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   伝説

「話はすで聞いていますよ。貴女が出掛けている間のことは、しっかりと話を通しておきます。わたくし達の頼みで使いに出ているということにしておきましょう。

それにしても、『闇の御方』に好かれてしまうだなんて。精霊であろうと荷が重過ぎること。わたくし達に協力出来ることがあったら遠慮なく言いなさいね。」


王宮の奥深くに位置する『光の精霊王』の部屋へと向かう間、アウラ様が哀れみの眼差しを私に向けられ、慰めの言葉を下さいました。


ボロックソですね。

こんな風にまで言われるなんて、もう本当に不憫に思えてきました。

多分、自業自得なことばかりなのでしょうけど、プルート様の場合。無限にも近く存在する精霊は気が長いものが多く、自分の主以外の、他人の考えなど気にもしていない方が多いとされているのに、そんな精霊でさえ耐えられないって。




『光の精霊王』様の部屋に向かう唯一の廊下には、大小様々な、たくさんの肖像画が飾られていました。奥に進めば進むほど、年季の入ったものとなっていきます。最初の頃には気にもしていなかったので描かれている人物など見ていなかったのですが、服装や王冠を被っていることなどから、この方々は皇国の歴代の王族の方たちなのでしょう。

ということは、一番奥には伝説の初代様がいらっしゃるのでしょうか。


『火の精霊王』が加護を与えた火の民。戦いとかそういうものを好む『火の精霊王』に気に入られている彼等もまた血の気の多い性質だったらしく、火の民の歴史は周辺諸国との戦いの歴史そのものといわれている。そんな火の民との戦争に負けた小国の唯一生き残った王族が、幼い初代様でした。どうか国民たちだけはと助けて欲しいと泣き叫ぶ幼子の姿を見つけられた『光の精霊王』が気に入られ、手を差し伸べたとこの国で語られる伝説は始まります。

『光の精霊王』はご自身の城を亡国の跡地に下ろされ、初代様をそこに住まわせ育てられた。初代様の願いを聞き届け、亡国の国土に光の力を巡らせ、火に焼き尽くされた生命を育み、傷ついた人々を癒された。『光の精霊王』様のもとで成長された初代様は亡き祖国の後に国を作られた。それがトゥルネソル皇国。『光の精霊王』様のもとで蓄えた知識で良き国を建て、繁栄させ、亡き祖国の遺品を火の民から取り返し、皇国を大国へとのし上げた。人々に褒め称えられる賢王となった初代様の姿に、初代様を我が子と可愛がっていた『光の精霊王』は大変に喜ばれ、何か祝いの品を贈りたいと聞いた。すると初代様は物などは何もいらない。ただ、こうして普通の親子のように会ってゆっくりと話が出来ればそれが何よりも嬉しいのですと答えた。その言葉に喜んだ『光の精霊王』は初代様とその血に連なる一族に加護を与えられ

、彼等が治める皇国を護ろうと宣言する。そうして皇国は光の加護を受ける、光の民の国になった。


幼心に、皇王は上手い事言って『光の精霊王』の加護を得たんだなぁと思っていた。まったく可愛くない子供だ、我ながら。

昔の自分を思い出して、歩きながらも自分自身に呆れていると、廊下の最奥、一つの扉の前に辿り着いていた。その扉のすぐ傍に、一際大きな肖像画がある。

褐色の肌に金の長い髪。微笑みを讃えた整った顔立ちの壮年の男が描かれている。

「そちらは、御主人様の御子息グリース様ですよ。」

絵を見上げている私に気づいたアウラ様が教えてくださいました。

初代様とばかり言われるので、初めて名前を知りました。

「どんな方だったんですか?」

「そうですねぇ。御主人様の後を雛のようについて回って、御主人様に褒められたくて御勉強も武術も一生懸命に打ち込まれていましたね。そうそう、王となられた後に結婚をと話が持ち上がった時など、『母上のような女ならば』と言って、宰相たちに怒られていましたね。」

ま、マザコンですか?

伝説の初代様が。

っていうか『光の精霊王』以上の人間の女がいるわけないと思うのですが。当時の宰相閣下たちに同情を覚えます。

「もう大人になったのだから城はグリースにあげて出て行くわと御主人様が仰られてた時には、王位を捨てて母上と一緒に行きますと。あの時は流石の御主人様も驚いて説得なさって。説得しきれずに、御主人様は城に残られることになられて。御主人様が部屋に引き篭もると宣言された時、率先して快適に引き篭もれる環境を整えられたのもグリース様でした。皇王自ら御食事や暇潰しの道具を部屋に運ばれたりと。グリース様が当時としては長生きの末に亡くなられた時には、御主人様は100年近く落ち込んでいらっしゃいました。」

100年。精霊にとっては長くは感じない時間なのかもしれませんが、それだけの時間落ち込んでいたということは、それだけ初代様を愛していらっしゃったのですね。

「今でも、皇族にグリース様の面影を見出しては懐かしんでいらっしゃいますね。」


いいことを思いつきました。

冥府の裁判官の一人、初代様になって頂きましょう!

大国の王をしていたのです。判断力とかはばっちりでしょうし、何より光の精霊たちの後押しがあれば、『冥府』の話をより広くより早く定着させることが出来ます。

なんたって、癒しや再生の力を求めて遠方からも人々が訪れるほど、光の精霊は信仰を集めています。抱き込み商法作戦です。

となると、七つの大罪の内、どれが相応しいでしょうか。

色欲や暴食、怠惰、嫉妬は違う。

憤怒?『光の精霊王』様と出会われたばかりの頃なら当てはまる気もしますが、何か違いますよね。せっかく、人生全てが伝説として語られて知られているのですから、それに当てはまるものがいいですよね。

傲慢?私が幼い頃に持っていた感想でならそうかも知れないと思うのですが、アウラ様に聞いたものからはそんな感じは一切受けません。

ならば『貪欲』ですね。一生懸命勉学に励んだりするのも貪欲な行為ですし、『光の精霊王』の為に尽くしたところも母親の愛情を欲しがる行為ってことで貪欲っていう判断ということで。

一人でも有名人が入っていると、纏めての認知度もあがり安いものです。

この提案は後でクロノスさんたちに報告ですね。




「御主人様。リリーナを連れてまいりました。」

「入って頂戴。」

私が呼んだ書物によると、『風の精霊王』封印の事件以前から引き篭もりを始め、今生きている人間の中では皇国の皇族しか、その姿を拝見したことがないという『光の精霊王』ルーチェ様。

一体どんな方なのでしょか。

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