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   恐るべき花

「何を知っている?」


父親であるレームス王に問われ、アズラート様が苦々しく、悔しそうに話し始めました。


「えっ?」

その話の冒頭から、私は驚きの声を上げてしまいました。



アズラート様が言うには、あのバンムレットは『霊廟の森』のすぐ傍にあるエルシェード子爵家の娘であるアリシアという少女が森に持ち込んだ物。

始めは一月程前、彼女が墓に供えたものから増え始めたのだそうです。

根がついたばかりの頃、それを見つけたアズラート様が引っこ抜き、持ち帰り処分したのだそうです。けれども、それからも彼女はバンムレットを墓に置き続きました。

アズラート様は何度も注意した。

「森にこんなものを持ち込むな」と。

でも、アリシア嬢は「きれいなお花をお供えしているだけ」「酷い事しないで」と話を聞いてもくれず、アズラート様が頻繁に来れない内にバンムレットを大量に墓の周りに置いていったのだそうです。

エルシェード子爵の下にも訪れ、止めさせてくれと頼み、子爵もそれを承諾したことで彼女が持ち込むことは止めたそうですが、その時にはすでに遅く、バンムレットが秘かに根付いてしまっていた。

アズラート様はフェーリ様を訪ねる度に、見つけたバンムレットを処分して、森に住む精霊たちも見かけたら教えて欲しいと言っておいたのですが、数日前からアズラート様が母君と出掛けなくていけなくなり、今日に至ったと。


「どうして報告しなかったんだ!」

「ご、ごめんなさい」

父親に怒られ、アズラート様が涙を浮かべました。

数日前、主茎を一本見つけたアズラート様は根っこを残さないように周囲の土ごと掘り起こして森の外で処分したことで大丈夫だと判断したのだと。精霊たちにも次を見つけたら教えて欲しいと頼み、数日の事ならそんなに増えることは無いと思ったと、アズラート様は目をこすりました。


いえ、その通りです。

アズラート様の言うことを信じるのなら、バンムレットだってそんなに広がってないはずです。せいぜい、腕を広げて届く範囲です。それなのに、森中に広がっているなんて。


っていうか。

アリシアって、ヒロインじゃないですか。

何をやっているんですか、ヒロイン。


「そうね。わたくしも、その花を見かけたことはほとんど無いもの。ここ数日で増えたのは間違いないでしょう」


心の中で叫んでいると、フェーリ様が涙を流すアズラート様の頭を撫でて慰めていました。

「忙しい両親に言っては迷惑になると思ったのでしょう?」

そうフェーリ様が尋ねると、アズラート様はレームス王から目を逸らして頷かれました。

「その気持ちはとてもよく分かるわ。わたくしもお父様やお母様に、お兄様がした悪戯とかを報告することは出来なかったもの。」

クロノスさん・・・。

昔から、あんな感じで騒ぎを起こしていたんでしょうか。



「精霊の司る場の力を得たか」

スコーピオ様が呟きました。

「え?」

「この森は、『地の精霊王』が大切にしている地だ。それだけ大地そのものに力が宿っている。その上、長年フェーリ様が司っている。精霊が宿るものはそれだけで力を得る。しかもフェーリ様は高位にあたる精霊だ。」

つまり、この森に生えたおかげで、ただでさえ強いバンムレットの生命力がもの凄いことになってしまったと?

た、大変じゃないですか。

「こ、このままだとどうなるのでしょうか」

「森は森とはいえない状態になるだろう。そうなれば、フェーリ様の身は危うい。」

「ど、どうすれば。」

いえ、どうすればいいかなんて一つしかありません。

バンムレットを駆除しなくては。

「わ、私、バンムレット用の除草剤を買ってきます!」

バンムレット対策に必要な除草剤は農家の必需品。森を出て村で聞けば誰かは持っているでしょうし、無ければ購入しに行けばいい。何処にでも売っているものです。


精霊であるスコーピオ様や、王族の方々にそんなことをさせられません。


立ち上がり、玄関に向かいます。

ですが、肩を掴まれ動きを止められました。

「待ちなさい。」

レームス王でした。

私のことを止めた後、肩に手を置いたままアズラート様に目を向けます。

「アズラート。」

「はい、父上。」

まだ少し浮かんでいた涙を拭い、アズラート様が私が開けようとしていた玄関を開けて、走っていかれました。

「あの子の方が森で駆け回ることは慣れている。それに、森の外に留め置いて来た護衛たちにも話を通しやすいし、森の傍の村なら顔見知りも多い。ここいらは、あの子の縄張りのようなものだからな」

優しく微笑むレームス王の顔は、良いお父さんといった感じです。

なんだか、ゲームの設定にあった遠巻きにされて孤独だったというものは無いようですね。御父様といい感じですし、顔見知りになれる程付き合いのある村人がいるのなら。

良かったです。子供が孤独を感じるだなんて、ヒロインと仲良くなる為のゲームの設定であろうと悲し過ぎます。




「うわぁぁああ!!!」


事態も忘れ、少しほんのりと和んでしまった中、家の外からアズラート様の悲鳴が聞こえてきました。


「何?」

「アズラート!」


悲鳴に驚き、動けないフェーリ様を覗く全員が外に向かいます。

元から外に出ようとしていた私が、一番玄関に近く、一番早い。


玄関を開け、森の中を走ります。


フェーリ様の家に行く時に通った道を戻り、お墓がある広場に着くと・・・



そこには、蠢く緑の蔦に絡められ、空中に浮かばされたアズラート様の姿がありました。


いえ、正直こういうジャンルも嫌いではないのですが・・・


しょ、植物が動くのって、この世界的にあることなんですか?

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