2.ここは、あの乙女ゲームの世界
三歳の頃から鏡で自分の顔を見ても、幼馴染の顔をガン見しても、喉に刺さった小骨が気になるかのごとく、何か重要なことを思い出せないモヤモヤ感がありました。
そして五歳になった時に、屋敷の中で幼馴染と全力でかけっこしていたところ、壁に激突した後に気絶して、ここが乙女ゲーム『Flowers Lover~小さな花の名を持つ君へ~』の世界だと思い出したのです。
私は、アイリス・ガレット。悪役令嬢カトレア・ミルフィーユの父と母が、現在の私の父と母と親友同士。
幼馴染は、攻略対象のバルザック・ビスキュイ。
やっと思い出して、すっきりした。
『Flowers Lover~小さな花の名を持つ君へ~』とは、男性ユーザーも会得した18禁乙女ゲーム。
ストーリーは、
パティスリアンと呼ばれる魔法が存在する中世ヨーロッパ風の異世界。
ある日、国の役人がヒロインの希少価値の高い属性の魔法を持っていることを発見し、魔法学校に通うことを勧める。
しかし、ヒロインの家は貧乏なため学校に通える費用もなく、断る。
後日、魔法学校の校長がヒロインの自宅に来て、学校に通う間のヒロインの授業料と生活費を学校側が負担することで、ヒロインは魔法学校に通うことを了承する。
魔法学校で生活する一年を通して、心優しいヒロインが攻略対象者と絆を深める物語。
EDは、攻略対象との各ルート。逆ハーレムルート。女王様(悪役令嬢)の犬ルート。女王様の攻略対象と一緒に犬ルート。女王様との純愛エンド。があります。女王様関連ルートで、男性ユーザーからも支持を得たのです。
女王様の犬になりたい同志が集まって、『調教された犬同盟』ができたくらいです。
私は会員No.99。事故の時に居合わせ今後のことを頼んだ女性は、会員No.98。番号が近いということで仲良くなったのです。会員No.100は、偶然にも近所に住んでいた高校の同級生でした。同志ということで、互いの家に行き来する仲になったのです。
忘れそうになっていましたが、ヒロインはスズラン・ヴァニール。ゆるふわ系でありながら、芯のしっかりしたカワイイ女の子。
あの乙女ゲームの世界と思いだした時には、思わず唾をゴクリと飲みました。これでやっと、念願の女王様の犬になれると。ダメなら、下僕でもいい。
調教された犬同盟会員No.99としては、是非とも犬に! 期待に胸が膨らみます。これで、会員No.1に自慢できます。もう、会うことはできませんが...
翌日、私を心配したバルザックがお見舞いに来てくれました。高級なお菓子を持参で。食い意地が張っていることは前世から変わりません。一度、死んだくらいでは変わらないものですね。早速、お菓子に手を出そうとしたところメイド長にダメ出しを食らいました。「まだ、体調が回復してませんので、回復後にしてください」と。
前世よりもお金持ちで、顔面偏差値が少し高くなったのに、お菓子を食べれないとは。あのお菓子は人気店のものなのに! すごく悔しい! お菓子を残しておくことをしつこいくらいお願いして、仕方なく諦めました。
メイド長が持ってきた病人食を食べて、女王様の犬になることを夢見て再び眠りにつきました。これが、人生最大の悲劇になるとも知らずに...