。


「不思議なこと、ですか?」


 ユキが首を傾げると、レンは頷いて言った。


「うん。願い事が何でも叶うとか、魔王が現れるとかいろんな噂があるから僕もはっきりとしたことは知らないけど、とにかく9つの秘宝の噂は有名だね。たぶんカイ君の持っている刀もその一つじゃないかな」


 9つの秘宝か。

 それは初めて聞いたな。


 俺もレンの話した噂が気になった。

 冒険者の血が騒ぐ。

 本当にそういうレアアイテムが存在しているのならぜひ手に入れたい。

 9つ集めなくても一つ手に入れるだけでステータスの大幅な上昇が見込まれるのだから探す価値はある。


「レン、それはどこで聞いた情報だ?」

「えーと、アースガルズに潜入してたときだったかな。でも本当に噂話だからどこまで本当か分からないよ?」

「そうか……」


 何にしてもまずは9つの秘宝の情報を得る必要があるようだ。

 9つ集めるとどうなるのか、どこにあるのか、どうやって手に入れるのか。

 それらを把握しなければならない。

 レアアイテムと言われるくらいなのだから簡単には手に入らないだろう。


「9つの秘宝か。どうにかして詳しい情報を手に入れられないかな……」


 俺がぽつりと独り言を呟くと、それを聞いていたユキが躊躇いがちに言った。


「あの、ギルドに入るのはどうでしょうか?」

「ギルドに?」

「はい、あそこなら各地の情報が集まってきますし、秘宝について何か詳しいことを知っている人がいるかもしれません」


 ギルドか。

 俺もその存在は知っている。

 同じ職業で集まって作られる職業別組合のような存在である。

 中には冒険者ギルドと呼ばれるものもあると聞く。

 冒険者ギルドでは冒険者同士の相互扶助や情報収集を行っており、クエストと呼ばれる賞金付きの依頼の参加者を募集していることもある。

 ギルドの支部は各地にあり、その規模も大きいのでギルドに入れば多くの情報を共有できるはずだ。

 ユキの提案は悪くないもののように思える。


「ユージさんたちと出会う前に私は少しの間だけ冒険者ギルドに加入していたことがあるんです。お金とかレベルとか、一人だとどうしても生きていくのに限界がありましたから。そういう意味でギルドは大変良い場所でしたね。結局、私には合わなくて抜けましたけど……」


 戦闘が嫌いなユキにとってギルドに加入する意味はあまりなかったのだろう。

 クエストにしても、一緒に戦ってくれる仲間もいたのだろうが基本的に後方支援担当で前線に出ないユキにとって、戦闘はいつも守ってもらってばかりという認識だったのではないか。

 そしてそれを申し訳なく思ったのではないだろうか。

 ユキの性格なら十分に考えられる。

 俺たちと旅をしているときもユキはそんなことを漏らしていた。


 もっとも俺たちはそんなこと気にしていないし、後方支援だって貴重な戦力だ。ユキの能力は俺たちを何度も助けてくれている。

 俺は何度かユキにそれを伝えたが、当時のギルドでそんなユキの気持ちに気付いてあげられる人はいなかったのだろう。

 ユキにしてもギルドのメンバーとそこまで深い付き合いをしていなかったのだろうから仕方ないといえば仕方ない。


「しかしユージ、ギルドに加入すれば行動が制限されるのではありませんか?」


 シーナが疑問を口にする。

 その指摘はもっともだった。

 どこかのギルドに加入すれば、基本的にそのギルドのリーダー、『ギルドマスター』にしたがって行動しなければならない。

 俺たちで自由にクエストを行うことも出来ないだろう。


「それなら、俺たちでギルドを作れば良い」

「……え? 本気なの、ユージくん?」


 言った途端にフィーアが驚いた顔で俺を見る。

 だが俺は大真面目だった。

 一口にギルドといってもたくさんの種類がある。

 冒険者ギルドの中にも色々な組織が存在しているのだ。

 だから俺たちが新しくギルドを作っても問題ではない。

 ギルド支部に登録すればそれでギルドとして認められる。


「だけどそれじゃあ情報の共有が難しいんじゃないかな?」


 レンが当然の疑問を上げる。

 新しくギルドを作るより既存のギルドに加入した方が相互扶助や情報収集のメリットは大きいだろう。

 俺もそう思う。


「確かに本末転倒なような気もするが、目的はそこじゃない」

「え?」

「ギルド支部は自由に出入りできるけど、どこかのギルドに所属していないと自由に使えないシステムもあるんだ。だからギルドに所属しておく必要がある。俺の目的もそこにあるんだ。ギルドのシステムを最大限使用できるようになること。そして良いクエストがあれば参加する。情報を得るだけならそれで十分だ」


 どこか大きなギルドに加入した方が情報は集まりやすいかもしれないが、ギルドマスターによって行動が制限される心配を考えると俺はこの選択が一番良いと思う。

 加入のメリットとデメリットを考えての妥協案というところだ。


「確かにそれならギルドの施設も利用できるし行動が制限されることもない。良い案かもね」

「はい、私もユージに賛成です」


 特に反対意見も出なかった。

 こうして俺たちはギルドを作ることになった。



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