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   計画の不安

「『風の精霊王』シスネ様が母親なの。」


クロノスさんの娘さん、エルシェード家の始まりである女性の話をフェーリ様がして下さったのですが、最後の最後に、その女性の母親についてを教えられたせいで、頭が真っ白です。

衝撃的過ぎます!


えっ?っていうことは、クロノスさんの奥さんってことですよね。


プルート様は、旦那さんとお子さんの事も好きだったから『風の精霊王』の事を諦めることが出来たってタイチさんが教えてくれました。確かに、プルートさんとクロノスさんは友達だそうですが…


話を聞いている時から、後ろにいるプルート様の様子をチラチラと窺ってしまいました。目の端に映るプルート様は、フェーリ様がしている説明というか、過去の話も、ちゃんと耳に届いているはずなのに平然な顔をしています。もちろん、私はプルート様の内心を表情から推し量れる程、長い付き合いでも存知あげているわけでもありませんから、はっきり断言することは出来ません。でも、口元に笑みを浮かべている姿は、とても穏やかな様子だという気がします。


「二人の娘はね、この森で育ったの。生まれてすぐの頃は、シスネ様が封印されて、『火の精霊王』が強い勢力を築いていたから、極僅かな者しか子供の存在は知られないように育てたのよ。お母様を失って腑抜け状態だったお父様にも内緒だったのよ。地に風、闇と光の精霊たちが手が空いた時に手伝ってくれて、でも一番子育てに関わっていたのは、叔父様だったわ。」

フェーリ様に指差され、照れ顔になったプルート様。

え?プルート様が子育て?

「お兄様は計画の為だってフラフラとされていたから、本当にプルート様が親みたいで。封印されているシスネ様の所にも連れて行かれたり、あちこちをフラフラしているお兄様の所にも連れていったり。」

なんだか、とても想像しやすい構図ですね。

プルート様、なんだかクロノス様に振り回されていらっしゃるのですね。でも、そんなクロノス様だから友情を築けたのでしょうか。あの手のタイプを憎み続けるとかは難しい気がしますから。少年漫画の主人公とかにいそうなタイプですよね。

「しまいには、会う人会う人に母と娘扱いされるようになって・・・」

「フェーリ。」

フェーリ様が笑いながら娘さんの話を続けていましたが、止まりそうにないそれをプルート様が溜息を吐き出しながら名前を呼んで止めさせました。

ん?

母と娘って言いました?プルート様…まぁ確かに女性に見えないでもないですし…。それだけ娘さんに懐かれていたということですし。まぁ、違和感がないですね。


「お兄様たちの話では、近い将来『風の精霊王』になるというアリシア・エルシェード。最初に聞かされた時には耳を疑ったのだけど、エルシェードが引いている血を考えれば無い事もない話だと納得しました。この森に時折遊びに来るアリシアの様子を見ていても、風の精霊たちにとても好かれている。シスネ様の血を色濃く顕現させた娘だと分かったわ。」


「今回の事は、シナリオ通りになるようにする為だったのかも知れませんね。」


ふと。

脳裏に過ぎったものが口から飛び出ました。

ゲームのシナリオには『森の精霊』になるルートがあります。なのに、フェーリ様という『森の精霊』がすでにいる。だから、アリシアは故意ではない、無意識の内に『森の精霊』の存在を無かったことにしようとしたのかも知れないという考えが過ぎりました。


そうだとすると、恐怖が全身を駆け巡ります。


クロノスさん達がやろうとしている事、私が関わっている事は、ゲームのシナリオ通りの世界を望む何かからすれば邪魔でしかない事なんじゃないか、と。フェーリ様のように排除されそうになる危険があるのではないか…。


空気を上手く吸うことが出来ません。

体が冷えていくのを感じます。

多分、顔は強張り、青褪めていることでしょう。


今まで、シナリオを変えてしまうことに何の危機感なんて覚えていませんでした。

だって、前世で転生トリップものでシナリオを変える話を幾つも見ていましたが、その全ては上手くいっていて、シナリオを変えようとした主人公が危険な目にあうことなんて無かったんです。

私は、気軽に考え過ぎていたのでしょうか。

今更です。

今更ですが、怖くて仕方がありません。

排除されるのは私だけで済むのでしょうか。

私のせいで、設定とは違ってしまったフレイ姫様に影響が及ぶのでしょうか?

フレイ姫様と仲良く交流するようになった侍女仲間たちにまで及ぶのでしょうか?

どうすれば…


もしも、私がフレイ姫様から離れれば…


「リリーナ。」


背後の、とても近いところから名前を呼ばれ、我に返りました。

目の前にいるフェーリ様が、心配そうに私を見ています。

私をジッと見ているフェーリ様に気づくことなく、私は考えこんでしまっていたようです。


そして、名前を呼び思考の淵から掬い上げてくれたプルート様に、腕を引かれ強引ともいえる力で全身ごと後ろを振り向かされました。


振り返って目の前に見えるようになった、プルート様の微笑んだ顔。


「本当に、優しい人だ。」

えっと…そんな事を突然言われましても…


「大丈夫。君は僕が守るよ。」


戸惑いのあまり身動きすることを忘れていました。

そんな私に、プルート様の綺麗な微笑みを湛えた顔が近づいてきました。


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