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   厄介な人が知りました。

本日二回目。

「こ、こんな話でどうでしょうか?」

用意されていた机に向かい筆を進めていた背中に向けられた『闇の精霊王』様の鋭い視線。そらされることのないその視線に嫌な汗をかきながら書き上げた『冥府』の物語。

他にも、少しだけ言葉が多くなり、距離をおく事がなくなった『闇の精霊王』様の指示で、『水の樹の精霊』『剣の精霊』『水路の精霊』という偉業を残して無くなった人々が精霊に生まれ変わったとする話を書き上げた頃に、クロノスさんが姿を見せた。

書き上げていた物語をクロノスさんに確認の為にと手渡し、私はドキドキと読み終わるのを待っていた。


「うん。いい感じじゃん。

じゃあ、ここに出てくる奴等を保管してある死者の中から選んで話を書けよ?

裁判するって奴とレテの老婆で最低9人。

地獄と楽園入れるなら11人くらいか?

王様だの傭兵だの、商人だの奴隷だの。あいそうな配置に頼むわ。」


レポートを提出した後の教師との会話とか、そんな雰囲気で待っていた私はクロノスさんの声にホッと胸を撫で下ろしました。

「あっ、『冥府の女王』っていうのも女の方っていうのだけ『闇の精霊王』様にお聞きしたのですが、そちらも書くんですよね?」

「そうそう。彼女ともう一人のも頼むわ。

この二人は前からチマチマ民話とかに話を流してたから微弱なんだが、すでに存在しているんだよ。

それで、書いてもらった話を新聞に流したら後は時間が過ぎるのを待つだけってことになるな。」

「し、新聞!!?」


し、新聞といえば世界中の地位持ちや富豪が購読して情報を得ることに使っているあれですよね。この世界で最大規模っていうか唯一のメディアじゃないですか!

印刷会社に勤めていたという転生者さんが、風の精霊が流す独断と偏見によって変質した情報でした遠くの出来事を知る術がない事に苛立ち、風の精霊王の支援と地の精霊王の協力を得て新聞会社を作られ、前世の印刷技術を復元し、風の精霊たちに新聞を運ばせることで世界中が同じ正確な情報を同じ時間に得られるようにしました。

本なども作れるということでしたが、本を読むなどというのは貴族の特権のようになっています。なにせ新聞の三倍以上の値がしますから。

もっと安かったら即売会にも活用するのに・・・・


「ゴシップ新聞の方にチマチマと掲載していく。

そうすれば、王侯貴族たちや精霊王たちには気づかれずに、民衆から認識を植えつけていけるからな。」

それなりな高値で定期的に購読する契約を結ぶしかない新聞は庶民には手が出せない王侯貴族などの情報源として使われています。

最近になって作られた、新聞の半額程度で街中で毎回売られているゴシップ新聞は、王侯貴族のアレでイヤンでオフレコな話が暴かれて掲載されることで庶民に爆発的な人気を得ています。どの世界でも、雲上の方々の下世話な話は民草の大好物なのは代わりないのでしょう。

掲載されるネタが、下世話で俗物なものが大半な為に、王侯貴族からは下品だのと汚物のように忌み嫌われ、手に取ることさえ嫌がられるそうです。そりゃあ、もしかしたら自分の秘密が暴かれているかも、自分より身分が上の人々の話を知ってしまって睨まれるかも知れないと思えば躊躇しますよね。


ん?

転生者さんが作った?


「まさか?」

「おっ気づいた?

もう一人の奴っていうのは、その新聞作った奴なんだよ。

俺達の大切な仲間で友人だ。」


これは、もしや・・・

手書きな上に自分で紐を使って閉じている今の創作活動脱却!のチャンスでしょうか!

人海戦術で書き写しまくった数冊、それだけしか即売会で販売できない状態から脱出できれば、同志が増える程に競争率が上がる状態がどうにか出来る!

あぁ、欲しい本を手に入れられず、悔し涙を何度も飲んだことでしょう。

本にしてくださいなんて我侭は言いません。せめてコピー誌に出来たことなら、悔し涙と腱鞘炎の日々から多くの乙女たちが開放されることになります。


「やりましょう。

一刻も早く、話を書き上げましょう。

早く御友人に精霊となって頂いて、是非とも印刷技術をお貸し頂きましょう!」


「やだ。積極的!

欲望駄々漏れだぞ?」


抱きつかんばかりの勢いでクロノスさんの手を握りしめ詰めよった私の顔には、考えている野望がありありと漏れでいたそうです。

クロノスさんが苦笑いを漏らしていらっしゃいました。


「分かった。分かった。

二人の所に案内して紹介するから、ちょっと手離せって。」


痛ぇって、色々と



ギュッと握り締めていた手を振りほどかれ、ヒラヒラとわざとらしく痛みを主張されました。

けれど、色々と漏れ出している心の中でヒャッホーイな状態の私は気づいてはいませんでした。


色々と と仰ったクロノスさんが、一瞬驚いた顔を私の後ろの方に向け、そしてニヤニヤと笑っているのにも。


少しだけ、空気が重くなっていたことも。


源氏物語が人海戦術の手書きで書かれたと聞いた時、絶対全員が腱鞘炎になったのではと、いらんことを考えました。

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