あこがれの世界
高鳴るモーターの駆動音。
甲高く鳴り響く金属音。
それらの音源には2台のヒューマノイド。
ウィルパワードギア、通称WPGと呼ばれるそれらは、闘争心をむき出しにしてコースを駆け、お互いに衝突を繰り返す。
そんな光景に、一人の少年は魅せられていた。
「"ハナビの兄ちゃん"!すごいね!」
興奮した様子で少年は隣にいる青年に声をかける。
「そうだろそうだろ!?気に入ってくれると思ったぜ」
"ハナビの兄ちゃん"と呼ばれた青年は、少年が目の前の光景に興奮している様子を見て、満足げな表情を浮かべている。
「ハナビの兄ちゃんもあれに出るの?」
少年は目の前の光景を指さし、"ハナビの兄ちゃん"に問いかける。
「おう、もちろん出るぜ。もう少し後だけどな」
「すごい!ハナビの兄ちゃんもあれやるんだ!」
少年は興奮を抑えきれずにいた。
ただでさえ魅力的な光景なのに、そこに知り合いが登場するとなればなおさらである。
「オレが出るときは応援してくれよ?」
"ハナビの兄ちゃん"はウィンクしてそう言った。
「うん!絶対応援する!」
少年は大きくうなずいた。
「お、もうすぐ山場だな」
「どっちが勝つんだろ?」
「今のところ互角だな。最後までわからん。いい試合だな。」
少年と"ハナビの兄ちゃん"はそう話しながら、目の前の光景にのめり込んでいった。
そして、試合が終わったあと、
「・・・ぼくも出られるかな」
少年がポツリと呟いた。
"ハナビの兄ちゃん"は少年の頭に手を置くと、
「もちろん出られるさ。その気持ちがあればな」
と少年に言った。
少年はその言葉を聞いて、
「ぼく絶対に出るよ!いつかハナビの兄ちゃんと勝負する!」
と力強く言い切った。
「楽しみにしてるぜ」
"ハナビの兄ちゃん"がそう言ったとき、携帯の着信音が甲高く鳴り響く。
「・・・はいもしもし。あ、そろそろ時間か。すぐ行く」
"ハナビの兄ちゃん"は通話を切り、少年の方を向くと
「じゃあ行ってくる」
と行って会場の出口へ向かった。
「頑張って!」
少年がそう言うと、
"ハナビの兄ちゃん"は振り返らずにサムズアップして立ち去った。
少年にはその後ろ姿が大きく、輝いて見えた。