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   強盗は正義の味方でした?

本日二話目。

「俺達は、幼い風の精霊王が起こす世界の崩壊から、世界を救いたい。」


話が長くなるとベットに腰掛けることを進められ、私は今ベットに腰を下ろしました。まるで、あの人形が部屋の主のような振る舞いで、ちょっとイラっときたのは内緒ということで。


それはそうと。ようやく彼等の名前を知ることができました。


俺様な人形は、旅の精霊クロノス。

伝承では、ヤンチャ系好青年な雰囲気だったのに、と呟けば「ちょっと諸事情で縮んだんだよ。」と拗ねた返事が返ってきました。

一応、本領を発揮すれば高位精霊並の実力があるんだと胸を張って主張されても、へぇと相槌を打つくらいしか出来ません。


エルフの人は、タグさん。

前世で付き合っていた人が乙女ゲームマニアで、この世界を舞台にした乙女ゲームについても耳たこ状態になるまで語られ、設定を覚えていたのだそうだ。


で、未だに床に転がされているチャラ男な闇の精霊は、高位精霊第三位へクス。

やっぱり、『闇の精霊王×旅の精霊』を書いた書き手さんでした。なんでも『旅の精霊』の存在を人々に強く意識させることがクロノスが力を取り戻し、本来の姿に戻る手段ということで、その手段として根強いファンを持つ同人誌に目をつけたのだそうです。主である精霊王にも誰にも相談することなく・・・。



そして、先ほどまで怒り狂っていらっしゃったのが『闇の精霊王』御本人だったそうで。先程から端整な顔立ちの眉間に皺を刻ませ睨みつけられているのは勘違いではありません。

まぁ、こういった反応は前世でもあったことなので、あまり気にすることは無いと思っていますが、何せ相手は世界の闇を統べる至高の方。ただ睨みつけるというだけで、息苦しい程の重圧を感じます。




「乙女ゲームの幾つもある終わりの中で問題となるのは、二つのルート。

封印され邪精霊となった『風の精霊王』を倒しアリシアが『風の精霊王』になる逆ハーエンド。『森の精霊』となり、新しく誕生した『風の精霊王』と結ばれるという隠しエンド。

この二つが選ばれた時、世界は危機に貶められる。」


タグさんが説明を始めると、それまで偉そうにしていたクロノスが怒りを滲ませ顔を伏せました。そして、『闇の精霊王』も部屋の隅で壁に背中を預け、同じように顔を伏せています。


「世界の危機、ですか?」

「もしかして、君は二作目の存在を知らないのかな?」

知りませんよ、二作目だなんて!!

っって、今から前世に戻れませんか?一作目であれだけの豪華な声優陣だったんです。二作目もそれはそれは悶えるようなキャストになっていることでしょう。

「二作目は大分間が空いて発売されたからね。

 異世界トリップが流行ったのに託けて、ヒロインを異世界からやってきたっていう設定にだった。そこでは、世界の支柱の一人である『風の精霊王』を新しく誕生させたことで、命を生み出すことで減っていく世界が保有する力が大きく消費された。『風の精霊王』の誕生を願った人々の想いが世界を動かしたんだ。けれど、世界そのものの力が急激に減ることで精霊達が力を保つことが出来ず、それ故に世界の営みを管理出来なくなり、世界は崩壊の危機に向かっているという世界感だった。それを救うのが異世界からやってきた二代目ヒロイン。

俺はここまでで記憶が途切れている。だから、その後どうなるかなんて知らないけど、問題なのはアリシアが逆ハーエンドと隠しエンドを選んだ場合、世界が崩壊の危機を迎えるということになるということ。

オープニングの映像は酷かった。世界が荒れ果て、人々がたくさん死んでいく。

俺達はそうなることを止めたいんだ。」


「そ、それで私に何をしろって言うんですか?

 言っておきますが、魔術も使えない、ただの小娘ですよ?」


こちとら、前世の記憶を持つくらいしかとりえのない一介の人間ですよ?

「異世界の記憶を持つ転生者には願いを叶える力がある」とかいう伝承があるっていっても、それがどんな方法で、どんな風に叶えられるなんてのも知りません。


「変化を与える影響力を持つ物語を綴れる書き手。俺達には、そんな存在が必要だった。」


クロノスが顔を上げていた。


「リリーナ。不思議に思わなかったか、お前が生み出した本や即売会というものが急激に広がったことを。誰も疑問を持つことなく受け入れ、あまつさえ作り手となっていく様子を。」

それは、確かに・・・

印刷技術が確立され新聞が発行されているこの世界で、物語とかは貴族などの道楽としてですが存在していました。けれど流石に私が作っていたBLジャンルなんて生まれているわけもなく、それなのにフレイ姫様に暴かれてからの広がり方は異常とも思えるものでした。なんたって数ヶ月で王宮外にまで広がりを見せているのですから。

「それが、転生者の力だ。異世界の記憶を持つ者には、作り出したものを世界に当たり前のものとして認識させることが出来るようになっている。そんなお前が書いた物語を人々は当然のものとして受け入れる。それが世界を救う鍵になる。」

そろそろ頭が爆発しそうです・・・

「その力で、俺達は精霊を強化したい。

世界が荒れるのは、精霊が弱り消えていくせいだ。精霊に個を与え強化することで、精霊が消える可能性を一つでも減らすことが出来る。

精霊についてを綴った本を人々に見せ、それを見て精霊というもの、精霊が持つ力を認識した人々の想いが精霊の力になる。

世界に存在する力が減り続けている世界で、精霊は人の信仰というものに依存することで存在を維持できる。人々が認識する想いが、精霊を活かしも殺しもするんだ。」


信仰を集めるための、精霊の力と存在を示す物語。

それは・・・


「それは・・・まるで、神話ですね。」

ギリシャ神話、北欧神話、日本神話・・・・

前世で好きで呼んでいたそれらのように、神様の性格やら権能、その在り方を示した物を私に書けというのか。

「そう、神話。タグに神話というものを聞いて思いついたんだ。

 これは『精霊譚』と呼ぼうと思ってる。

君はただ、精霊に会い、見知ったことを物語として書いてくれればいい。それを本にして世界へと配れば、それだけで精霊たちは救われる。ひいては世界を救うことになる。」


やってくれるよね。


拒否権ないって言ったくせに。

でも、その話が本当だとしたら大変なことになるということは分かる。


「別に旅に出ろとかは言わない。

仕事が無い日とかに、ちょっと遠出してくれるだけでいいんだ。送迎も案内も俺達がするから心配はないよ。日帰りで世界中を観光できると思ってくれればいい。」

「そうそう。時間が無いっていっても、ゲームスタートまで7年あるんだし。休みもちゃんと保障するさ。」


クロノスとタグさんが色々言ってくるのですが、甘い条件言われると逆に怪しく感じてきてしまうので、やめて欲しいんですが。


「リリーナ。休日を返上してもらわねばならないのです。

 もちろん、お給金もしっかり出しましょう。」

どうやらアウラ様も彼等の仲間のようで、甘い条件を囁いてきます。


ですが、アウラ様。

慈悲と慈愛で人々に癒しと希望を与える麗しき光の精霊(人々の認識です)が、親指と人差し指で丸を作って、お金のジェスチャーするのは御止め下さい。イメージが総崩れになりますよ。






はぁ、仕方ない。


「私、リリーナ。頑張らせて頂きます。」




ようやく序章パートが終わった・・・

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