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第八話 来訪者

 それから一か月が経過した。

 俺は相変わらずダンジョンへと潜っては経験値稼ぎに勤しんでいた。

 当初の予定どおり地下にある例の部屋へは入らずに、地下のモンスターたちを倒して地道に経験値を稼ぐ。

 あの日の戦闘以来、もっと強くなりたいという気持ちが日に日に増していた。

 しかし早く再戦したい気持ちを抑え、モンスターを狩り続ける。

 おかげで経験値とお金がどんどん溜まっていた。

 この分だと再戦の日もそう遠くないかもしれない。


 ダンジョンからの帰り道、カイとシーナと別れた俺は一人で家に向かって慣れた道を歩いていた。

 森林の中を真っ二つに裂くように切り開かれた道路。

 ふと顔を動かせば、木々の隙間からたまに差し込む夕焼けが眩しい。

 それからほどなくして、俺は足を止める。

 道の真ん中に見知らぬ人物が立っていた。

 顔を上へ向け、じっと何かを見ているようだった。

 フードを深く被り、その顔ははっきりとは見えない。

 俺が再び歩き出し、その人物へと近づくと、向こうも俺に気が付いて視線を俺へと向けた。


「何を見てるんだ?」

「……夕日を、見てたんだ」


 その人物は俺と同じ年くらいの少女だった。

 被っていたフードがまくれ、露わになったショートカットの髪が風になびく。

 利発そうな顔立ち。

 どこかミステリアスな瞳。

 少女は自嘲的な微笑みを浮かべて俺にそう言った。

 俺は少女に尋ねる。


「夕日がそんなに珍しいか?」

「ううん……ただ、この赤い空を見ると嫌な記憶を思い出すんだ」

「嫌な記憶?」


 しかし、少女はそれ以上話すつもりはないらしく、曖昧な笑みを浮かべるだけだった。

 そこで一歩、彼女は体を寄せて俺との距離を縮める。

 俺と少女の視線が間近で重なる。

 俺と身長差があるため、彼女は少し見上げる格好になっていた。


「僕の名前はレン。よろしく、ユージくん」


 少女は人当たりの良さそうな微笑みを浮かべる。

 不思議な少女だが悪い人間ではなさそうだと直感で思った。

 俺の名前はステータスを見て知ったのだろう。

 俺も彼女のステータスを見る。


【レン】レベル42 短刀スキルD

 体力:780 魔力:630 筋力:527 耐久:480 敏捷:805

 装備:銀のナイフ『短刀スキルE以上で使用可能』『体力が50上昇』『筋力が100上昇』『敏捷が50上昇』、毛皮のローブ『体力が50上昇』、『魔力が50上昇』、『耐久が100上昇』、レザーブーツ『敏捷が100上昇』


 なかなかのレベルだ。

 俺は少女が何者なのか気になった。

 この村で今まで彼女を見かけたことはなかったが放浪者だろうか。


「ああ、よろしく」


 俺はレンに返事を返すと、それを聞いてみることにした。


「レンはこの村の人間じゃないよな? もしかして旅の途中だったりするのか?」

「まあ、そういうことになるのかな……だけどここに長居する気はないよ。君たちに迷惑をかけるつもりはないから」


 レンはまた曖昧に微笑む。

 その表情は一層自嘲的でどこか寂しげだった。

 そこで、俺は気付いた。

 少女の着ている服の左腕の部分が破れ、しかもその付近には僅かに血の痕が残っていた。

 あの刃物で切られたような被服の破れ方といい、レンが戦闘後であることは明らかだった。


「腕、怪我してるみたいだけど……」

「ん? ああ、これかい? 生憎、手持ちの薬を切らしてしまってね」


 レンは怪我をした左腕に右手で触れると、あっけらかんとした声で言った。

 そんなに深刻ではないのだろうか。

 だが、気になった俺は念のため戦闘用のレンのステータスを見た。


【レン】レベル42 体力:120/780 魔力:70/630 状態異常:なし


 通常の基礎ステータスの他に、このようなパラメーターも任意で見ることができた。

 これは主に戦闘中に役に立つ。

 原理は不明だ。

 俺が見たいと思ったら見ることができる。

 レンは平然とした見かけによらずかなり体力と魔力を消耗しているらしい。

 外傷は殆どないようだが、疲労はそれなりに体に蓄積されているはずだ。


「本当に大丈夫か?」

「ただのかすり傷だから平気だよ……僕も君くらいの強さだったら、こんな失態を見せることはなかったかもしれないね」


 そう言ってレンは苦笑を浮かべるが、俺はその言葉に疑問を持った。


「この辺でレンほどのレベルの奴が苦戦するような相手がいたか?」


 この村は治安が良いので盗賊が出たなんて聞いたことはないし、ダンジョンにでも潜らないと高レベルのモンスターも出てこないはずだ。

 まさか決闘でもしたわけではあるまい。

 一体、誰にやられた傷だというのだ。


「うん、まあ、ちょっとね。それよりこの辺に余所者が泊まれる宿はないかい? できればあまり人の来なさそうなところが良いな」


 あからさまに話題を逸らされた。

 触れてほしくない話題だったらしい。

 俺が首を突っ込むことではないし、ここは俺も流されるままにレンの質問に答える。


「残念ながらこの村には宿がないんだ。田舎で悪いな」

「そうか……仕方ない。どこかで野宿でもするとしよう」

「え、一人でか?」

「野宿は慣れてるからね。僕のことは気にしなくていいよ」


 レンはさっぱりした口調で答える。

 うーん、クールだなぁ。


 だが、彼女を放っておくのは気が引けた。

 今の時期なら夜でも比較的暖かいので風邪をひくことはないかもしれないが、この辺りは夜行性のモンスターが徘徊するかもしれない。

 そうかといってわざわざ村まで来てもらってレンだけ外で野宿というのも人としてどうかと思う。

 それに、レンの体調も心配だ。


「俺の家で良かったら泊めるけど、どうだ?」

「……それって誘ってる?」


 レンはにやりと小悪魔めいた微笑を浮かべながら、上目使いで俺を見つめる。

 確かにレンは美人だし、スタイルも良い。

 ローブのせいで分かりづらいがよく見ると胸も大きい。

 だが、俺は決して邪な気持ちがあってレンに提案しているわけじゃない。


「馬鹿言え。人の善意になんてことを言うんだ」

「ごめんごめん、冗談だよ。それじゃあお言葉に甘えてもいいかな? さすがにちょっと疲労が溜まってるみたいなんだ」


 やはり体力の消耗が体にも影響を与えているのだろう。

 ここは多少無理にでも休ませた方が良いと思ったのだが、やはり正解だったようだ。

 俺はレンを案内するために歩き出す。

 だが、途中ですぐに足を止めた。


「ん?」

「どうかした?」


 レンが小首を傾げる。

 一瞬誰かの視線を感じた気がしたが、気のせいだったようだ。

 周囲を見渡すが、人の気配はなく、俺たち二人の長い影が夕日で赤く染まる地面に伸びているだけだった。

 とても静かだ。

 ざわざわと風が草木を揺らす音がする。


「……いや、なんでもない」


 今日は少し冷えるかもしれない。

 やはり野宿はさせられないな。

 こうして俺はレンと一緒に自分の家へと帰った。



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