そして始まる『うっかり』
ですが、そんな理由でその名前にしたというタグさんとその方の、転生前の世代というものが何となく分かってしまいました。
ギリシャ神話をモチーフにした漫画を読んでいた世代ですね。
冥王が良い奴として出てくる漫画だってあるんですけど、ピンポイントでそれですか。確かに、諦めの悪さとかはまぁ、『闇の精霊王』様と被るところありますけど。
「本当に、仲がよろしいのですね。」
最愛の御方を想って、うっとりとしている『闇の精霊王』様には、それしか声を掛ける言葉が見つかりませんでした。
やっぱり、色々ゲームの設定とは違う箇所があるとはいえ、『闇の精霊王』様は『風の精霊王』に粘着系ヤンデレしていたゲーム設定とそう変わらない方なのですね。
「計画の為に、長い付き合いをしてきたからね。
世界を守る為に、
彼女を封印から解放する為に。」
あぁ、やっぱり『闇の精霊王』様の目的はそれですか。
世界を救わなくてはって感じの方では無かったと思っていたのですが、封印されている『風の精霊王』の為というのならば、納得です。
最終局面でも、そんな台詞ありましたし。
-封印が解かれたら、彼女と二人っきりで過ごすのもいい。
-世界が壊れる?なら、彼女とのひと時を邪魔するものがいなくて幸せじゃないか。
「あっ、でも確かに、あの神様と『闇の精霊王』様は似ていらっしゃるかも知れませんね。」
うっかり口に出してしまいました。
どんな事態でも『風の精霊王』を想っている姿は、傍に居て詳しくを知れば恐怖を覚えるものですが、遠くから見ていると羨ましいくらいの一途さに見えなくもありません。
そんな姿が、かの神と通じるような・・・
実は好きな神様なんですよね、冥王ハデス。
いや、だってギリシャ神話ってゴシップ誌並みに俗物で面白いものでしたし、その中のハデス神って唯一知られている話が衝撃的過ぎて印象強くて、面白くって。
って、何口を滑らしちゃってるんですか、私ったら。
友人だからこその気安さな意見を、名前を呼ぶことも許されていないような小娘が言ったら、ただの悪口ですって。
しかも、うっかり口を滑らしたせいで、まるで『闇の精霊王』様が根暗とか粘着質とかを肯定してるみたいになってますし!!
「タグさんとその方が言っていたイメージは、神話自体じゃなくて、後世の創作でのイメージなんです。
神話自体に出てくる本来の名前をハデスと言う神様は、二人の弟と三人で世界を分けて、冥界を治める神様なんです。その神話の特徴というのが神々の人間臭さなのですが、男の神々が俗物で愛に奔放な方が多い中、唯一そういった話を残さない方なんです。たった一人の奥さんを大切にして、結婚時の契約で年の半分を一緒には暮らせないのに、奥さんとは仲睦まじい様子が神話には描かれていました。」
一緒に音楽を聴いたり、奥さんの為に冥界にポプラの木を植えたり、奥さんの頼みで死者を甦らせたり、
たった一度しか主として描かれた神話がないハデス神でしたが、他の神々の神話に垣間見る冥界の様子はギリシア神話で唯一マトモな夫婦だなと思ったものです。
唯一の神話が略奪婚でロリコンで、連れ戻されないように策略を巡らせるという衝撃的過ぎなものでしたけど。
「そういう愛情深くて一途な所が、『闇の精霊王』様に似ていらっしゃる気がします。」
世界中がヒロインに味方するのが当たり前な世界でラスボスの『風の精霊王』に味方し続けたのも、彼女に対する愛が深いからってことですし。
今も、封印を解く為に動いていらっしゃるし。
お怒りを回避しようと言い訳がましい説明を言葉にしていくと、段々と早口になっていきます。
「申し訳ありません。知りもしない癖に、勝手なことを言ってしまって。」
これ以上、言葉を重ねれば支離滅裂なことを言い出しそうなので、静かに頭を下げておくことにします。
「別に、かまわない。」
よし、お怒りではない様子ですね。
「一途、か・・・初めて言われたな・・・」
その声は小さすぎて何を言っているのかは分かりませんでしたが、なんだか不穏なものが聞こえたような気がしました。
ゾクッ
いえ。
いえいえ。
どうしたんでしょうか。
何だか、嫌な予感がするような。
実は、秘かに怒ってらっしゃるのでしょうか?
奥様一筋な冥王ハデス。あの弟たちと比べるのでマトモに見えますよね。
まぁ、実は一回浮気してるらしいですが・・・




