Ⅰ・異世界
雄大な平原――大自然が作り出した緑野は地平の向こうまで果てしなく広がっている。
澄み渡った空――渡り鳥たちが突き抜けるような尖った角度で編隊を組み、鮮やかに飛翔している。
強烈な日差し――4月半ばにも関わらず、生い茂った植物の隙間から燦々と焼き降り注がれる、焼き付けるような陽光。
生態系は様々な色模様を写しだし、幻想的な光景を織りなしていた。
一際目立つのが、走り回る猫の群れ。どの個体も首輪がついていない。恐らくは野良なのであろう。時折のぞかせる餓えた視線からは「餌をくれ」と幻聴が聞こえるほどだ。
その広野の中で異質な雰囲気を醸し出し、ゆったりとしたペースで歩いていくビジネススーツ姿の若い男性が2人。両名とも、ただ黙々と歩を進めていく。
小野寺正志<おのでらまさし>25歳――短く刈り上げた髪と長身がスポーツマンを想起させられる。爽やかというよりはどことなく暑苦しさを醸し出す熱血漢。
彼が東京都豊島区に本社を置く㈱相羽総合サービスに入社してから3年、この春めでたく主任に昇進したばかりの若手営業マンである。
営業主任として初めての長期出張業務、初めてできた直属の部下との同行営業、そして生まれて初めて足を踏み入れる土地。
その目に映るもの全てが新鮮で、何もかもが眩しく輝いて見えていた。
「なぁ、倉田」
「どうしました主任?」
奥能登観光ガイド、と書かれた冊子を片手に正面を見たまま後方を歩く部下――倉田信也<くらたのぶや>へ問いかける。
小野寺は時間にして一時間弱、この圧倒される光景に心を奪われていたが、徐々にこの異質な現象が疑問として頭の中を占めていき言葉として吐き出す。
考えるよりも先に口が勝手に動いていた。
「今俺たちが向かっている鵜飼って場所、海辺の町だったはずだよな」
「やだなぁ、地図ちゃんと見てくださいよ。出発した上戸町から隣の宝立町まで海岸続きじゃないですか」
入社間もない新卒である倉田。小野寺とは逆に成人男性平均を下回る小柄な背丈だ。
目にかかる長髪が表情を隠し、おっとりしたマイペースな性格をやや不気味なものへと変質させている。
抑揚のない声で、上司への問いかけに即答した。
「それは知っている。というか地図見ながら先導していたのは俺だ」
「ええ」
「営業車も納品待ちだし、最初の一件目は街の空気を掴みたいから歩いて行こうと言ったのも俺だ」
「そうですね」
「海辺も見慣れたし、ちょっと能登鉄道跡地を歩いてみようと内側に道を変えたのも俺だ」
「だったら――」
「――だが、なぜ!」
直属の部下、倉田の言葉を遮り、語気を強め後ろを振り向きながら叫ぶ小野寺。
「なんで! どうして! こんな秘境訪問番組も真っ青な大平原が広がってんだよ!?」
「どうしてと私に言われましても……」
「お前、地元こっちだったろう、説明しろっ!」
「いやいや、私は金沢出身です。加賀の人間でも意外と能登方面はさっぱりなんですよ――ですが、状況だけに限って言えば説明は出来ると思います」
予想以上に冷静な倉田を見て、小野寺は自分が道を間違えただけたったのだろうという考えが一瞬心の中をよぎった。
だけど加賀とか金沢とか石川県は石川県だろう、何が違うんだというどうでもいい疑問をぐっと抑えこむように質問を続ける。
「あの空を泳いでいる体長2-3メートルはあるだろう鳥……っつか猛禽類はなんだ?」
「知りません」
「俺たちを囲んでいる馬鹿でかい猫……ってか野生獣は?」
「怖いですね」
「石川県では空に太陽が2つ浮いているものなのか……ここはナメック星か!?」
「あれは3つなので、アニメでいうとダグなんたらやらシムなんたらですね。まぁ地球ではなく異世界ではないでしょうか」
冷静な声で回答する倉田。その落ち着きぶりに上司として立つ瀬がないと恥じつつも、心の中でその言葉を反芻する小野寺。
知らない、怖い、地球ではない――
未知、恐怖、異界――
予想外どころか、あり得ない。思考が停止する。
「…………」
「あのー」
「…………」
「もしもしー」
「…………」
「主任~、小野寺主任~」
「…………」
たっぷり30秒ほど停止してから、オーバーなアクションで呼びかけている部下に意識が向く。
倉田にしては珍しい狼狽ぶりだ。意外な上司への気遣いを嬉しく思う。小野寺は軽く頬を叩き、これ以上心配かけまいと気を引き締めた。
「あぁ、わかった。わかった、俺も冷静になるからそんなに騒ぐな」
「いや、でも……」
「わかったと言っているだろう。大分落ち着いた」
「ぇ、あ、はい……」
「それで地球ではない、というのはどういう意味だ?」
未だ心配してくれているその視線に対し心の中で礼を述べ、一番の疑問を問う。
「はい、えーと、いくつか理由はあるのですが」
歯切れ悪く、小野寺と目を合わさず俯きながら倉田は呟いた。
自分自身でも余程突拍子もないことだと思っているのだろう。
「先ず、野生動物が言葉を話しています」
「へ?」
先ほどから聞こえていた、「餌をくれ」とか、「腹減った」とかが、幻聴ではないことに気付く。にゃーにゃー、でも、がるるるる、でもない。
あり得ない――という言葉を飲み込み、平静を装う。
小野寺は若干眩暈を感じ、頭がクラクラしながらも続きを促した。現状把握が最優先だ。
「それより主任、脚噛まれてます。めちゃ血が出てます」
「早く言えよ! どおりで貧血っぽい症状なわけだ!」
「……言おうとして遮ってたのは主任なんですが」
◇◆◆◆◆◆
「それでだ。ただ猫が喋っただけでなんで異世界なんだ?」
止血し、包帯を巻きながら小野寺は何事もなかったように尋ねる。
「猫が喋るのも只事ではないですが、まぁいいいです」
切り替えの早さに呆れ半分も驚きつつ応急処置を手伝っていく。
目を閉じ大きく息を吸い込む倉田。
そっと吐き出すと同時に静かに語り始めた。
「この平原に着いたあたりでしょうか。ふと私の目の前にありもしないような表示が浮かび始めました」
「ありもしないような表示?」
「はい。左上に日時と見慣れない単語。そして先輩や大型動物と重なるようにして、バリエーションがいくつかある色付きのグラフがハッキリ見えます」
「嘘……ではなさそうだな。日時は良いとして、その単語ってのと、グラフは何なのかわかるか?」
「ええ、単語は恐らく地名。今は『アルバディア東平原』と表記されています。そしてグラフは――色は現状の感情そのもの。長さはいわゆる感情値でしょう」
倉田の説明によると、怒りは赤、焦りは青というように色が変化し、その強弱の度合いでグラフも大きくなるとの事。ここ数分間の小野寺とのやり取りで検証していたらしい。
「にしても良くそこまで冷静に分析できるもんだな。俺だったらワケわからないまま放置していたぞ」
「ぇぇ、まぁ。……ゲームなんかで良く見慣れているもんで」
「ゲーム?」
小野寺は子供の頃やっていたRPGやアクションゲームを思い浮かべる。HPやMPのメーターみたいなものだろうと思う。しかし日時表記や感情変化とやらについてはいまいち実感が湧かなかった。近年テレビCMで流れるようなゲームと自分の知識はかけ離れているだろうし、自分の感性が古いだけだろうと割り切った。
「倉田。俺も同じ頃合いだろうか、ちょっとした変化があったのだが何か関係あるだろうか?」
「はぁ、なんでしょう?」
「グラフとは違うようだが、自分や周りの動植物が妙にピカピカ光って見えるんだ」
「光って……ですか?」
顎を掌で包み込むように思案する。倉田の想像では異世界に飛ばされた時に付与された、ご都合主義的に与えられた異能力であるとほぼ確信できていた。それが小野寺の場合――
「――定番だと魔力……いや、主任のような熱血バカタイプ……多分戦士系だよな――――」
微かに漏れ出す熱血だのバカだのの小さなブツブツ声に反応し、小野寺のこめかみが小刻みに震えている。
倉田はその様子に気付くことはない。幾つか想定した候補を試すため、付近の岩場を指定し手順をゆっくり伝える。
「主任、先ず身体の一部……右手辺りに意識を集中してみてくれませんか?」
「お……お、おう!」
小野寺は指示されたように右拳をぎゅっと握り、凝視しながら意識を向ける。
その瞬間、身体を包んでいた淡い光が右手に集まっていき、蛍光灯のように輝きはじめた。
「おおおおぉぉぉ、なんかすっげー光ってる!」
「ほ、本当だ。さすがに凝縮すると肉眼でも確認できるようですね」
まさか、ここまで予想通りであるとは倉田も考えていなかった。興奮しながら次の手順へ進ませる。
「そのままその岩を殴ってみてください」
「え? やだよ、痛いっていうか、怪我するだろっ。いい大人が岩殴って怪我なんて恥ずかし過ぎるって!」
「いいからいいから、話が進みませんよ。ゆっくりと軽くで良いです」
言われるままに、小野寺は拳を痛めつけないようゆっくり岩を叩きつける。
直径1メートルもある大岩と拳の間に気流が生じる。
クッションが挟まっているかのように柔らかい感触。そして直後に強い反動が生じていき、殴りつける速度に合わせ岩が徐々に動き出す。
そして小野寺の身体全体に衝撃が伝わっていく。バットの真芯にボールが当たったようなスッと抜けていく感覚。
そのまま――
――岩が場外ホームランの如く遥か彼方に飛び去っていく。
何の前兆もなく生じた静寂を打ち破る一瞬の轟音に、鳥も獣も恐れ慄き一目散に逃げ去っていった。
「…………」
「……やはり物理格闘系ですか」
「や、や、や、ややややはりって!? ななななななに、い、いまのなに!」
「私も少々驚きましたが、漫画とかでよくある『気』みたいなものでしょう」
「気ってあれか、カメハメハとか?」
「そうです、そういうヤツです」
「なんで、おかしいだろ、ありえないって!」
「理由は知りません。が、私のありえない現象も含めて考えると異世界に来た特典みたいなものでしょう。お約束ってヤツです」
「意味わかんねーよ!」
◆◇◆◆◆◆
倉田の目に浮かぶ小野寺のグラフ。めまぐるしく変わる色の変化が一定となり、飛び抜けていた長方形が視界に収まりはじめた頃、ようやく小野寺も落ち着きを取り戻す。
「あーびっくりした」とか「なんだよまったくー」などと文句を垂れながら猫の群れも再び集まりだしている。
「すまん、取り乱したようだ」
「大丈夫です、正常な反応だと思いますよ」
「とりあえず、そのアルなんとか平原……聞き覚えはないのか?」
「『アルバディア』ですか。さぁ、ゲームや小説でも知りませんし、しいて言えば風俗店とかっぽい名前ですよね」
「……そ、そうか。こういう場合、ゲームや漫画ではどんな対処をしているんだ?」
「先ず荷物確認ですね――特に時計や電子機器などの状況を重点的に確認しましょう」
倉田はそう言って、腕時計を外し、鞄から携帯電話、スマートフォン、携帯ゲーム機、携帯ゲーム機、携帯ゲーム機、携帯ゲーム機、携帯ゲーム機、携帯ゲーム機、音楽プレイヤー、デジカメ、タブレットPC、その他何に使うのか分からないような機械を次々と取り出していく。
小野寺は続いて、腕時計を確認後、スーツのポケットから携帯電話、鞄から電卓とノートブックを取り出す。
「主任……腕時計以外会社支給品だけですね」
残念な男を見るような目を向けてくる倉田。
「お前は携帯電話以外全部私物なんだな……」
もっと残念な男を見る目で返す小野寺。
二人はそのまま目を合わせず所持品を調べ始めていった。
「……しまった! 今日は『つり大会』の日なのに通信が出来ないとは」
「倉田。業務時間中のゲームは禁止な」
「はー?」
「『何バカな事言ってんだコイツは』みたいな顔してこっち見るな、至極当前のことだ!」
倉田は不承不承3Dタイプの携帯ゲーム機を閉じ、作業を続ける。
そして経過すること10分。2人は全ての機器の確認を終え、結論を見出した。
「電池やメモリは異常ありません。通信はほぼ絶望的ですが、アドホックなど機器同士の接続は問題ありませんでした」
「つまり」
「私の予備のPSminiを主任に貸すことで一狩り行けますよ、一緒に獣素材を剥ぎ取りまくりましょう」
「意味は分からないが猫の皆さんがブルブル震えだしているぞ」
「まとめると、電話やネット、GPSなどを除けば通常の稼働は可能ということになりますね」
「逆に言うと助けは呼べない、か」
「幸いなことに近くに集落があるそうなので、本日はそこに泊めてもらいましょう」
「教えたのオレねオレ、エッヘン」と言いながら小野寺の昼食のおにぎりを啄む大型三毛さん。
いつの間にコミュニケーションを取っていたのだろう。
「現地人……。まぁ、猫と意思疎通が出来る時点で言語問題なんかは楽観できそうだが、危険はないのか?」
「我々は目立った武装をしているわけでもありませんし、主任がさっきみたいなバカ力を披露しない限りは警戒されないでしょう。万が一敵意を感じたら、私の能力で察知し、主任の能力を盾にすれば大丈夫です」
「バカとか盾とか酷い言いぐさだが了解した。他に気を付けることは?」
「そうですね、我々が地球から来た、というのは隠した方が無難でしょう」
小野寺はその発言を聞き、目を細める。
「ちょっと待て」
「はい?」
何かおかしい事を言っただろうか。異世界モノではこれも鉄板の警戒だ。
「『地球から来た』のを隠すだと?」
「ええ、私たちと同様の来訪者が希少だと仮定すれば現地人にとっては不要の混乱を招くだけでしょうし」
「それはいい」
「はぁ……では?」
小野寺は一拍空けて疑問を口にする。
「お前、違う星に行ったことあるか?」
「あるわけないです」
「だよな。じゃあ海外は?」
「旅行で数えるほどですがあります。それが何か?」
「海外で現地の人に『どこから来たの?』と聞かれたとき、普通は『日本から』と答えるだろう」
「そうですね」
「それは自分の住む国から違う国に行ったという自覚が自分自身にあるからだ。欧州に行って『東の方から来た』なんて言わないだろう」
「ええ、まあ」
「仮に月や火星に行ったときに、誰かから『どこから来たの?』と聞かれたら『地球からです』と答えるのは分かる。俺もきっとそう言うだろうな」
「はい」
「じゃあ、異世界はどうだ?」
「だから地球と……」
「バカか! 地球は惑星であって世界名称じゃないだろう!」
「…………!」
「いいか、異次元世界に対して我々の住む三次元世界の共通呼称など存在しない」
倉田は考える。国の名前、大陸の名前、星の名前は分かる。宇宙の区分や銀河系の区分もいい。だが次元全体の共通名称はあっただろうか。漫画や小説などで「四正国と呼ばれる異界」「ここは異世界ハルケギニア」なんて言うが、神様も上位存在も超文明もない現実でだれがそんな名前を付けるのだろう。少なくとも自分が存在するこの世界では分かりかねる。
「えー、お話しは分かりました。それではどんなスタンスで行きましょうか?」
「そうだな。俺が思うに、『この世界は異世界○○です、貴方はどこの世界から来ましたか?』とか『ここは▲▲星だ、お前はどこの星から来た?』なんて、やり取りはまずないだろう。グローバルな価値観を通り越していかれている」
「はぁ」
「つまりは相手側からしても、異次元から来ただの異星から来ただの言われたところで、頭がおかしい奴と思ってくるハズだ」
「そうかもしれませんね」
「無論、俺だって生まれてこの方、外国人に対して『ここは日本だ、あんたはどこの国から来た』なんて言ったことはない」
「村人Aっぽい台詞ですね」
「せいぜい、外国人に対しては『日本へようこそ』……これでも客人への歓迎向けだな。身近で考えるなら『わざわざ東京まで来てくれてありがとな』とか『どうだ、椎名町も良い飲み屋いっぱいあるだろう?』とかだ」
「つまりローカルで行けと?」
「焦るな、TPOを弁えろ。つまり集落の人間が俺たちに対して、強く外国人と認識する……つまり単一民族で構成され、身体特徴が国籍を決める材料となる場合。その時の俺たちは外観だけで異国から来たと見なされるだろう」
「逆に色々な人種が混ざり、我々アジア人種に近い種族も存在し――言語も同じであれば、訪問客に尋ねるのは『どこの国から来た?』ではなく『どこの町から来た?』となるわけですか」
「そうだ。後は相手の立ち位置や規模だろう。町人には町を、都市部では都道府県を、国の場合……役人なんかにつかまった場合はこの国の人間でない俺たちが何を言っても異国の者だと分かる、素直に国を名乗ろう」
「そうなった時はこっちの旅券や査証に値する物を持っていない我々はお縄につくことになりかねませんね」
「そうだな。ただし我々が気にしなければならないのは非常識がばれた場合の混乱ではない、身の安全だ。コソコソ細かい隠し事しているような不審な態度が一番心象に悪い。ただ旅行者が自分の知らない地名を名乗っただけで後ろ指は指されんだろう。そんなことするような狭量なヤツらだったら全力で叩き潰すまでだ」
堂々と言い切ると、小野寺は足早に集落へ向けて歩き出す。
倉田は慌てて広げている携帯ゲーム機を鞄に詰め込み後を追った。
◆◆◇◆◆◆
「遠路はるばるよくきなさった客人。西平原バノン村のゲインと申す」
「豊島区南長崎から来ました小野寺です」
「北区堀船の倉田です」
倉田の好感度メーターを見ずとも、この目の前の壮年の男性は友好的なのが分かる。見た目もうっすら白髪の入り混じった50歳前後の土方のおじさん、いたって普通だ。知らない土地から来た来訪者を純粋に歓迎している。小野寺は宿の交渉、文化や商業などの情報収集を丁寧に訪ねていきながらメモを取り始めている。そして出されたお茶を片手に身近な世間話に大いに盛り上がった。
小野寺は思った。みてみろ倉田、やはり異世界とはいえ常識は通じるではないか。カッコいい上司の姿に心酔しているのではないか? いくら落ち着いているとはいえ新卒の倉田はまだまだ経験不足だ。俺が面倒みてやらないと、と。
倉田は思った。想像以上にカッコ悪い名乗りとなったが、案の定異世界は異世界だ。金髪の白人や屈強な黒人もいれば、目の前の男性のように我々とさほど変わらぬ者もいる。それはそれでいい。だけど獣耳や鱗肌、有翼や異形の人種もいるかもしれない……その時、この人は受け入れられるだろうか。そしてさっきから主任の右ポケットにしまってある携帯電話がマナーモード状態で振動し続けているんだけどどういう事だろうか、まったく気づく様子もないほど話に夢中になっている。この猪突猛進で熱血漢、まったく想像力の欠片もない上司をしっかりフォローできるのは自分だけなんだろうな、と。